郁ちゃん(と堂上さん)を見守る特殊部隊の優しき兄たちが
巻き込まれる、或いは仕掛けるお話をシリーズでまとめようと思って始めました。




タスクより愛をこめて――

糖害報告書1  終の住処

 

 

 

 

「特定地域密着型老人保健施設!」

 

 

特殊部隊事務室内に居る全ての者の動きが止まった。そして同時に今、やたらと長い漢字の羅列(だろうと想像するしか無かったのだが)を叫んだ張本人に視線を遣る。

 叫んだ張本人――堂上郁三正は、一人満足げな表情でファイティングポーズのように両手で拳を作っている。「ふっ…もう一回いってみよ」と呟いたかと思えば、

「特定地域密着型老人保健施設―っ!!」っと今度は更に早口で叫んだ。

 

 

「・・・郁?お前、何してんだ」

「あは♡」

「笑って誤魔化すな!」

「何だか馴染みの無い単語の羅列だったけど?」

 

 堂上、手塚、小牧にそれぞれ声をかけられ、ふと辺りを見回すと目がテンになった諸兄たちがじっと郁を見つめていた。

 その異様な雰囲気の事務室に、玄田がふらりとやってきたのを見つけた郁は「隊長!」と手を挙げて呼び、足止めをしてから近づいていった。

 

「隊長、隊長!いいお話があります」

「どうした笠原。随分ご機嫌じゃないか」

「あのですね・・・特定地域密着型老人保健施設!・・・ってのがありましてぇ」

「あ?なんだ?その、特定?・・・ん?」

「特定地域密着型老人保健施設!!デス」

「・・・ん、(諦めて) それが?」

「この、特定地域密着型老人保健施設!ってのはぁ、ま、所謂老人ホームのことらしいんですけどぉ・・・二人部屋が作れるんだそうです♪」

「・・・笠原よ。何のことかサッパリわからん」

「だーかーらー!お年寄りが老後にお世話になろうとする施設でぇ、ご夫婦で一緒のお部屋に入所出来るって素敵ですよ~~~!って話ですぅ」

「・・・その、老人ホームと俺と、どんな関係が?」

「隊長の老後を考えた時、折口さんと一緒に施設に入れていいかなぁって思って」

「はあ??」

「あ、ご心配なく。結婚してなくても、パートナーとして認めてもらえれば入所できるそうですよ」

 玄田の開いた口は塞がらない。周りで聞いていた隊員たちも一様に呆けている。

 

「あ、進藤三監!!」

「げっ!・・・な、なんだ」あの進藤でさえ、今の郁は恐怖のようだ。

「進藤三監も如何です?特定地域密着型老人保健施設!!」

「え、いや、そ、それは、カミさんと相談して、だな・・・っていうか、俺っちそんな年寄りじゃねーぞ!!」

「チッチッチ。これは重要なことなんですよぅ。早いってことはないです。ちゃんと老後のこと、考えておいた方がいいんですって!」

 郁は人差し指を自身の口元でメトロノームのように揺らしながら、それがまるで催眠術かと思わせる真剣な表情で話をする。「ほ~ら!こわくな~い!」と本当に術師みたいだからやめて欲しい!

「いや、うん、笠原。老後のこと考えるってのは大切だってことは分かった。その、特定なんちゃら?とかいう施設が夫婦で入れるってことも分かったから。とりあえず落ち着け!いや、落ち着いてくれ、頼む!!」

 これはもう懇願しかないと、進藤は顔の前で両掌を合わせて拝み倒しだ。

「笠原さん、いきなり老後の話って。一体何があったの」

「あー、それはですね。昨夜、テレビで観たんです。第二の人生とか、終の住処とか、そんな番組でした」

「そういえば、やってたな、そんなの」

「篤さんがお風呂入ってる間に観てたの。ちょうど、特定地域密着型老人保健施設!のところだったの」

 

 ここで、室内の数人がうっすらと気が付いてきた。そのメンバーはお互いにそっとアイコンタクトを取り、自分の思い付きが正しいという確認をしているようだ。

 思い切ってこのカオスと化した特殊部隊事務室を救おうと、一人が勇気を振り絞って声高に空気を切り裂いた!

 

 

「笠原!!お前・・・その特定なんちゃら?って早口で言いたいだけだろう!!」

 

「あは♡ バレました?」

 

 

堂上班員以外、がっくりと膝から崩れ落ちる。小牧はそれとは別に、床とお友達状態となったようだ。

「だってぇ。隊長に話したくて、忘れないようにずっと練習して覚えたんですもん」

「・・・昨夜からブツブツいってたの、それか!」

「ずっと繰り返してたから、スラスラ言えるようになりましたよ? 特定地域密着型老人保健施設!!!・・・ほらね?」

 もう、本来の目的は何だったのか、頭痛と眩暈に襲われそうな中、堂上だけはケロリとして全てが通常仕様だ。

 

「ん、よく覚えたな」

 

郁の頭で掌を弾ませる。

「そこ、褒めるとこじゃねーよ!」と心の中の叫びはタスクの総意。

 小牧が床から這い上がり、涙目になりながら話を進めた。

 

「老人ホームの話だったのかぁ。だったら俺が終の住処として選ぶなら・・・海外かなぁ」

「わあ!海外!!」

「ふむ。それは優雅でいいな」玄田も満更じゃなさそうだ。

「どこがいいかな~♪」

「小牧教官は、毬江ちゃんのご希望に?」

「そうだねぇ。毬江だったら・・・ニューヨークとか言いそうかな」

「えーっ!意外・・・」

「そう? あ、緒形副隊長なら、ヨーロッパとかですかね」

「あ~ん!エレガントな感じ~~!合ってるかも~~♪」

「そうだな、スイス辺り、いいな」みんなが納得の頷き。

「進藤三監はぁ?行きたい国、ありますかー?」

「あー?俺かぁ? そうだな、嫁はL.A.とか言いそうだな」

「おー!ロスアンゼルス!!」郁の鼻息が荒い。

「隊長は?」

「・・・俺もヨーロッパ―――

「キャラじゃないです!!」バッサリだ。

「手塚は?ね、手塚、別荘とか持ってそうだけど」

「ん?ハワイに別荘はあるけどな。終の住処なら、モナコとか?」

 一同、感嘆の声。郁の「モナコ?」という呟きに「金持ちの集まる島だ」と進藤が耳打ちし、郁は「チッ」と舌打ちした。

「・・・でも、柴崎なら地下シェルターとか言いそう」

 郁の思いつきに手塚は苦い顔をし、小牧は再び床に沈んだ。

 その後も隊員たちがそれぞれに住みたい国を発表していく。世界各地に散りばった隊員を想像し、郁は目を輝かせる。と同時に、少しだけ寂しくも感じてしまった。

 

「老後はみんなバラバラになっちゃうのかぁ・・・」

 

 おふざけ話なのに本気モードになってしまう、郁の純粋さが可愛くて仕方がない。

「そうだな、世界各地にタスクフォースが点在するなら、年に一度はサミット開催するか!」

「ホスト国のやつが、みんなをおもてなしだ!」

「世界各地に行けるぞ!」

「わーい♡」郁は万歳で喜んだ。

 

「ところで・・・お前たちはどうなんだ?」

「へ?」

「堂上と笠原は、どこに住みたいんだ?」

「あー―――」

 

 郁が堂上と見つめ合う。

見慣れた光景だが、何となくいつもより甘さが増しているような・・・

 

 

「あ、あたしは! 篤さんが居ればどこでもいいですぅ・・・」

 

 

 

――嗚呼~~~~!ヤラレタ!

 

  警報は鳴り響いていたのに!!!

 

 

 

一同が糖害に晒されているまさにその時、郁の目の前に手塚が立ちはだかった。

 

 

「それこそお前、特定地域密着型老人保健施設に堂上一正と入所すればいいんじゃないか?」

「・・・手塚?アンタ、もう一回言ってみ?」

「ん? 特定地域密着型老人保健施設?」

「なんでそんなスラスラ言えんのよ。まさか!アンタも昨日の番組見て練習してた?!」

「バーカ!そんな阿呆なことするのはお前くらいだ、バーカ!」

「むーっ!じゃ、なんでそんなスラスラ言えんのよ!」

「お前と脳ミソの作りが違うんだよ!何度も聞いてたら覚えるだろ!」

「――っ!くーやーしーいーっっ!!」

 

 郁が手塚に歯向かってバカだのアホだの叫ぶ中、堂上は一人思案の様子。ポンッと手を打ち「そうだな」と独り言のように呟いた。

 

 

「みなさん、老後はそれぞれ好きな国へ移住してください。

 俺たちは、皆さんが居なくなった静かな日本でのんびりと暮らしますので」

 

 

 

 

 堂上が導き出した答えは、

『誰にも邪魔されない郁との甘い老後』 であったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

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5 答え

あの日

comment iconコメント ( 2 )

懐かしいぞ

この漢字熟語、なつかしいぞ(笑)

しるこサンドを思い出したぞ(笑)

いろいろ採用されてうれしいぜ。手塚のモナコ―♪

読み返して、改めて。
隊長をどこへ飛ばすか・・・
南米?パプアニューギニア?
でも折口さんかわいそうだな。
沖永良部島あたりで、どやろ?


名前: 屋根裏部屋の住人 [Edit] 2016-12-06 20:26

屋根裏部屋の住人さんへ

グハッ!!
沖永良部島・・・(読めたぜ!)
いいかもしんない。
これまた郁ちゃんが読めない!って大騒ぎしそうだww

名前: 悠@c.you [Edit] 2016-12-06 23:10

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