ずっと、そのうち書いてみたいと思っていたのがパラレルと呼ばれるものでした。
一度くらい・・・と軽い考えでありました。
実際、こんな感じで書こう!と思って設定を作り始めてみたら
とっても大変だってことが判明。。。
一応、ゴールは決まってるので書けないことはありませんが、
時間がかかりそうなシリーズです。
気長に待っててくださいm(__)m






1 俺とあいつ

 

 

 

閑静な住宅街の一角に、俺の家はある。

大手建設会社に勤める父親と看護師の母は、年甲斐もなくラブラブな夫婦でご近所でも有名だ。所謂、思春期真っ只中の俺からしたら恥ずかしいことこの上ない両親のラブラブぶりだが、一歩家を離れてみれば「仲の良いご両親で羨ましい」と声を掛けられることが多く、それは褒め言葉として受け取れたので素直に嬉しかったりもする。

そう――俺は微妙なお年頃なのだ。そこら辺は理解を示してほしい。

 

――誰に?

誰かに、だ!

 

 

二つ年下の妹は、静かではないが『静佳』という名だ。名は体を表す、とは嘘だろうと心の底から思ったのは、俺が小学生の時だということをここに強く言っておく。

中学までは公立の学校へ素直に通った。両親とも学力重視ということは無く、近所の友達との継続した付き合いを重視してくれた。

高校受験を真剣に考えた時、自分の将来がどんなものになるのか…想像がつかなくて色々と焦ったりもした。だが、中学で出来た親友が言った一言で、夢と語れる何かを持てた訳ではないが、この学校に進みたい!と思えるものを見つけて受験勉強に勤しんだ。

 

俺が選んだのは大学付属の高校で、初等部、中等部もある大きな学校だ。

私立のため、学業だけでなくスポーツに特化した生徒も多く、俺の友達になった者にはスポーツ推薦で高等部からの入学組が結構存在していた。だから受験をしての途中入学である俺や親友の小牧などは物珍しい部類だったと聞く。

 

「なあ、堂上。ホントにお前はスポーツ推薦じゃないのか?」

「お前、まだ言ってんのか。俺たち、もう高3になるんだぞ?」

仲間たちが大笑いした。

「言い続けたくもなるよ。小牧も含めて…その運動神経の良さ」

「うん、もう嫌味だよなぁ」

「俺なんか、陸上推薦なのに二年連続体育祭のリレーでアンカーを務められないという…」

「それな」

「今年はまだ分からんだろ」

「「「いやいやいやいや!」」」

 

仲間たちの反応は一様に決定事項のような扱いで、俺は少しばかり居心地が悪かった。

特別な運動をしてきた訳ではないが、俺は足が速い方で。小学校低学年からずっと、運動会などのリレーの選手に必ず選ばれ、6年生からは毎年アンカーだったことは確かだ。

高校に入ってからもそれが変わらなかったことは俺自身が驚いているくらいなのだが、スポーツ特待生たちには納得いかない所だろう。事あるごとに「本当に一般入学なのか」という疑問を投げかけて揶揄われていた。

 

「これだけの運動神経を使わずに過ごしてるのは勿体ないよな」

「堂上、陸上部入らないか?」

「…おい。今更、何言ってんだ!夏には引退だろーが!!」

「だよなーっ!」

 

笑い声が響いた。

なんだかんだと言いながら、気の置けない仲間たちとの時間は楽しいものだ。

高校生活もあと一年。此奴らと共にいい時間を過ごして行きたい…と思わせてくれる存在の有り難さを改めて感じ始めている。

 

 

「あー。そういえば、今年は陸上推薦でいい人材が入学してくるらしいんだ」

「へぇ。それは良かったじゃないか」

小牧がコロッケパンに噛り付きながら、いつもの爽やかな笑顔を見せた。

「と言ってもな、中等部だけどな」

「そうか…楽しみな人材だといいな」

「まあな…女子だからなぁ…」

 

え!女子中学生!!っと色めき立った仲間たちは「お前、手は出すなよ」と陸上部部長の新井に釘をさすのを忘れなかった。

 

 

 

 

中等部の入学式への出席を言い渡されたのは、春休み中の図書委員当番日で昇降口から図書室へ向かう途中のことだった。

生徒会の副会長の俺に話が回ってきたのは、会長である小牧が出席できなくなったのが原因だ。実は先日、そのような内容のメールを小牧からもらっていたので、改めて驚くことは無かったのだが、一応話を振ってきた教務主任には「俺ですか?」っと不満気に返事をしておいた。

 

 

図書室の鍵を開け、室内の空気を自身の身体に吸い込む。

――俺はこの瞬間が好きだ。

 

小さい頃から本が好きだった。

共働きの両親を家で待つ間、宿題を済ませた後、外へ遊びに出たいところを我慢する。妹の静佳を置いては出かけられないからだ。そんな日は本を開く。

母親がよく本を買ってくれた。それに加えて、学校で借りてきたりもしていた。

どんなジャンルも好き嫌い無く読んだが、一番好きだったのは推理小説だった。物語の主人公と共に事件解決へ向けて推理を働かせていくのが楽しくて仕方なかった。

気が付くと自室の本棚には、推理小説から始まってミステリにまで幅を広げていた。あれは高校一年の時だったか…いきなり部屋に現れた静佳に言われた言葉が忘れられない。

 

「今、兄貴が犯罪を犯したら…この本棚を見て『仕方ない』って言われちゃうかもね」

 

――つまりは、精神状態を疑うような本ばかりが並んでいると言いたかったのだろう。反論しようとも出来ない自分が情けなくなるほど、犯罪心理学者が唸りそうな作品ばかりが並んでいる。現在進行形だ。

本当に心を病んでいる訳ではない。ミステリというジャンルに登場する人物は、強さも弱さも抱えていて人間として幅がある。中には犯罪者となる登場人物でも、そこに至る背景を読み解くと、共感まではいかなくとも自分の心が動かされることが時折あるのだ。

そんな瞬間に、好きだと思える。

 

 

 

 

『あたし、このお話がだいすきー!』

 

 

ふと、脳裏に蘇った声は、開け放たれた窓からの風と共に俺の元からふわりと離れていった。

懐かしさに頬を緩めた時、グラウンドから届いた檄に目が覚めた。

視線を遣ると陸上部が練習しているようだ。コーチと部長の新井が同じ人物へ大声をかけている姿が見えた。

その人物は、細身の選手だった。一体どのくらいの距離を走っているのだろう?と首を傾げたくなるくらい走り込んでいる。

 

 

――綺麗だな

 

 

素人から見ても美しいフォームであることが分かる。

 

春休みの部活動には、入学前の新人も合同練習することがある。新井たちとは違うユニフォームを纏っているところを見ると、きっと推薦で入学してくる生徒なのだろう…と予想していると、ゴールをした先ほどの選手から笑い声が上がっているのが聴こえた。

 

――え?女の子なのか?

 

スラリと伸びた手足と細い身体。色の薄いショートカット。すっかり男子生徒だと思い込んで驚いた。

何となく気になって、しばらく窓際から様子を伺っていたのだが「堂上くん、新刊受け入れお願いね」と司書の先生がやってきたのを機に、後ろ髪を引かれながらそこを離れた。

 

 

午前の委員活動中、時折グラウンドに響く新井の声と、高らかに笑う新人の心地よい声を聴きながら、少しだけワクワクした気持ちになっている自分に気付かない振りで作業を進めた――

 

 

 

 

中等部の入学式が終わり、俺は高等部の図書室へ向かうところだ。

先月下旬の当番の時に頼まれた新刊受け入れを終わらせてしまおうと思っている。

 

高等部の新年度始業は明日からだ。そして入学式は明後日。

中等部の入学式が早いのは、一学期中に宿泊学習があるからなのだが、高等部から入学の俺には理由なんて分からなかった。去年、生徒会執行部で会長出席の話題から聞き出した情報だ。

 

そんなことよりもだ。

先程の入学式中、気になることがあった。

新入生の中に、知った名があったのだ。その名前を聞いた時、少しばかりの懐かしさが俺の中を駆け巡った。

 

 

俺の心を揺さぶったのは―――

 

 

「篤くん!!」

 

呼ばれて反射で振り向いた。

スラリとした体形が小さく手を振る。ショートカットが風に揺れていた。

 

 

「――郁、なのか?」

「うん!久しぶりだね!」

 

ニコニコと笑った口が開いたまんまの、幼稚な顔が喜びを伝えてくる。

その真っすぐな笑顔に少々ヤラレタ…。

 

「な、なんで、郁がここにいるんだ?」

「なんでって…入学したんだよ?」

そうだった!入学承認の時に笠原郁という名前を聞いて「もしかしたら?」と思ったんだった!

「くふふ…変な篤くん」

「そ、それっ!校内では上下関係が厳しいからな。ちゃんと先輩って呼んでくれよ」

「そうなんだぁ。気をつけるね」

 

無邪気に笑って返事をする郁に、俺は眩暈を覚えた……

 

 

 

 

 

郁は幼馴染みだ。

笠原家は堂上家のお隣り。昔から家族ぐるみの付き合いをしていて、郁の兄達とも仲良くさせてもらっている。

 

郁の3人の兄は、妹をこよなく愛するカッコイイ人達だ。俺にも妹がいるが、彼らのように可愛がったり出来ないなぁ…っと思う事が何度もあった程。

男の俺でも惚れてしまうくらい男っぷりのいい長男、大(だい)

男勝りな郁と兄妹喧嘩になった時、そっと郁の味方に付く優しい次男、宙(そら)。皆、音読みで「ちゅう」と呼んでいる。

俺と同じ歳で、やんちゃなムードメーカー、三男の翔(しょう)

それぞれが愛すべきキャラクターで、そんな3人の妹が郁だ。勿論、郁も愛されキャラであることは言わずもがな。俺にとっても5つ離れたもう一人の妹のような存在だった。

 

俺が小学生の頃、まだ郁は幼稚園に通うくらいの大きさで、俺と翔が遊びに出ると後ろから懸命についてきていた。翔は自分の遊びに夢中で、郁の存在を忘れがちだった。だからこっそりと郁をフォローしていたのは俺だ。

それが理由かは分からないが、郁は俺に懐いていた。いつも「あつしくん!」と澄み切った声で俺を呼んでいたこと、今でも時々思い出すことがある。俺も、実の妹が居ながら、郁を本当の妹のように可愛がっていたと自覚している。(静佳に剥れられたこともあった)

彼女が幼稚園生の頃は、絵本を読んでやることもしばしばで。いつもキラキラな瞳でお話の続きをお強請りしてきたものだ。

 

『あたし、このお話がだいすきー!』

 

そう―――郁は本当に可愛い存在だった。それはあくまでも『妹みたいな』という半端な形容詞が付くのだが…。

 

 

「変わらないなぁ、お前は」

「そう、かな?やっと中学生だけどね」

ニカっと笑う仕草に釣られて笑う。

「本当に久しぶりだな。俺が高校に入ってから、顔を合わせてなかったな」

「そうだよー!篤くん、忙しそうでさ。登校の時とか全然会えなかった」

「電車通いは色々大変なんだよ」

「そっか。これから、あたしも電車で通うよ!一緒に登校できる?」

 

お強請りするように上目遣いで小首を傾げた。この仕草に子供のころからヤラレテいたなんて、郁は微塵も思わないだろうな。

 

「あ、ああ…もし時間が合えば、な」

「やった!」と小さくガッツポーズをすると「もう行かなきゃ」と人懐っこい笑顔を見せた。それは懐かしく、嬉しいものなのだが…ここではマズイ。

中等部と高等部の生徒の交流は、部活動や生徒会活動など学校管理下内で、と厳しく言われている。言葉遣い一つ取っても、躾以上に厳しい時もあるくらいなのだ。

 

「篤くん……」

「堂上せ・ん・ぱ・い、な」

「…そう呼ばなきゃダメ?」

「ああ、ダメだな。…笠原」

「―っ!!」

 

少しばかり傷ついた顔をされた。しかし仕方がない。この学校内で、昔のように呼び合うことは出来ない。

 

「普段から気を付けて、早く慣れろ。じゃないと、お前が目をつけられる事になるぞ」

「そんな厳しいなんて思わなかった。あつ…ど、堂上先輩、と同じ学校だ!って、ただそれだけで嬉しくって仕方がなかったのに…」

「ん。俺もその点だけは素直に嬉しいけどな。規則は守らなきゃならない」

 

俺は数歩歩み寄って、郁の頭に手を乗せた。それだって見つかったら何と言われるか…。だが、俺はまだ春休み中。人の少ない高等部への渡り廊下だから、と理由を探している自分がいた。

5歳年下の女の子なのに、郁の身長は俺とさほど変わらなかった。3年前までは、もうちょっと差があったはずなのに…複雑な思いも掌に込めて頭の上で二度掌を弾ませると、「わかった。頑張る」と呟く声が聞こえて、郁がスッと身を引いた。

 

 

 

「じゃあ。…先輩、また」

「……ああ、またな」

 

 

 

久しぶりの再会だったのに。

俺とあいつの距離は、昔のようにはなれなかった。

 

 

 

 

 

高等部の入学式の日。

いつもより少しだけ早い放課で、陸上部の新井たちはバタバタと部活の準備を始めた。

 

「今日も部活?張り切ってるんだね」

小牧の笑顔に釣られるように笑って、新井は練習用のウェアに着替えながら「頑張るじー!」と彼の地元の方言で答えた。

 

「出た!新井の『頑張るじー』!久しぶりだなぁ」

「今日から本格的に新人を扱けるからな!」

「鬼部長!!」

笑い声が広がる。

「例の中学生な、春休みから練習来ててな。すげぇ、可愛いんだよぉぉぉ!」

「チラッと見かけたが。高等部にも女子の特待生がいるんだな」

「あ?今年の特待生は中等部の笠原だけだぞ?」

 

――――か、笠原っ?!

 

「……どした?」

「っ!!い、いや。何でもない」

 

息が止まるほど驚いて、明らかに何でもなくは無いとバレてしまうだろうとは思ったが、他に答えようがなかった。

 

――笠原だと?……それは、郁のことだろう?あいつ、陸上選手として推薦されてこの学校に入学したのか!!

 

俺の様子がおかしいと気付いたのか、小牧がそっと隣りに来て「後でおしえてね」と、語尾にハートマークが隠れていそうな言葉を残していった。

そのさり気ない攻撃にはタジタジだったが、俺はあの美しいフォームの子が本当に郁だったのか確認したくて、陸上部の練習をこっそりと覗くことを決意していた。

 

 

 

 

 

結果から言うと、春休みのあの子は郁だった。

ウェアから伸びる細い手足は長く、長身に映えるフォルムだ。

光りを受けると栗色に見えるショートヘアも、溌剌とした郁に似合っている。

 

今日この時までずっと、妹みたいだとしか思えていなかった小さな女の子は、俺の知らないところで蕾を膨らませて開花しようとしている…

その事実に愕然とする一方で、無邪気な笑顔を見せてくれた事を特別なものに思いたくて仕方がない。そんな自分が存在することには目を瞑ろうとしている。

 

——何を混乱してるんだ?

 

俺自身がとても可笑しくて仕方がない。

こんな自分は初めてな気がする。

 

 

 

確認を終えてそっと帰宅しようとした時、新井に見つかってしまった。ヤツはニヤニヤしながら俺に手招きをする。嫌な予感しかしない。

 

「堂上!紹介するよ」

言って新井は背後を気にするようにして、そこに佇む郁を呼んだ。

郁は小走りで新井に近付いたが、俺の姿を見つけて表情を明るくした。

俺は静かに首を振って、知り合いだという事を気付かれないようにして欲しいと、心の中で郁に願った。

理由は……何となく。自分でもどうして隠したいと思ったのか説明できない。郁が昔から特別な存在だったような気もするし、それ以前に俺の危機管理センサーが働いた結果だったような気もする。

 

「中等部に入学した笠原郁さん。今年の期待の星だぞ!

 笠原、こいつは俺と同じクラスの堂上篤。生徒会副会長で、入学式にも出席したみたいだけど。覚えてる?」

「え…っと…な、なんとなく、ですが」

郁には伝わったようだ。初めましてな挨拶をする。

「笠原さん、よろしく。新井はこんなだけど、入学してから陸上部を背負って立ってる凄いヤツなんだ。期待に応えてやってくれ」

「………はい」

 

郁の小さな声が、俺にはハッキリと届いた。

心の中で郁に申し訳なく思いながら、新井には理解ある同級生としての自分を見せる。

 

「なあ?可愛いだろう? 彼氏いないんだってさ。俺、立候補しちゃおうかなぁ」

「「 えっ!?」」

 

「……え?同じ反応?」と、新井は笑ったが。俺は笑えん!!!

 

 

真っ赤になった郁をエスコートしながら、新井たちは練習へ戻って行った。

俺は気持ちごと取り残された。

 

 

 

 

 

 

——取り残された??

 

 

 

卑屈になる自分と向き合う事が、こんなにも悔しいなんて……

思ってもいなかったんだ…………

 

 

 

俺、高3

あいつ、中1の春の出来事………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【つづく】

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名前: - [Edit] 2017-10-07 18:18

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