このお話は、某所で限定公開しているものです。

前作「愛される理由」で、教官が実家に寄った時の話。




愛される理由・番外編

 


 

その日、堂上と郁は前日夕方からの稲嶺邸警備を終え、小牧・手塚組との任務交代をさっさと済ませて国分寺へ向かっていた。

 

「すまんな。実家なんかに」

「いえ、司令のお宅と基地の往復ばかりですから、たまには寄り道も嬉しいですよ」

「・・・司令じゃなくて、顧問な」

「あー・・・はいぃぃ・・・」

郁は気まずそうに肩を窄めてシュンッとなった。信号に捉まるタイミングと同時で、「気を付けろ」と言いながら軽く頭を撫でられる。本気で叱られたわけではなさそうだ。

 

 

世はバレンタインデー。日本中が甘い香りに包まれる一日。

堂上の元に昨夜からメールが頻繁に届いていて、郁は珍しいこともあるものだ、と相手は誰なのか気になっていたが、今朝になって基地帰還前に寄りたい所があると打診された。

「国分寺の俺の実家なんだが・・・」

「えー!教官のご実家ですかぁ?!」興味津々で目がキラキラとしている。

「・・・この歳で恥ずかしいんだが、お袋がどうしても取りに来いって煩くてな」

郁は「取りに来い?」と疑問の表情で小首を傾げた。

「今日は、アレだろ?だから多分、チョコを渡されるんだろうな」

「うっわぁ・・・仲のいい親子なんですねぇ・・・」

恥ずかしい事この上ない反応だ。ついさっき、郁からチョコ(らしきもの)を手渡された時と同等・・・いや、それ以上の恥ずかしさかもしれない。

「長居はしない。用事が済めばすぐに基地へ向かう」

「いいですよ?ちょっとくらい帰還が遅れても」

郁は何にも考えていない様子でニコニコと快諾するばかりだが、堂上としては郁と二人きりの任務でタスク帰還が遅れたら、諸兄たちにどんな目で見られるか・・・そればかり心配していた。

 

――ましてや、あのオッサン連中、笠原の帰りを待ってる風だしな!!

 

 

 

 

 

今日はバレンタインデー。私は毎年、息子にチョコをあげることにしている。

今年も渡すつもりだけど、なんだか最近仕事が忙しいらしく、連絡も満足に取れない。一体、どんな任務に就いているのかしら?・・・と思っていたら、お父さんが先月起きた原発テロ事件絡みじゃないかって言う。テロと図書隊?どんな繋がりよ?

 

昨夜、何度もメールをしたらやっと返事をもらえた。そして、基地外で仕事をしているから、その帰りに家に寄ってくれると言う。良かった。今年も当日に渡せるわ。

 

 

 

「ただいま!!」

玄関からお正月ぶりの声がして慌てて出ていくと、「時間がない」といきなりの催促でムッとしちゃう。

「ちょっと。頂き物に来て、それはないでしょ」

「そっちが呼んだんだろうが!本当に忙しいんだよ。早く基地に帰らないと」

「・・・そう、ちょっと待って。慌てたからキッチンに置いてきちゃったわよ」

言いながら息子に背を向けてキッチンへ向かった。

男の子ってこんなものよね。素っ気ないと言うか、照れ屋と言うか。うちの息子はそれが人より正直に出てしまうだけよね。・・・うん、そう思いたい。

 

「はい。心して食べるように!」

「・・・ん、ありがとう」

無理して来てもらったけど、ちゃんとお礼は言ってくれる。嫌々ながらって感じは、私には見せない。余所ではどうなのか分からないけど。

「じゃ、行く。病院は風邪の受診者ばかりなんだろ?かあさんも気をつけろよ」

「ありがと。あなたもね、体が資本の仕事なんだから」

背中を向けた息子の両肩に手を置いて、ポンポンと叩いた。背はあまり大きくならなかったけど、「戦闘職種」と呼ばれる仕事で活躍できるだけの体格には育ったみたい。久しぶりに手のひらで感じた息子の肩は、逞しいって言葉がぴったりなものだった。

 

玄関ドアを開けたのを確認して私もサンダルに片足を入れると、息子の動きが止まった。どうしたのかと顔を見れば、何とも微妙な困り顔で「ここでいい」と言う。

「大丈夫よ。ガスは止めたし」

「いや、そういうことではなくて・・・」

「車でしょ?お見送りくらいさせなさいよ」

「いや、ほんとに。ここでいいから!」

「・・・馬鹿ね。そこまで拒否されたら、何かあるって余計に疑うわよ」

言いながらサンダルをしっかりと履いて、私が先に玄関から出てやった。ちょっと慌てた様子で後ろからついてくる息子。

 

 

 

「――あら、まあ」

思わず呟いて、足が止まった。車の助手席に女の子が乗っている。携帯電話を操作しているのか、長方形の光がぼうっとその子の顔を照らしていた。

ついつい、ニヤッとしながら振り返ってしまった。私の顔を見た息子は、瞬時に眉間に皺を寄せ始めた。

 

 

――あらあらあらあら!

 

なんて分かりやすい子でしょう!()

そう、あなた、そんな顔するのね?!初めてだから感動したわ!

 

小さな頃から無愛想で。あまり喜怒哀楽を表に出さない少年に育ってしまった息子。今までなら心の中で焦ることがあっても、しっかり蓋をしてその欠片も見せなかったこの子が、完全に私のペースに嵌ったって感じで苦虫を噛み潰している。こんな困った顔、静佳からの口撃に対抗してる時くらいよね?

 

 

「部下だ」

吐き捨てるように言うと私を追い越して車へ小走りで行き、運転席のウインドウを二度叩いた。助手席の部下の子は、気づいてすぐにシートベルトを外して降り立った。

 

「こ、こんばんは!関東図書隊図書特殊部隊堂上班所属の笠原郁です!堂上教官には大変お世話になっておりますっ!」

敬礼付きで様になってる彼女をじっと見つめてしまって、変な間をあけて「こんばんは。息子がお世話になってます」と挨拶。いつも家族から「お母さんのテンポって掴めない!」と文句を言われているのを思い出し、部下さんの前で息子に恥ずかしい思いをさせてしまったかと心配になっていると、ふっと笑みを湛えた息子の横顔が視界に入った。

 

――今度はそんな優しい笑顔?どうしたの、篤!!

 

 

感動より動揺しちゃった。慌てて取り繕うように質問攻め。

「笠原さんっておっしゃるの。スラッと背が高くて、可愛いお嬢さんねぇ。おいくつ?」

「えーっと・・・今年、26になります」

彼女の答えに、ちょっとがっかりした。そう・・・篤と5歳も違うの。それに、この長身!!無駄なものが全くないモデルさんみたいな体型。ダメだ。こりゃナイわ。

 

「笠原さん、モテそうねぇ。バレンタインは本命にあげたの?」

「え・・・ほ、ほ、本命!?」

急に空気が変わった。笠原さんからは動揺。息子からは・・・緊張??

「えと、あの、ほ、本命とかっていうのは考えてなくて。あたしは特殊部隊でたった一人の女性なので、先輩たち皆さんにお渡ししました、ケド・・・」

「えっ!女性一人?!みんなに配ったらお金もかかるでしょう!」

「いえ、みなさん、あたしのお財布事情が分かってますから。お徳用大袋でも文句一つ言わずに貰ってくださいます」

「あらぁ。ホント、可愛いわねぇ」何だかほっこりと笑いが込み上げる。

 

「笠原さん、よかったら息子からチョコもらって食べてみて?今年は試食して買ったから、ちょっと自信があるのよ」

「え、でもぉ・・・」上目遣いで息子を見る。ああ、可愛い!!

「この子、甘いもの得意ではないのよ。だから、貰ってくれると助かるんじゃないかしら。ね?」

「ん、後でやる」またまた、素っ気ない言い方!

「ダメです!教官、甘いもの苦手だけど、食べられないわけじゃないじゃないですか!一度にたくさん食べろっていうことじゃないんだから、ちょっとずつ食べてください!」

「でもなぁ・・・お前から貰ったのもあるし。タスクに戻れば、オッサンたちが堂上班の分の徳用チョコも取っておいてくれてるんだぞ?」

「それなら、徳用を誰かにあげてください。特別感のあるチョコは、ちゃんと教官に食べてほしいです!」

 

 

 

――ダメじゃないかも。

え?笠原さん、息子のこと特別に思ってくれてるの??

 

 

期待感が膨らむ。これはもしかしたら・・・もしかするのかもしれない!

「ごめんなさい。そんなことで喧嘩しないで?私からのチョコは、二人で分けて食べたらいいじゃないの。その位、気を利かせなさいよ!」

息子の背中を思い切り叩いてやった。ホントにもう!しっかりしなさい!!

「痛ってぇぇ・・・母さん、力加減覚えろって言ってるだろ」

「あら。ごめんなさいねぇ」思ってもない謝罪をして、息子に向けて舌を出す。

「ったく・・・。笠原、お袋のチョコはお前がくれるのとは違って甘いんだ。だから少しでも請け負ってくれると助かるんだが」

「・・・了解です。では、あたしも少し戴きますね」丁寧なお辞儀を添えられた。

 

 

――ホント、いい子だわ!

 

 

 

 

笠原さん、気づいたかしら。

篤はね、あなたからのチョコなら食べられるって暗に言ってたのよ。

ちゃんと好みも知って、食べられるものを考えて用意してくれてるのね。

っていうか、あなたからの贈り物なら、嫌いな物でも誰にも渡さないんでしょうね。

 

 

嗚呼…この話、静佳に言いたい!!!

でもダメ。あの子に話したら、また大騒ぎされて篤に怒られるわ。

 

 

笠原さんのこと、本気みたいだから。

今回は そっとしておいてあげる。

 

 

 

だから―――

 

いつかまた、笠原さんを連れてきてちょうだいね

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin


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