おかえり」のその後。




「いただきます」「ごちそうさま」

 

 

 

 

「わぁぁぁ!」

 

 目の前に登場したのは金色の羽根を広げた―――餃子。

 ごま油の香りが仄かに広がり、ツヤツヤとして食欲をそそる。それらを見る郁の瞳もキラキラと輝いていた。

 

「きょーかん?今夜はビール、飲まないんですかぁ?」

「ん?・・・ああ、今日はいい」

「どうして?」

 小首を傾げるその仕草に、堂上の耳がサッと赤く染まった。――が、郁は気付いただろうか?

「もしかして、まだ仕事残ってるんですか?食べたらまた戻ったりしますか?」

「いや、大丈夫だ。だから、気にせずゆっくり食え」

 納得できないといった感じの郁だったが、「冷めるぞ」と餃子の皿をちょっとだけ前に押されて促されると、腹の虫が遠慮なく「食べろ、食べろ!」の大合唱。今度は郁が真っ赤な顔をして「いただきます!」と手を合わせた。

 

 手を繋ぐように羽根でくっついていた餃子をひとつ、箸でつまんで目の高さまで持ち上げた。中から滴る肉汁が、ぽたりと皿に帰っていく。

 小さな皿には少し黄色味がかった液体に、黒い小さな粉粒が無数に浮いている。

「笠原、しょう油は?辛いのは嫌いだったか?」

「へへへ・・・実はこれ、今日宇都宮で教えてもらった食べ方なんです!」

「ほ~ぅ。酢と・・・?」

「コショウ!それだけ!!」

 満足そうにニッと笑って、郁は遠慮なくそのシンプルな小皿に餃子を投入した。酢の海にごま油が点々と浮かぶ。

 

「・・・んっ!・・・んんーーーっ!!・・・うまぁい!!」

 

 餃子を頬張る郁を見て、堂上は居ても立ってもいられなくなった。

 

「笠原、俺にもひとつ食わせろ!」

「ふふ・・・いいですよ♪」どうぞ、と餃子の皿を堂上の前へ差し出した。

「あ、小皿。もう一つ貰いましょう」

「いや、勿体ないから。お前のソレ、いいか?」

 郁は自分の手元にある小皿に視線を落とし、もう一度堂上に視線を上げ・・・真っ赤になった。

「え?・・・こ、これ、ですかぁ!?あ、あたし、これで食べちゃってますケド・・・本当にいいんですかぁ?」

 申し訳なさげに上目遣いで堂上を見る。そのいじらしい視線を一身に受けつつ、ここは動揺を盛大に隠して「かまわん」と一言だけ返した。

 

 郁がおずおずと差し出した小皿を受け取り、堂上は郁が箸をつけた反対側から餃子を取って頬張った。

 

「んーーーーっ!・・・確かに、旨いな」

「でしょーっ?!この食べ方、クセになりそうです!コショウが効いてて本当に美味しい!流石、餃子の街の人ですよ、うん」

「誰に聞いたんだ?」

「図書館に来てた、露店のおじさんです!!」

 世紀の大発見を褒めてくれ!と言わんばかりの郁の表情に、これ以上ないくらいの愛おしさを感じた。

 

 終始、旨い、最高だ!と感嘆を述べながら食べ進める郁を目を細めて見つめた。

 本当ならビールを飲みたい状況ではある。日帰り出張を終えたのだ。自分にも仕事終わりのご褒美はあっていい。

 だが今日は―――アルコールで思考回路が少しでも狂わない状態で、笠原郁を見ていたかった。

 

 

 お洒落さの欠片も感じられない夜のラーメン屋で。

 目の前で豪快にラーメンをすすり、餃子を頬張って笑っているこの子が。

 

 こんなにも大切な存在になるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

「――諦めてたんだ」

 

「え? 何をですか?」

「いや・・・お前、餃子食べたくて、諦めきれなかったんだろ?」

「えへへー。もう、お昼からずーっと、口が餃子になってましたからね」

「どんだけだ」顔を見合わせて笑いあった。

 

 

 

 

――諦めていた

 

 もう二度と逢えないだろうと、あの日は思っていたから。

 茨城の書店で出逢ったのは、偶然だったはずだから。

 

 その偶然も、俺の諦めも、全てをぶっ壊してくれる

 勇敢な「あの日の少女」は

 きっと、俺たちの勝利の女神だ

 

 

「「「 離すなよ 」」」

 

 大きな心で受け止めてくれる、少々お節介な諸兄たちのエールが聴こえた。

 掴んでくれた手は、離してはいけない。

 

 それならば――――

 

 

 

「 全力で 取りに行く 」

 

 

「ん? 何を?」

 その質問には黙って目を伏せる。

 

 

 

――お前だ、笠原

 

 

 

「さて、帰るか」

「はい! ごちそうさまでした!」胸の前で手を合わせる。堂上もそれに倣う。

 

 

 

 

 あとどれくらい、コイツと

「いただきます」と「ごちそうさま」を言えるのだろう。

 

 もしも

 数えきれないくらい繰り返されるのだとしたら―――

 

 

 俺の手には

 

未来という名の勝利が掴めているだろう

 

 

 

 

 

fin

 

 

 

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ピロートーク♡ 手×柴の場合

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comment iconコメント ( 2 )

洗脳されました

そーいえば、この時から
我が家の餃子に革命が起こったんだよね…
酢+こしょう
テッパンになりました✨

また、餃子の街に行きたいぜ❤

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-07-21 07:38

ayaちゃんへ

うん、おいで~\(^o^)/
またいっぱい、餃子の食べ比べしたいよー!!

ついでにね。
私がそっちへ行くって手もあるんだけどな・・・

うっしっし(*´∀`*)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-07-21 17:19

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