今回は「裏会報シリーズ」の番外編を。
「はじまりのla」の「夕焼け」をオリキャラ視点で。






失恋初日

 

 

 

私の名前は、野上加奈。

この春、大学を卒業して図書隊に就職を果たした。

私は本が好き。本が並ぶ図書館が好き。

純粋に、その気持ちだけで図書隊員になることを決意した。

 

私みたいに、こんなに純粋な気持ちでこの仕事を選んだ人っているのかしら?

図書隊の仕事は危険だから、って敬遠されていることは重々承知。私はそんなこと気にならないくらい、本を守る仕事をしたいって思ってるの!

確かに私は体力に自信ない。だからきっと業務部ってとこに配属されると思う。

メディア良化委員会の検閲と戦うのは防衛部らしいけど、第一線で戦えなくても本は守れるものね。逆に普段、本のそばで仕事出来る業務部の方が、きっと本を守ることが出来ると思うの。

だから頑張るの!!

 

 

そんな固い決意をして臨んだ入隊式。

関東図書隊の入隊式は全国的にも一番規模の大きいものなんですって。

新人育成期間を経て、関東圏の準基地や小さな図書館まで、それぞれに配属される。

私の希望は武蔵野第一図書館。最悪、第二図書館。どうか希望が通りますように!

あまりに新入隊員の数が多くて、配属に不安が募る中、私はある人たちを見つけた。

 

 

 

その人たちは、私の席から左斜め前に座っていた。

式典案内を見ると、その席は今年度の新人育成担当教官たちの一列で。

一番末席とその隣。その列がどんな順番で並んでいるのかなんて分からないけど、こういう時って立場の上の人が上座だったと思うのよね。だから、末席にいるこの二人って図書隊で言う階級で下の方の人なんだろうって。

よくよく上座へ視線を動かして確信した。明らかにあの二人は若いわ。

 

何が気になったって、式典中の表情。

時々視線がこっちに向いてるように感じたの。

で、その表情がもう!

優しい笑顔ってこういうのを言うのよ!ってくらい蕩けるような優しい笑顔と、時々少し心配そうに上半身を動かして何かを探すような仕草。

その人の隣りの人もかなりのイケメンで。やっぱり会場の後ろの方を見ながら、ふわりと笑ったりするし。隣りの人のこと肘で突いて吹き出しそうになってるし。

見てるだけで仲が良いって伝わって、そしてとにかく嬉しそうで。

二人のところだけ空気が違って見えた。

 

 

 

後で聞いたら、私の近くにいた新人の子(特に女子)は、みんな気付いていて目がハートになってたんだって!

 

なーんだ・・・

みんな図書隊に何しに来てんの?って感じよねぇ・・・

 

 

 

 

入隊式は粛々と進められて、もうすぐ教育隊の指導教官紹介になる。

ずっと気になって見ていた二人が動く姿が楽しみになっていて、司令の有難い訓示とか祝辞なんて耳に入って無かった。

 

ワクワクしながら待っていると、二人がヒソヒソと耳打ちしてる姿が目に入った。

話しながら、視線は会場後方。小さく頷く事数回。

 

そして微笑んで目を閉じ、顔を上げた時には鋭く光った眼をしていた。

 

さっきまでとは別人。

纏う空気も変わった気がする。

隣りのイケメンさんも深呼吸したら同じような眼になった。

 

――どうしたんだろう?

 

 

 

ワクワクにドキドキも加わったところで、指導教官の紹介となった。

あの人たちも起立して、演壇の前に整列するために歩き出す。

 

ずらりと整列した教官たち。

私が気になっていた二人は右端で、背筋を伸ばして綺麗な立ち姿だった。

比較的小柄な教官は、名前を堂上篤といい、防衛部の中でも精鋭揃いの特殊部隊所属だと紹介された。

もう一人の教官も同じ。名前は小牧幹久。二人とも二等図書正だって。

新人にとっては雲の上の存在だなぁ、なんて考えていたら、教官紹介はあっさりと終って列のまま自席へ向かっているところだった。

でも、小牧教官だけは後退して、幹部席へ向かった。

会場のみんなが「ん?」って思ったみたい。

その時―――

 

 

「煙幕だっ!!」

 

声がした方に顔を向けたけど、一瞬にして演壇付近は真っ白になっていて、そこに誰がいるのかさえ確認できなかった。

前方から椅子を薙ぎ倒して逃げ惑う足音が響いてきて、段々と緊迫した状況だと認識し始めた。

 

自分は何をしたらいいのか、すっかり頭の中も真っ白になってしまって、立ち尽くしていること何分くらいだったのだろう。

会場前方を占拠していた煙が、少しずつ薄くなってきたかと感じたころ、窓際の方からひと際澄んだ声が響いてきた。

 

 

「確保――――っ!!」

 

そして、演壇の方からも声がした。今度は女性のようだった。

 

「確保―っ!!」

 

 

 

煙が引いてきて人を認識した時は、心臓が高鳴った。

それは、演壇の脇で男を取り押さえる堂上教官と女性隊員。

二人は一瞬、顔を見合わせて微笑んだ。

 

――あれ?

 

胸がツキンっと痛かった。

それが何なのか考える時間は与えてもらえなかった。

会場中央の窓際から、びっくりするほど大きな声が地を這って聴こえてきたから。

 

 

「そこまでだ。堂上班!見事な捕り物だった!」

 

それは幹部の末席から。

パンパンっと拍手して立ち上がると、満足そうに豪快な笑い声をあげた。

それに続くように、車椅子の稲嶺司令が堂上班と呼ばれた人たちを労った。

すると、堂上教官と小牧教官と二人の隊員は、司令に向かって敬礼をする。それはそれは綺麗な姿で、うっとりと見入ってしまった。

私の周りからは拍手する人も居た。

 

前の方にいた新人男性から「あ!逃げる!」と声が上がると、先ほどの豪快な笑いを響かせた幹部から「余興だ!」と楽しげな声が発せられた。

 

「これが日夜訓練に明け暮れ、本と図書隊員の命を守っているタスクフォースの姿だと、一番分かりやすい形を取ったんだが。臨場感あっただろう!」

 

タスクフォース・・・図書隊員の命を守る・・・

 

「臨場感って。隊長!こんなとこで煙幕まで用意して!何考えてんですかっ!」

「がはははは!ま、そう怒るな堂上。お前たちも最近、班として動いてなかったからいいリハビリになったろ?」

 

豪快に笑う人が隊長で、それに咬みついてるのが堂上教官?

 

「何の相談も無く、いきなり手の込んだこと始めるの、いい加減やめてください!」

 

 

―― え???

 

   相談無く? 

   余興って言ってたけど

   堂上教官たちは知らなかったってこと?

 

 

私の疑問は会場全体の疑問だったみたい。

そしてそれに応えるように隊長と呼ばれた人は、堂上教官に今起こったことを説明するように命令した。

綺麗な敬礼をした堂上教官は、少しだけ不本意って顔をした後、ド素人には到底追いつかない内容を簡単に説明してみせた。

 

 

 

 

それが、図書隊員新人の私が堂上教官を初めて知った日の出来事。

 

 

 

◆◆



翌日、新人隊員は錬成育成期間が開始され、さっそく防衛座学で午前中をみっちり講義に充てられていた。

長い時間、大講堂の椅子に縛り付けられるのは嫌で堪らなかったのに、目の前に堂上教官と小牧教官が並んで話始めると、全員が期待に胸を膨らませて聞き入ってるのが分かった。

 

昨日の余興で見せた捕り物について、始まりから詳しく説明されると、ところどころ理解できない部分があった。

それは、教官たちと、部下であるらしい二人の士長が離れていたにも関わらず「相談」したり「見解が一致」したり、配備を「知らせ」たり「了承」したり。

一体、どうやってそれらのことをやっていたのか・・・そこが一番知りたいところだった。

 

説明が終わって、質問があるかと尋ねられて、私の席の右並びにいた隊員が手を挙げて質問した。

私が疑問に思ってたこと、そのまんまの質問。

 

教官たちは、なんだか照れくさそうに答えていた。

その様子に胸が高鳴る。

 

「ま、平たく言えばハンドサイン・・・だが。俺たちのは、普段一緒に行動している班員ということもあって、俺たちにしかわからないサインもあるんでな。ここで詳しく教えられないのと、教えても使えないものがある。それに今回はイレギュラーなことも多くて、サインにないものも無理矢理サインにしたし」

「そう。それでも読めちゃうのは、まあ、普段から一緒に訓練してるからってのもあるんだけどね。相手がどういう人間か、ちゃんと知れないと、有事の際の咄嗟の読みって難しいからね」

 

それって、日頃から親密な関係性を築いていないと出来ない技だということね。

お互いに考えてることが分かるくらい、知っているって・・・それはある意味告白のようで、聞いてて恥ずかしかったけど、言ってる方も恥ずかしかったみたい。

 

少し耳を赤くして話す堂上教官。それを楽し気に見ている小牧教官。

この二人の関係性も昨日から見ていて、親密さが伺えた。

 

なんだか素敵。特殊部隊、なんかいいなぁ・・・

 

なんて呆けていたら、特殊部隊の別の教官が衝撃的なことを言った。

 

「堂上班の笠原と手塚は、入隊3年目だ。2年前、お前たちと同じようにこうして教育隊で扱かれていた。そして、錬成教育終了後、特殊部隊に直接配属になった。新人で直接配属は図書隊史上初だが、二人とも初めから完璧な隊員だったわけじゃない。今だって、大卒のヤツらと2歳しか違わない、ごく普通の隊員だ。ヤツらの日頃の努力が、堂上班の連携の要になっていることは間違いない。お前たちも訓練次第、やる気次第で守れるものが増えるんだぞ。頑張ってくれよ」

 

 

あの二人の士長は、教官たちの班に入って2年しか経ってないんだって!

それで、阿吽の呼吸?

簡単じゃないって言うけど、でも2年で?

完璧なチームワークに見えたのよ?

2年で出来るものなの??

 

もしかしたら・・・教官たちについて行けば、私たちもあんな風になれるのかもしれない!

そういう意味で「やる気次第」って言ったんじゃないのかな?

明日からの訓練、苦手とか言わないで頑張ってみようかな・・・

 

 

 

 

 

 

そんな考えは、甘かったとすぐに心が折れた。

私は小牧教官の班になって、防衛訓練を必死になって熟した。

周りを見渡すと、特に堂上教官の班の子達が、早々に根を上げていた。

それは男女問わず。宣言通り、女性隊員にも容赦しない。

指導する姿は、それはもうカッコよくてうっとり見入っちゃうくらいなんだけど。その精悍な表情で口から飛び出す言葉は辛辣。

聞いてるだけで居た堪れない感じ。嗚呼、堂上班の子、ご愁傷さま!

 

それに負けず劣らず、小牧教官も厳しい人だった。

ニコリと笑う。けど眼は笑ってない。それはもう怖い!

訓練の時だけ時々見せるその眼にビクビクしながら、私は堂上教官の姿に癒しを求めた。

 

 

 

 

 

ある日、食堂で昼食を摂って、同期の子と4人で教官の話に花を咲かせていた。

 

「教官たち、厳しいよねぇ。男女の区別はしないって言われたけどさ。ホントに無いんだもん。ビックリした」

「ホントだよね。防衛部希望してる女子なんて殆ど居ないじゃん。なのにここまでする~?」

「あ、それ、うちの教官は丁寧に教えてくれたよ」

「何、なに?」

「業務部員だって命を守らなきゃいけないんだって。あ、自分の命ね。有事の際に図書隊が守るのは、本。そして利用者。隊員は自分の命は自分で守るのが鉄則だって」

「へー。アンタの教官って誰だっけ?」

「堂上教官」

 

そっか、流石だな。

厳しいばかりじゃない、ちゃんと理由も教えてくれてるんだ。

 

「あ~堂上教官かぁ。いいよね。あの初日の防衛座学の時もさ、分かりやすく丁寧に解説してくれて。あれで防衛部希望する男子がちょっと増えたんでしょ?確かにアレはカッコ良かったもんね」

「ね、堂上教官の下なら、防衛部でもいいと思わない?」

 

ちょっと本音をぶつけてみた。

 

「うんうん。思うかも。あんな上官ならついて行くよね~!」

「でも、タスクだもんね。無理だよね」

「大丈夫なんじゃない?だって堂上教官の班って女性隊員がいるじゃん」

「そうだけど、いかにも女性って感じ、しなかったじゃない?」

 

んー。確かに。女らしいって言葉とはかけ離れてたかも。

 

「あー、言えてる。だからタスクにいるんでしょ」

「そっかぁ。普通の女には無理か」

「無理だよぉ」

 

やっぱり業務部しかないよね、私には。

 

「ま、私たちは精々自分の命を守ってさ。一緒に前線で戦えなくても、女として見て貰えるように努力はできるじゃん」

「そだね」

「そうそう!」

 

そうか・・・女としてね。

ちゃんと自分の身を守って、志の高さを認めてもらう・・・ってことか。

それしか優秀な人たちと関わることなんてできないよね。

 

 

完全な女子トークで盛り上がってしまって、周りを見ていなかった。

私たちのテーブルの脇を通りすがりに、鼻で笑って行った飛び切り美人の先輩がいて、それはそれでヤバイと思ったのに、その先輩が居たであろう席を見たら、私たちが噂してた堂上班の二人の士長が座っていた。

 

―― げっ!!聞かれてた?!

 

 

4人で慌てて口を噤んだけど、そのあと士長たちから接触は無かった。

 

 

 

 

◆◆◆



6月になり、錬成教育隊も終了の頃を迎えようとしていた。

いよいよ配属先が決定するらしい。

教官たちの目が、選別しているようで怖く感じた。

ただ、特殊部隊の教官たちは、始めから変わらない。始めっから見定められてた気がする。

 

 

最終課程の法学講義が終わって、同期の子と二人で食堂へ行こうとしていたら、堂上教官と小牧教官の話し声が耳に入ってきた。

 

 

「堂上、メールした?」

「ああ。二人、ほぼ同時で返信来てたぞ。しかも、速攻。あいつら、どんだけだ」

 

そう言って、堂上教官は嬉しそうに笑った。

 

「絶対に競ってたよね。で、どっちが先に着信してた?絶対に聞かれるよ」

「ん?・・・笠原だな」

「うわっ!手塚の悔しそうな顔が浮かんじゃった」

 

小牧教官はお腹に手を当てて前屈状態になりながら笑ってる。

 

「手塚だったと言った方が良くないか?笠原の方がフォローしやすいんだが」

「ぷぷぷぷ・・・何を真剣に考えてるかと思えば・・・くくくっ」

「あいつら、恥ずかしいくらい競争心剥き出しだろ。兄弟喧嘩も大概にしろって思わないか?」

「その喧嘩の原因はお前だもんね。そうか、手塚が機嫌良ければ喧嘩も長引かないね」

「だろ?」

「さすが、よく気が付きました」

 

小牧教官は堂上教官の肩をポンポンと叩いて吹き出した。

 

「ぐふふふ・・・と、とにかく、食堂行こうか」

 

 

「え!教官、食堂へ行かれるんですか?!」

 

思わず喰いついてしまった。

教官たちは目を丸くして私たちを見てる。恥ずかしい~~~~~!

 

「うん。久しぶりにね。部下と約束があるから」

「ご一緒していいですか?」

 

教官は顔を見合わせて「行くだけならね」と答えてくれた。

よっしゃ!とりあえず一緒に行けば、あとは何とか雪崩れ込む!

うん、作戦バッチリ!!

 

 

訓練速度で食堂へ向かう教官たちの背中を、ウキウキしながら急ぎ足で追いかけた。

食堂の入り口の前に、堂上班の士長二人と先日の美人な先輩が居るのが見えた。

教官たちの約束の相手って、この人たちだったのか・・・

 

 

「お待たせ!ゴメンね、遅くなって」

小牧教官が手刀で謝りながら言うと、

「いえ、そんなに待ってませんから」

美人な先輩がにっこりと返す。

 

この二人、恐ろしくお似合いだなぁ・・・

 

「じゃ、ここで」

小牧教官が振り返って言う。

え?それって、私たちに言ったの??

 

「えー!今日は教官たちも隊員食堂にいらっしゃるって言うから一緒に来たのにぃ」

「一緒に食事するなんて言ってないよね。俺たちは約束があるんだ」

 

ここまで来て引き下がれますかっ!ってーの。

ちょっとくらいイイじゃん!ケチー!!

 

「小牧教官。席が空いていれば一緒になっても構わないんじゃないですか?」

「俺も構いませんが」

 

意外にも、士長の二人が援護してくれた。

へー!イイとこあるじゃん♪

部下二人が承諾してくれたからか、小牧教官は席が空いていればって条件で同席をOKしてくれた。

やったー!まだ可能性はあるもんね!!

 

食堂の中に入ると、堂上班のみなさんは明らかに残念な顔をした。

そして小牧教官の指示で、手塚士長が席を確保に行った。

その時、5人は各々ポケットから黄色いタグのようなものを出して、手塚士長に渡していた。

それが何なのか気になって、最後尾に並んでいた笠原士長に聞くと、

 

「堂上班でご飯食べる時、席を確保するために用意したタグ。あたしたち、5人で食事することが多いんだけど、席を取りにくい時があってね。並んでる間に埋まっちゃったりするから、取れる時に使うの」

 

そう教えてくれた。思わず「仲がいいんですね」と声に出してしまったけれど、笠原士長には聴こえなかったみたい。

 

堂上班のみなさんがさっさと配膳して席へ向かって行った後を、私たちも隣の席を確保しようと追いかける。

見ると、5人は既に席に着いていて、一様に微笑んでいた。

 

テーブルの端から、笠原士長と美人さんが向い合せで座って。

笠原士長の隣に堂上教官、手塚士長が向い合せ。手塚士長の隣りに小牧教官。

そこへ同席を申し込むと、教官たちが立ち上がった。

同席を了承してくれたけど、二人とも席を代わってもらって。

私の隣りは美人さん(柴崎士長)、同期の隣りは笠原士長になった。

 

なんだろう・・・避けられたの???

 

 

 

 

 

そして私たちは思い知る。

 

避けられたんじゃない。

 

見せつけられた のだ・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆


 

もう!!!

なんなのっっ!!!!!

 

揚げ物メインのA定食が、全てデザートみたいに甘く感じるんだけど。

私の味覚がおかしくなったの?

誰か、私のトレーに砂糖でもぶっかけたの?

ねぇ、そうでしょう!!

 

 

堂上教官が・・・

あの堂上教官がぁぁ・・・

 

微妙に体ごと笠原士長に向かってて。

嬉しそうに蕩けた笑顔も見せて。

美味しそうに食べる士長を見つめながら食事をしてる。

 

それ・・・笠原士長がおかず代わりなんですか?

 

そして、ご自身のデザートを笠原士長のトレーに移す。

 

「笠原。ほら、やる」

「わー!久しぶりですね。教官からデザートいただくの♪」

「俺が居ない間は手塚に頼んでおいたが。ちゃんと貰えたか?」

「二正、抜かりはありません。笠原がデザート付きを選ばなかった時は、俺が横流ししてました。ご安心ください」

「よし」

 

 

・・・。

ナンデスカ、コレハ?

 

 

小牧教官は先程からお腹を抱えて笑ってる。

柴崎士長は目の前の二人を生暖かい視線で追っている。

 

多分、小牧教官と柴崎士長は、これが通常仕様。

慣れてる。当たり前って感じ。

 

「出た!堂上大好きっ子クラブ・・ぶふふふ・・・」

 

小牧教官の言葉、聞き逃しませんでしたよ!

誰ですか?そのダサいネーミングしたのは!

っていうか、堂上大好きっ子って・・・士長たちのこと??

 

「そうよ」

 

隣りの柴崎士長が、そっと私に寄ってきて耳打ちみたいにして教えてくれた。

 

「あのね、このメンバーはね、

 上官大好きっ子で

 部下大好きっ子で

 同期大好きっ子な人たちの集まり」

 

 

上官・・・部下・・・同期・・・

つまりは、このメンバー全員が全員を好きってことか。

 

 

なんだかほっこりするなぁ。

すると後ろの方から聴こえてきた。

 

「あれな、関東図書基地で秘かに有名なバカップルだ。

 だが、あれで付き合ってないから。そこんとこ勘違いすんなよ」

 

 

え?どういうこと??

 

「あのぉ、堂上教官・・・」

遠慮気味に声をかけてみた。

堂上教官がチラリと視線を寄越して、すぐに戻した。

 

「あー。それな。教育隊以外ではやめてくれないか」

「え?」

「その『教官』呼び」

「は?」

「うんうん。俺も気になってたんだよね。ちゃんと階級呼びしてね」

 

サラッと言って、自分たちの会話に夢中になっている。完全無視だ。

どういうこと? 納得いかない!!

 

「でも!笠原士長は『教官呼び』じゃないですか!」

「そうそう、柴崎士長も!!」

 

私の同期も一緒に問い詰めてくれた。

そんな私たちのことなんかお構いなしな堂上教官は、笠原士長の頭に手を置いて、ポンポンと弾ませながら

 

「コイツらは特別だな。特に笠原は『教官呼び』でないと」

「そうそう。笠原さんは階級呼び禁止だもんね」

 

教官二人は嬉しそうに喉を鳴らして笑ってる。

更に納得いかないです!!

 

「おかしいと思います!私たちに階級呼びを強要するのに!」

「階級呼びは一応、暗黙の了解だよ。ただ笠原さんだけは、堂上班として第一線で本を守って行く上で、もう階級呼びじゃダメなんだ。・・・堂上がね」

 

「笠原に階級呼びされても反応できない。思考停止するから、有事の際に危険だ。だから、コイツには教官呼びを許してる。他のヤツとは違う」

 

「ね?特別ってそういう意味。だから、ちゃんと階級呼びしてね」

 

 

唖然とするしかなかった。

こんなこと言われてる当の本人は「思考停止って!」と膨れてみせて。

そんな笠原士長の膨れた頬を片手で挟んで

「そんな顔しても可愛いだけだぞ」  って。

 

 

おいおいおいおい・・・

 

「これ、糖害って言うのよ。砂糖の糖に、被害の害」

 

柴崎士長の言い得て妙なネーミングには頷くしかなく。

心の中で「確かに害だ。大被害だ!」と叫んだ。

 

 

 

付き合ってない二人。

だけど、これは時間の問題?

 

 

ああ・・・私、失恋決定かぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

私、堂上教官が好き  だった の ?

 

 

 

 

 

 

気が付かないうちに

私の恋は始まって、終わってた?

 

 

 

全てにクエスチョンマークが付く恋。

 

だからそんなに辛くない。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆



「柴崎士長!」

 

食堂を出たところで、一人だった士長を呼び止めた。

 

「先程は、色々教えて頂いてありがとうございました」

 

士長はふふっと笑った。

 

 

「ね、あなた、堂上二正のこと好きになったの?」

「・・・そうだったのかもしれません。私もさっき気が付きました。そして既に終わった感がありました」

「あら。それはお気の毒。でも、あの二人見てると、そんなのも辛いと思えないでしょ」

「はい・・・どうしてでしょう?」

 

柴崎士長は、また微笑んでみせた。

すっごく綺麗で見惚れた。

 

「その理由は自分で気付くべきだわ。ね、提案!

 

 私たちと一緒に、堂上教官と笠原を生温く見守ってみない?

 

 そうしたら理由も分かると思うわよ」

 

器用にウインクして見せる士長は、その仕草だけ見るとちょっと幼く見えて。

でも、大人の余裕もたっぷり感じる笑顔も乗せていて、妖艶だった。

 

―― 生温く見守る か

 

 

「はい!やってみます。

 お二人を見守りながら、大切な本を守る

 立派な図書隊員目指します!!」

 

 

 

 

純粋な気持ちだけでココに来たはずなのに、すっかり色恋に偏った視界に溺れてしまってたことに気が付いた。

初心貫徹!

今日からまた、図書隊員として成長できるように頑張る!!

 

 

 

 

 

今日は記念の日・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は素敵な 失恋初日!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

 

 

 

 

→本編「Secret of my heart」へ

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