このお話は、大好きな書き手さんに
エールを贈る毎日の中で浮かんだ気持ちです。





きみにエール

 

 

 

その時、俺は無意識に手を伸ばしていた。

少し薄い色の髪に指を絡ませるようにすると、柔らかなそれはまるで俺を受け入れるかのようにしなやかに揺れ動く。

瞬間に俺の身体中で感じた衝撃は、きっと一生忘れられない。

 

大丈夫――忘れられないものがあれば、これから先に予想される困難なことにも、きっと俺一人でも立ち向かっていける!

 

それは根拠の無い確信となって俺の背中を押し続けてきた。

幾度も襲ってくるへこたれる瞬間にも、俺はこの衝撃と共に大切な何かを手繰り寄せる。

 

きっともう二度と逢えないだろうから。

俺がきみの前に存在した証を――

きみが俺の前に存在した証を――

 

 

少女の清廉な背中と

柔らかな髪の感触だけが

俺と彼女を繋ぎとめる

 

その繋がれた一点だけを光だと信じて

俺は図書隊員として苦難の日々を乗り越えてきた

 

 

 

** **

 

 

 

「よくやった――お前は自慢の部下だ」

 

 

ふと浮かんだ郁を労う初めての言葉。

これを俺が声にして伝えて、こいつは信じてくれるだろうか。

これまで本当に厳しく扱いてしまったがために、何を言っても何をしても、俺が郁を「あの日の女の子」として実は大切に思っている(らしい)とは信じて貰えないような気がしてならない。

 

俺を信頼してほしい―――

その気持ちは、今はもう上官としてなのか、一人の男としてなのか。

実はとても混乱し始めている。

 

認めてしまえ! と誰かが囁く。

そうしてしまいたい気持ちが自分の中にあることも、ボヤっとだか輪郭を露わにしてきているようだ。

 

そうだな。そっちはきっと楽だろうな。

 

だが、流されそうになる俺の背中を蹴り飛ばして何かが通り過ぎる。

――それは俺自身だ。

 

忘れるな!

俺には辿り着くべきところがある。

あの日の三正を追いかけるという郁の信念を汲み取るなら、俺はヤツを自分自身を守れる強い隊員に育て上げなければならない!

危険な場所から遠ざけることが郁のためだと思っていたが。

勘違いにも甚だしい。

 

あいつの望む着地点へ、どんなに厳しくてもついて来ると言うなら、その手を引いてやろうじゃないか!

 

 

だから―――

『あの日』のように俺は手を伸ばし、思いついた言葉をゆっくりと吐き出して郁を部下として迎え入れた。

 

 

郁の柔らかな髪を再びこの掌で感じた瞬間、新たな言葉が浮かんでくる。

 

 

――励め

 

 

お前が成長できるように、いつでもこの手で何度でも掬ってやるから。

だからお前は、俺の手が届くところまで、確実について来い。

 

 

 

あの日、俺自身のこれからのために伸ばした手は、今日この日からお前を育て上げるためだけに伸ばしていく。

 

何度も髪に指を絡めて――

その度に繰り返し「頑張れ」と――

 

心の中でエールを送る―――

 

 

 

 

 

 

 

fin

 

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