この作品は、某所のフォロワーさん1000人記念SSでした。

5話目。どうしても書きたかったシチュでした。
郁ちゃんと当麻先生を逢わせたい!!
そして、当麻先生に語って欲しい!!
気持ちが強すぎて、書いてて号泣したお話です。。。






堂上篤、そして父になる5

 

 

 

 

秋――郁は妊娠8か月目を迎えようとしている。

 

公休日の今日は緊張の一日になるであろうこと必死である。

なにせ、稲嶺の家にお呼ばれしているのだから!

 

顧問となり時々基地に来ていることは聞いているが、直接会うことは無くなった。

玄田経由で稲嶺がタスクの――特に堂上班のことを気にかけ、話題にしてくれていることは伝え聞いた。

だから二人の結婚の際も稲嶺自らお祝いと称し、タスクの事務室まで足を運んでくれた。

今回も玄田からの伝言で、自宅へのご招待。一体何がどうなってこのような緊張の一日を迎えることになったのか、堂上にも郁にも疑問しかなかった。

 

と同時に。二人は懐かしさも感じていた。

あの年のことは、忘れようにも忘れられない。図書隊員としても、個人としても、思い返せば岐路だったと言えるくらい、濃密な時間ばかりの年だった。

その始まりの頃に、稲嶺と親密な関係を築くことが出来たのだ。

稲嶺が顧問になったばかりで、郁は何度も「司令」と呼んで堂上に叱られた。

言葉の通り、痛い思い出となっている。

 

 

「郁、体調に問題はないな?」

「うん。大丈夫。お天気も良いし。でも冷え込まないうちに帰ってこよ」

「ああ。そうだな」

 

堂上は郁の頭に手を乗せ、ぽんぽんと弾ませたあと、両手で膨らんだ腹をそっと包む。

そうすると時々、お腹の子が蹴りを見せてくれる。その瞬間に立ち会えると、堂上の中の父性が目覚める音がする。

ムクリ―――それまでそこに在ったのに、まったく気付かなかった優しい塊。

自分の中でまだ知らない何かがあることを気付かせてくれているのは、紛れもなく郁とお腹の子供だ。

 

「ん。動いてるな」

「うん。パパが触ってくれてるの、わかるのかも」

 

小首をかしげる郁が可愛くて、ついつい手を頬に伸ばしてしまう。

感情をセーブすることを忘れて、思うままに行動することが出来る人間だったと知ったのも、郁と出逢ってからだ。

 

――今の自分を作り出したのは、郁と言っても過言でない

  そんなことを言ったら、郁は

  「恥ずかしいったら!」と膨れるだろうな

 

 

 

◆◆

 

 

堂上家では新車を購入した。

今まで車が無くて不便だったことは無い。だが子供が生まれると、移動するにも荷物が増え、公共の交通機関でスムーズに動こうと思ったら大変なことなんだ、と(子持ちの)先輩隊員からアドバイスを受けた。

「結婚を機に車を買う隊員が多いが、実際はあまり使わない。特にお前らは夫婦して特殊部隊だ。班も一緒で別行動が少ないだろ。子供が出来てからがいいんじゃないか?」

一番納得のいくアドバイスをくれたのは、意外にも進藤であった。

 

出産のことも考え、購入は秋を目安にしていた。

ディーラーの都合も良く、とんとん拍子に話は進み、先月納車となったばかり。

普段はあまり使わないものであるので必要最小限のサイズでいいと、郁は半ば強引に軽自動車を選んだ。カタログに可愛く並んだPOPに惹かれたのは一目瞭然。

『運転しやすいコンパクトサイズ♪』なんだそうだ。

 

「運転の腕、あれから向上してませんもん」

「・・・アレと言われても、俺は知らないけどな」

「・・・・・ソウデスネ」

夫婦の微妙な会話を目の前で聞いていた営業担当が、気まずそうに「よろしいですか?」と確認してきたことは忘れられない。

 

ボディーカラーも郁の好みで決めた。

ライトグリーンとホワイトのツートン。

なぜそれが良いのかと尋ねると「カミツレみたいだから」と。

なるほど・・・軽自動車の黄色いナンバーを足せば、確かにカミツレカラーだ。

郁らしい選択に思わず笑みが零れ、いつものように頭をぽんぽんと撫でた。

 

そんな堂上と郁のやり取りを見ていた営業担当が、真っ赤になりながら「よろしいですね?」と最終確認してきたことも忘れられない。

 

 

 

納車後、郁は運転の練習をしたいと言って、基地の周りをぐるぐると廻った。

それだけなら問題は無かったのだが、片側2車線以上は苦手だと言いだし、ワンツーマンでの特訓が繰り広げられた。

そうして漸く、人並みに運転できる女へと昇格した。

晴れて今日、稲嶺宅への運転手を任されている。このタイミングでなければ堂上は出産前に運転させてはくれないだろうと、懇願してまで捥ぎ取った勝利だ。

 

 

「笠原、いっきまーす!」

 

「おいこら。誰が笠原だ、誰が」

「気分ですよぉ。いいじゃないですかぁ」

 

 

緊張の堂上と、テンションMaxな郁の道中やいかに!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

稲嶺には車で訪問することを伝えていたので、ガレージに入れてしまって構わないと言われていた。車庫入れは堂上の担当。郁はまだそこまでの上達はしていなかった。

 

玄関へ向かいチャイムを鳴らすと、お手伝いのフクさんが満面の笑みで迎えてくれた。

 

「フクさ~~ん!」

「笠原さん!元気そうねぇ。まあまあ!お腹が!!あらあらあらあら」

「ふふふ・・・」

 

「フクさん、玄関先で足止めしたら、私の所になかなか辿り着けないでしょう」

 

「あ、司令!」

「こら!顧問だろーが!まだ間違えるか、お前は!」

「はっ!・・・ゴメンナサイ・・・顧問・・」

「ふふふ。いいんですよ。私たちだって、笠原さんとお呼びしてるんですから」

 

「本日はお招きありがとうございます」

堂上と郁は二人そろって深々と頭を下げ、改めて稲嶺とフクに挨拶をした。

「さあ、どうぞ。あの時と何も変わりませんからね」

そう言って招き入れた部屋には――――

 

 

 

 

「――え? 当麻先生?!」

 

 

ソファから立ち上がり、照れたように頭を掻いているその姿は、確かにあの日の当麻と変わらなかった。

 

 

 

「うっそ!当麻先生!!」

 

郁は自身が妊婦だということをすっかり忘れ、訓練速度で当麻に近付き手を取った。

しばらく見つめ合ったかと思ったら、二人同時に涙を流して抱き合った。

 

「笠原さん・・・元気でしたか・・」

「・・・はい・・先生も・・・」

 

それきり二人は言葉を交わさず、ただ泣きながら抱き合っていた。

普段なら「他の男となんて」と言いだす堂上も、今日、この相手では何も言えない。

この二人には堂上には計り知れない『絆』があるのだ。

 

暫くして、当麻がふっと気付いて体を少しだけ離した。

「笠原さん・・・お腹・・・」

「はい。もう8か月目になります。順調に育ってくれてます」

郁はふふっと笑う。その表情に向けられるのは温かな眼差し。

ここでも郁は人を惹きつけて止まないのだと、堂上は誇らしげに微笑んだ。

 

「さあ、積もる話は座ってからにしませんか」

稲嶺の言葉に促されて一同はソファに腰掛け、再会を大いに喜び昔話に花を咲かせた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「本当に、お二人には大変お世話になりました」

 

堂上と郁が持参した色とりどりのケーキを女性二人で楽しそうに選ぶ中、声を張って感謝を伝えたのは当麻だった。

当麻はあの後、アメリカを拠点に執筆活動を続けている。新作の打合せなどで来日をしているそうだ。

 

「その後、堂上さんの怪我の具合はいかがですか?」

「訓練や業務は支障なくやれています。気候の変化で疼くような感覚は仕方ないと思うので・・・上手く付き合えています」

「あの発砲がなければと・・・今でも思うことがあるんですよ」

 

堂上と当麻の会話は聴こえているが、郁は敢えて話に参加せずフクとお茶淹れに専念していた。

あの日の話は、正直、まだ苦手だ。

嫌な想い出だとか、思い出して怖くなるとか、そんな生易しい感覚ではない。

自己表現が難しいくらいに感情が渦巻く瞬間の恐怖に襲われて、時間の感覚もなくなってしまうことがよくあった。だから考えないようにする術を身に付けてしまった。

 

堂上は話しながらも郁の横顔をチラリと伺う。

その堂上を稲嶺と当麻が見守っている。

少し重くなった空気に風を送り込んだのは堂上だ。

 

「しかしあの発砲がなければ、きっと今日、顧問と当麻先生にはお会いできていなかったと思います」

 

稲嶺と当麻が堂上に真っ直ぐな視線を送った。それを受け止めてから、堂上は郁へ顔を向ける。

 

「郁と付き合うことも。もっと時間をかけてしまって、お前に呆れられてたかもしれない」

 

郁の髪を撫で視線を自分に向けてから

 

「だから俺たちには必要なことだった」

 

そう告げて笑顔を見せる。郁は目尻に涙を溜め必死に堪えながら、できる精一杯の笑顔を返した。

そんな郁を見て、フクまで涙を拭う。「年ですから、涙もろくなってしまって」と恥ずかしそうにするフクの手を郁がそっと撫でた。

 

 

 

「お二人が想い合っていることは、早い段階で気付いていたことなんですがね。ご本人たちは気付かなかったんですか?」

当麻が面白そうに聞いてくる。まるで小説のネタを集めるかのように、興味津々といった感じだ。

堂上は眉間に皺をよせ、郁は真っ赤になりながら、答えに困った様子で二人顔を見合わせた。

 

「気付いていなかったわけではないのでしょう?

堂上くんは真面目な男です。ここにいる間は護衛という仕事の時間。プライベートなど考えられなかった、というのが本心ですか」

稲嶺が鋭く切り込んできた。そんな解説、恥ずかしいだけです!とは言えない堂上は「ええ、まあ」と曖昧な返事でその場を切り抜けようとした。

 

「そうはいっても、堂上さんが笠原さんを想う気持ちは溢れてしまっていた、ということなんですねぇ。いやぁ、あの時の甘酸っぱい感じ、思い出しました。毎日、観察するのが楽しかったですよね、稲嶺さん」

「ふふ・・・そうでしたね」

 

おじ様たち、容赦しません。それはもう嬉しそうに堂上夫妻の恋人以前のジレジレな関係を思い出しながら、本人たちそっちのけで語りつくしている。

 

――あなたたち、どんだけ観察してましたかっ?!

 

堂上の心の声は届いているようで微妙に無視され、時々郁を真っ赤にするくらいの揶揄いをしながら話は続いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

稲嶺からの誘いは「一緒に昼食を」という話だった。「久しぶりにフクさんの手料理を頂ける!」と喜んだのは郁だ。

そのままの気持ちを伝えると、フクも嬉しそうにして「頑張っちゃうわよ!」とキッチンへ消えた。

 

「あたしもお手伝いしてきますね。少しは料理出来るようになったとこ、フクさんに見てもらいたいし」

郁がハニカミながらそう言うと、男3人は一様に目尻を下げて頷いた。

 

 

 

「堂上さん。私はあなたに話しておきたいことがあるんです」

郁がキッチンへ消えてすぐ、タイミングを計っていたかのように当麻が口を開く。

 

「あの日、あの後。私が総領事館へ亡命を果たすまでの彼女の姿を、きちんと伝えておかねばならないと、ずっと思ってきました」

 

それは隊の報告書だけでは知り得ない、だけど多分、堂上にとっては一番知りたかったであろう裏話。

当麻の有難い申し出に、堂上は一瞬目を輝かせてしっかりと頷いた。

 

 

 

「今でも鮮明に覚えているのは、笠原さんの震えた手です」

何かの鍵にでもなっていたのか。その言葉を聞いた瞬間にすでに込み上げるものがあった。

 

「震えた手でハンドルを握り、実はペーパードライバーですとぎこちなく笑いました。

そして、震えた手で頬を包み、震えた手で襟元を握りしめる。

全ての所作が儀式のように見えましたが、あれは・・・別れ際に堂上さんに勇気づけられた時の・・・堂上さんが触れた頬に手を添えて、襟元につけて貰った階級章でしたか、それをギュッと握って、前を睨みつけるように目を瞠って自分に活を入れていたのだと思います。私には、頼もしくも見えましたが・・・儚いものにも見えて苦しくなりました。

 

ほんのちょっと前に、堂上さんと笠原さんの決別の時を目にしていて。

今だから言えますが、私は堂上さんは助からないかもしれないと思ったんです。

笠原さんは絶対に助かると信じて、堂上さんに背を見せた。でも、その強い希望が生まれる背景には、彼女にも僅かながら負のイメージが湧いた瞬間があったのだと思うんです。

 

その負のイメージに呑み込まれないよう、必死に希望の淵に留まっている。

それが終始、彼女の纏う空気に見え隠れしていました。

 

先程も申しましたが、あなた達のお互いに想い合う気持ちは分かっていました。

その二人が、生死を分ける状況下で離れ離れにならなければならない。それがとても心苦しくて、本当に申し訳ないと思っていました。

ところが、笠原さんは気が付くとふと笑うんです。どうも思い出し笑いのようで、何回目かの時に、何を思いだしたんですかと聞いてみました。

 

 

――新人の時に、教官にビンタされたこと思い出しました

  世界一痛いビンタです

  でも、世界一優しいビンタでした

 

 

そう言ってまた、自分の頬を撫でる。

そうか、堂上さんはそのことがあったから、今では愛おしむように頬を包んであげていたんだな、と思い至って、やはり別れの時の二人を思い出しました。

 

それから、彼女が笑みを零すたびに聞いてみました。

 

――堂上班で食べるお昼が楽しくて。教官はいつもデザートを横流ししてくれるんです

 

――あたしと手塚がじゃれあってケンカしてると、拳骨されるんです。痛いんですよー!

 

――辛い時とかピンチの時に心の中で教官を呼ぶと、来てくれます。凄いでしょ?聞こえるんですって。神ですかね。エスパーかもしれない!

 

――仕事が上手くいくと、頭を撫でてくれます。今回はいっぱい撫でてもらえると思うんです。おねだりしちゃおーかな♪

 

 

笠原さんの口から出るのは堂上さんとのことばかりで、そうやって自分の周りに色んな時の堂上さんを並べて守ってもらっているような。

そうして懸命に気を張り詰めていながらも、時々思い出したように襲ってくる震えに、また懸命に耐えるのです。

こんなに健気に、そして強く相手を想う笠原さんの恋を叶えてあげたいと、心の底から思いました。だからそこからは堂上さんが助かることしか考えなかった。

私の心もまた、彼女によって前向きにしてもらっていたんです。

 

 

亡命までの手順など、どんなことがあったかはご存知だと思います。

その手段を選ぶ過程で、笠原さんは考える時に必ず、襟元の階級章を握ってました。

堂上さんに判断を伺っていたんでしょうか。あるいは、堂上さんだったらどうするかと考えていたのでしょうか。

聞いてみると「何となく正しい判断が出来る気がするから」と言いました。

 

彼女の行動は、離れていても堂上さんによって導かれている。

なんて深く、固い絆だろうと、感心しました。

 

彼女の選択は間違っていなかった。だから今、私はここにいるんです。

そのことを感謝しています。笠原さんには勿論ですが、堂上さん、あなたにも」

 

 

 

 

これが当麻の書く小説だったなら、きっと読みながら泣いてしまっただろうと思うくらい、堂上の胸は熱くなっていた。

それらはまだ自分たちが想いを告げる前の出来事なのに、郁の堂上への気持ちが溢れんばかりだった。嬉しくて、今すぐにでも郁を抱きしめたい気持ちに占拠される。

 

当麻の亡命に関しては、それなりに労ったつもりでいる。だが、この話を聞いても尚、労い尽くしたと言えるだろうか。

――きっと否だ。

郁が当麻事件に関する全てのことを思い出に出来るまで、きちんと二人で向き合って行かなければならない。少しでも郁の心の傷が癒えるように、今まで以上にフォローするべきだ。

 

堂上が新たな決意を胸に秘めていた時、

「ま、そんなことを言っても、結局私の命は笠原さん次第でしたけどね」

と、少しおどけたように当麻が言った。

 

「え?それはどういう――― 「何の話してるんですかぁ?」

 

 

郁が両手に皿を乗せてキッチンから戻ってきた。

 

「大阪へ向かった時の話ですよ」

当麻が何の気負いもなく言い放ったが、郁は一瞬体を強張らせた。

 

 

「とにかく笠原さんの運転は危なっかしくて。ヒヤヒヤの連続でした。

 本当に、生きて帰ってこられて良かったと思います」

 

郁はきょとんと瞬きを忘れた。

堂上も当麻の悪戯っ子のような笑みを見ながら呆然とした。

そして当麻は、稲嶺とアイコンタクトだけで盛大に笑ってみせた。

 

「ちょ、ちょっとー!当麻先生、ヒドイ!確かにあの時はペーパーだって言いましたけど。事故らずに大阪まで行けたじゃないですかぁ!始めは・・・高速乗るのも大変だったけど・・・後半は上達してましたよね?え?ダメでしたか?」

 

慌てる郁の様子に、更に笑いのテンションが上がる。

堂上も我慢できずに吹き出した。

 

「もう!篤さんまでぇ。今は運転も出来るようになったって言ってくださいよぅ!」

「え!?そうなんですか!いやぁ、人間、いくつになっても成長ってするものですね」

「うぷぷぷぷ・・かなり練習を積みまして。今日も郁の運転でこちらに来たんですよ」

「へえ!それは凄い!!笠原さん、凄い成長ですね!」

 

褒められてるんだか貶されてるんだか、といった状態に郁は不満気ではあったが、みんなの笑顔を見ているうちに幸せな気持ちが満ちてきた。

 

 

 

――今、みんなが笑顔でいられるのは、生きていてこそだ。

  そう出来たことは誇りに思おう。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

食事をしながら、郁の運転話に花が咲いた。

上達したとは言っても、やらかすのが安定の郁なのだ。

稲嶺邸までの道中、堂上にも命の危険を感じるシーンがあったと暴露され、郁は真っ赤になって反論したり、小さくなって反省したりを繰り返す。

そんな郁の様子に稲嶺と当麻は、自分の娘や孫を見るように優しく語りかけ、懸命に慰め、褒めた。

 

「どうしても身内の運転は厳しい眼でみてしまうものです。堂上さんもそんなに心配しなくても、笠原さんを信じて任せたらいいのに」

「ですよねー。だから篤さん、みんなから『過保護』って言われるんですよー」

「堂上くん、そうなんですか」

「は、まあ・・・そうですね」

 

歯切れの悪い堂上に、稲嶺は目を細める。

「気持ちは分からなくもないですよ。こんな可愛い奥さんですからね。

心配して何が悪い!!  ですよね」

「「・・・あはは」」

 

どこかで聞いたことのある台詞を言われ、堂上も郁も居た堪れない気持ちで力なく笑った。

 

 

 

食後は庭に出てみる。

堂上と郁が手を繋いで、手入れの手伝いをした花壇へと歩み寄る。

あの頃とは違う種類の花が植えられているようだが、懐かしさに笑顔が零れた。

 

仲睦まじい姿を見つめながら、稲嶺が問いかける。

 

「ご出産の予定はいつでしたかね」

「来年の1月です。一応、上旬って言われてますけど。何となく遅れる気がしてます」

 

郁は堂上の顔を伺いながら、遠慮気味に答えた。

それに気付いた堂上は、郁の頭を撫でる。夫婦だけの内緒の話が存在しそうだ。

と思っていたら、二人は改まった感じで稲嶺と当麻に向き合った。

 

「あの、当麻先生にお願いと言うか・・・お許し願いたいことがありまして」

少し緊張したように告げる堂上と、彼の横顔を見つめながら聞く郁。

そして清々しい笑顔で当麻を見る。

 

 

「なんでしょうか?」

 

「俺たちの子供の名前、『蔵人』と付けたいんです」

「先生、いいですか?」

 

 

瞬間、当麻が息を呑むのがわかった。

驚きと、不安と、そして喜びへと瞳が揺れた。

 

 

「え?いいんですか?そんな、私のペンネームなんて」

「はい。それこそ先生は、俺たちの始まりの立会人ですから」

「先生、爆弾発言覚えてます?あの責任は取ってくださいね」

 

郁がニカッと笑った。

それに釣られて当麻も笑顔になる。

 

「男の子なんですね」

「いえ・・・まだ分かりません。でもそんな気がしてます」

「絶対に男の子です!」

 

 

郁の断言に男たちは微笑む。

 

 

 

 

「稲嶺顧問。

 

 堂上教官は、有能なパパになりますよ!」

 

 

 

 

その時だけは部下の顔をして、そんな発言も力強くて。

 

郁の底抜けな強さに、眩しさを覚える。

 

 

 

 

 

 

 

カミツレのお茶の香りに包まれた

 

秋の日の午後―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【つづく】

 

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