やっと書けたぁ!!
途中、ちょっと余裕がなくて。断念しそうになったけど。
良かった、よかった♪

甘いの目指して書いてたはずが、ちょっと路線が変わったねww
ま、仕方ない。そういう気分だったってことで~(*'▽')

テーマ曲は、途中からエンドレスで
♪宇多田ヒカル 「あなた」 です。
『鎌倉ものがたり』観て来たんだ~♡良かったんだ~♪









陽だまりに、あなたと

 

 

 

 



 

ずっと追いかけてきた「あの人」と、あたしは結婚した。

夢みたいな、ホントの話。

 

あたしに未来を見せてくれた人。

あたしに仕事の厳しさを教えてくれた人。

あたしに恋を教えてくれた人。

その恋を愛に変えてくれた人。

 

それが、堂上篤。

あたしの旦那様。

 

 

図書隊の官舎に引っ越したその日。篤さんは「家事の分担をしよう」と言った。

あたしには「理想の奥さん像」ってのがあって。ちゃんと目標に近づけるように努力しようって思っていたから、とにかく何でも頑張ろうって張り切った。

結果、空回りだったのは否めない。気持ちは充分にあるのに、思うように出来ない。

それは仕事をしているが為の時間的な制約であったり、あたしに家事のセンスが無いことからの大失態だったりで、凹むばかりの日々となった。

篤さんは優しく慰めてくれる。共働きなのだから、出来ることを出来る範囲でいいって。

でもそれじゃ、あたしの理想の奥さん像は?近づくどころか、あまりにかけ離れ過ぎてて現実味に欠けるって思い知る。―――――やっぱり凹む。

 

少しずつ、一歩ずつ・・・。

あたしにはそれが向いてる。

分かってるけど・・・もうちょっと器用になりたい。

 

結婚してから、そんな気持ちが更に膨らんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「郁、郁!」

「・・・ん・・ん?」

「郁、おはよう」

「・・・・・えぇっっ!?」

声を出すのと体が動くのとが同時になった。自分が何をしているのか、漸く把握する。

「あ、篤さん!今、何時?」

真っ先に浮かんだ疑問をぶつけた。あたしの記憶が正しければ、今日は公休日。休日にしかできない家事仕事を一気に済ませるつもりでいた。

「大丈夫だ。まだ8時だから」

篤さんは柔らかく笑って、あたしの頭を撫でてくれる。慰めながら、寝ぐせを直してくれているみたい。

あたしは篤さんの温かい手を振り払い、ベッドから飛び出した。部屋の中を確認する。

篤さんは身支度を整え終えていた。今すぐにでも外出できるくらい、清潔感が漂う。

寝室のドアの向こうに見えるキッチンの電気が点いている。朝食の準備をしてくれたに違いない。クンクンと鼻での確認もした。

「ちょうど卵が二つ残ってた。ベーコンもあったから、目玉焼きにしてみたぞ」

匂いで何となく分かったけれど、篤さんの解説付きで更に空腹感が増した。

「ほら、顔洗って着替えてこい」

片足だけ降ろしてベッドに斜めに座る篤さんが、あたしを見上げる。やること成すこと完璧なこの人を、ちょっと恨めしく思った。

「いーく」

あたし、きっと凄く悔しい顔をしたんだと思う。篤さんが腕を引いたから、再びベッドへ戻された。―――いや、ベッドじゃなくて、篤さんの腕の中だ。

「俺が起きる前にこうして・・・もうちょっと寝てていいぞって言ったの、聴こえてなかったのか」

抱きしめられたまま、頷いた。全然覚えてない。ちょっと申し訳なく思ったけど、篤さんはクスリと笑って「ま、熟睡してたから抱きしめたんだけどな」って、楽しそうに言う。

「起こしてくれてよかったのに」

「んー・・・それは勿体ない」

「何が?」

あたしが聞き返すと、更に体全体で包むみたいに抱きしめ直して。

「郁の寝顔見てられる」

 

―――撃沈。

 

自分の意志とは反して、顔も身体も真っ赤になってしまった。それを隠すように篤さんの腕から逃れたけど、きっと全部お見通し。無駄な抵抗なんだろうな。

洗面所へ駆けこんで鏡に映る自分を見る。寝ぐせで跳ね上がった髪の束が揺れた。まるであたしの心の中みたいだ。風に揺れて、篤さんの言動にも揺れる。

 

少しの動揺を隠しながら、朝食の準備が整ったダイニングに向かった。湯気のあがるマグカップを口元に運ぶ篤さんと目が合った。ふわりと笑われて照れるしかない。

「お、お待たせしました」

「ん。本当に残り物だけのメニューだが」

「ううん、凄い!休日なのに、ごめんなさい」

両手は膝の上で握り拳を作った。そうして頭を下げると、慣れた重みがやってくる。

「いいから。今週は残業続きで、郁が夕食当番だっただろ。休みの日くらい、俺がやって丁度いいんだ。っていうか、料理って気分転換になるぞ」

「うそぉぉ!」

頭を撫でられてることを忘れて、思い切り頭を上げてしまった。篤さんがビックリしたような表情で、浮いた手の行方を捜していた。

「嘘じゃない。今までチャレンジしてこなかったから、新しい発見がある。出来ないなりに研究も出来て、それはそれで楽しいと分かった」

「・・・篤さんは、偉いですね」

日頃の仕事ぶりと変わらない探求心と向上心。それが新婚生活にも活かされているのだ。篤さんは何てことないって顔をするけど、あたしには真似できないなぁってつくづく思う。

 

「郁は、やっぱり女の子だなぁ」

 

耳に届いた言葉を、俄かには信じられなくて放心状態だった。疑問が浮かんで篤さんを見返すと、頬杖をついて嬉しそうにしていた。

「えと・・・その『やっぱり』って、どこから?篤さん、あたしのことそんな風に思ってなかったでしょう?」

「んなわけあるかぁ!」

「うそぉ!あたしのこと、女の子扱いなんてしてなかったもん!」

「それは、仕事上だろ!少なくともプライベートでは、ちゃんと女だと思ってたぞ」

じゃなかったらお前を好きにならないだろ、と言われてまた自分が赤くなっていくのが分かった。さっき揺れていた寝ぐせは、そう言えば直したんだっけ?とつまらないことを思い出す。

「俺は男だから、家事は出来なくても誰にも責められない。逆にちょっと出来たり、手伝うだけで褒められたりするな。もともとのハードルが低いんだ。それに比べたら、女性は家事が出来て当たり前と思われて、苦手だなんて言ったら女としての評価が下がる。それでも世の奥様たちは、日々家事に追われて生活する。それが自分の仕事だと疑わずに、黙って家庭内のポジションを作っていく。俺はその方が偉いと思う」

「・・・あたしは、ちゃんと出来てないもん」

「郁の基準は厳しくないか?どこを見て、出来てないって言うんだ?毎日、飯は食えてるし。洗濯だって欠かさずしてる。洗い物を溜めるようなことも無いだろ?」

「そ、そうだけど・・・」

「それも全て、俺がやってくれと言う前に郁が自ら動いてる。なのに、出来てないって言うか?郁は充分、主婦の仕事をやってると思うんだが」

あたしの持っていた理想像が、なんだかぼやけるようだった。何が正しいのか、分からない。でも確実に、篤さんは「郁はちゃんとやれてる」と言って、あたしの心を浮上させてくれようとしてる。

 

無理してない?

お世辞じゃない?

 

聞きたいことはあったけれど、穏やかに笑う篤さんを見てたら、何だかあたしの心も凪いでくる。それは本当に不思議だけど―――――

 

 

 

 

篤さんが用意してくれた朝食は、どれも美味しくて箸が止まらなかった。

目玉焼きはトロトロの半熟。カリッと香ばしく焦げ目のついたベーコンを、黄身にくぐらせると贅沢な光沢が更に食欲をそそる。サラダ用に残してあったレタスとプチトマトは、コンソメスープの具として浮かぶ。4分の1になったプチトマト、温まっても美味しいんだなぁ。新しい発見だった。

「なんでこんなレシピ知ってるの?」

「んなもん、ネットで調べりゃ出てくるぞ」

便利な世の中だよなぁって、篤さんは満足気。

「・・・楽しそうだね」

無意識に零れた本音。篤さんは逃さず拾ってくれる。

「郁、楽しくないのか?」

その質問には答えられなかった。だって、ちゃんとやろうって思いばかりが先行して、過程を楽しむなんてこと考えられない。

「生活は、ずっと続くもんだ。それを楽しめなかったら、この先の人生が楽しくないのと一緒だぞ」

「ん・・・そうだね」

「郁、何事も長く続かせる秘訣は、楽しむことだ。結婚生活を長続きさせるつもりがあるなら、楽しむことを優先させてみろ」

あたしが納得できるように、篤さんは一番シンプルな方法を選んでアドバイスしてくれてるんだって分かる。理想に近づくために我武者羅になったり、「ちゃんとする」って言葉に踊らされたりするんじゃなくて、ただ単に楽しむこと――――

 

―――お母さんは、楽しんでたかな?

 

ふと浮かんだ疑問。過去の自分を取り巻く環境を思い出すためにはちょっとしたハードルがあり、すぐに疑問解消とはならない。記憶の引き出しを開ける途中で、洗濯終了のメロディーによって現実に引き戻された。

「郁、洗濯物を干し終わったら、ちょっと出かけないか?」

「んー・・・いいけど。でもね、もう一回洗濯機回したいの!その間に、掃除機かけたいし。まだまだやることいっぱいある!」

「よし、さっさと片付けるぞ」

篤さんは腕まくりをした。それは食器を洗うための準備だ。

「篤さん!あたし、やるから」

「いや、郁は洗濯物の方、やってくれ。洗い物は俺に任せろ」

「・・・うん。じゃあ、頼みます」

朝食を作ってもらって、洗い物までと思うと気が引けたけど。渋々お願いすると、篤さんは嬉しそうな表情をした。

 

―――あ・・・なんか、あの時みたい

 

 

あたしが小学生の時のこと。

ある日、お母さんはあたしにおつかいを頼んできた。それはあたしにとって、初めてのおつかいだった。一人で買い物に行く、それを母親から頼まれた時の喜びは、大人になった今でも忘れられない。

あの時あたしは、きっと今の篤さんのような表情をしていたに違いない。そんなことを思った時、あの時の母の表情が脳裏に浮かんだ―――

 

―――お母さん、とっても楽し気だった

 

 

そう言えばあの時、あたしはとても不思議な気持ちだった。初めてのおつかいを頼んできた母が、喜んで了承の返事をするあたしを見て笑ったのだ。

普段、遊びに行くあたしには車に気を付けろだの、怪我をしないようにしろだの、とにかく注意事項を並べ、玄関を出る直前まで門限を復唱させるような心配性ぶりを見せていた母が、ただ笑って「頑張ってね」と言っただけだったから。

どうしていつもみたいに心配しないんだろう?って思いながらも、託された使命に心が弾んで、出かけることに気を取られてしまったが。

「・・・そうだ。心配する必要、無かったじゃんね」

「ん?何か言ったか?」

シンクに流れる水の音は、あたしの呟きを消してくれた。

「なんでもない。洗濯物干してくる」

 

思い出したあの日の記憶に、思わず笑みが零れた。

おつかいを完了させ帰宅する途中、あたしは見たのだ。3人の兄たちが何故か電柱に隠れているのを。兄たちはそれぞれ、あたしの姿を確認すると背中を向けてしまってこちらを見てくれない。

何をしているんだろう?イタズラしたのかな?お母さんに言わない方がいいのかな?そんなことを考えながら、あたしは家に辿り着いた。

「アレ、お兄たちはお母さんに頼まれてたんだね」

当時、お正月などの特別番組のお馴染みだった『はじめてのおつかい』みたいに、母は兄たちに陰からそっと見守るようにお願いしてくれていたのだ。

「だから心配しなかったんだね」

こんなに時が経ってから気が付くなんて。同時に、あの時の母が楽しそうだったのを思い出せて、本当に良かったと思う。

 

「篤さんに感謝しなきゃ」

 

少し心が軽くなる。

洗濯物を取り出す手が、リズミカルに動く気がする。

楽しい―――って気持ち、何となく分かった。

 

 

 

 

二度目の洗濯も干し終え、掃除機もフル稼働して。スッキリした気分で部屋を見渡すと、篤さんはスマホと財布を手にした。

「郁、散歩しよう」

「散歩?!」

「ああ。どこがいい?」

突然聞かれて、頭に浮かんだのは馴染みの場所だったが、それを素直に伝えたら笑われそうで躊躇する。篤さんは「遠慮すんな」ってあたしの答えを待つ。

「うーん・・・今日って訓練無い日だよね?」

上目遣いで問うと、一瞬表情を固めた後に頬を緩めた篤さん。

「行くぞ!」

言いながらあたしの手を取る。指先が少しだけ冷たい、だけど不思議と温かな篤さんの手に引かれて、あたしたちは訓練場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

基地の外周に沿った樹々の根元には芝生がはってある所がある。普段は訓練の休憩中に疲れを取るためだけに存在していると思っていたけど、こんなお天気の良い日はちょっとした公園並みに癒しの場所であったことに気付く。

新緑の季節から夏へと移り変わる途中。今年の梅雨は早いかな?なんて話をしながら芝生に腰を下ろした。篤さんは少しして仰向けに大の字で寝転がる。

「見慣れた風景だが、休日となると違って見えるもんだな」

「ふふ・・・気持ちいいですか?」

横座りで見下ろす角度で篤さんに聞くと、閉じていた瞼をパチリと開け、あたしと自分の右腕を交互に見る。腕枕をしてやると言っているらしい。あたしは遠慮なく空を仰ぎながら上半身を後ろへ倒した。

篤さんの二の腕の肩に近い所。そこは普段、就寝の際にもあたしの枕となるベストマッチな場所だ。その慣れた感覚を後頭部に感じる。篤さんはただ両腕を広げて寝転がったはずなのに、腕枕のベストポジションになってるなんて・・・こんな小さなことが悶えるほど嬉しい。

「・・・なんで、測ったようなの?」

呟くように聞くと、それだけで問いかけの内容も理解してくれるとか。本当に嬉しすぎる。

「俺が何年、お前の上官やってると思ってんだ」

腕枕のポジション取りが上官の仕事ではあるまいし。なのにそれが当然って顔で返事をする篤さん。何だか変なツボに入った。クツクツと笑いながら、いつも通りに左側へ寝返ると、篤さんの厚い胸板が目の前いっぱいに広がる。すごく安心できる場所だ。

ホッとして――――涙が滲んだ。

 

 

あたしは今まで、母親から認められてないって気持ちが捨てられなくて、そんな母親からは早く離れたくて、家を出ること、自分一人で生きていくことを考え続けてきた。図書隊に憧れを抱いたのは、結果的には渡りに船だったんだと思う。歪んだあたしの心に、図書隊は都合が良かった。

だけど実際に図書隊員になってみて、あたしの考えは塗り変えられた。

 

人間は、一人では生きていけない。

誰かの存在に生かされて、誰かを生かすために存在する。

人との関りが無ければ、生きている意味はないのだ―――と。

 

命を預け合っている仲間たちが、あたしに生きる意味を教えてくれた。

あたしはそれに成長した姿で恩返しがしたい。その思いは少しでも叶っているかな?

同じように、あたしも誰かのための人間になりたい。

そう思わせてくれる筆頭が、篤さんだ。

あたしはこの人のために、何が出来るんだろう・・・

 

まずは、使える部下

出来れば、どこに出しても恥ずかしくない彼女

そして、自慢の妻に――――

 

なれたかな? なれるのかな?

 

 

 

 

 

 

「郁・・・また何か、斜め上思考じゃないか?」

「・・・そ、そんなことは・・・ない・・と思う」

色々頭の中で考えを巡らせていること、篤さんにはお見通し。でも今思っていることは、斜め上なんかじゃないもん!

 

「なあ、郁。お前は、そのままでいろよ」

 

篤さんが、何か大切なことを伝えたい空気に変えた。きっとあたしのために、懸命に考えてくれた言葉だ。だから、ちゃんと脳まで持って行く努力をしなきゃ。

 

「・・・今のままだと、成長しないじゃないですか」

「そういう意味じゃない」

篤さんの言いたい事、まだまだ理解不能。難しいなぁって思いが先に立つ。

「郁は今のままでいい。そう思ったのは、今が初めてじゃない。ずっと前から思ってて、お前には“もっと強くなれ”“もっと成長しろ”と先を急ぐような言葉かけはしないように心がけてた」

そう言われると、入隊当初の基本中の基本を学んでいた頃のような、教官が求める隊員像みたいなものを指導から感じることが少なくなった気がする。代わりに学んだのは、基礎の応用。自分で考えて行動を起こすこと。周囲との連携。それらは防衛部員としての身体を張ったこと以外でも、他人との関りにも通じるものだった。

「今のまま、そのままでいいと言うと、郁は必ず納得できない顔をしてた。今もそうだ。それは、お前がいつも“自分を成長させたい”と思っているからだ。ずっとそれを意識してきていたこと、ちゃんと分かってる。だから、俺は―――特殊部隊の連中は皆、お前は俺たちが何も言わなくても、ちゃんと成長してくれる人材だって信じてる」

力強い言葉には、思いのほか優しい声が乗った。あたしは少しだけ顔の角度を上げて、篤さんの精悍な顎のラインを見た。右耳が、僅かに赤いのが分かる。

「郁は必ず成長していく。どんなことでも、努力を惜しまない。成長のスピードは気にするな。人それぞれだから、お前に似合ったスピードでいい。その姿勢のまま、いつでもどんな時でもいてくれたら、お前が望む成長した姿を俺たちは必ず見ることができる」

 

きっとこの話がしたくて、今日を選んで散歩に誘ってくれたに違いない。

最近のあたしが、仕事と主婦業の両立に戸惑っていたから。今のままじゃ奥さんとしてダメだと、後ろ向きなことばかり考えていたから。

 

篤さんの言う“今のまま”は、現状に留まることを意味しているのではない。

今のままの気持ちで―――少しでも成長したいと願う、あたしのままでいいって。

 

「郁、自分の可能性を信じろ。お前はちゃんと成長してきてた。その実績も、俺たちはちゃんと知ってる。あとは―――とにかく、楽しめ!」

 

篤さんの右腕はあたしの頭を包むようにして、掌が髪を撫でる。いい子いい子って小さな子供を慰めるみたいなその仕草に、あたしは何度救われてきたんだろう。

少し背中を丸めて、思う存分甘えてみた。篤さんはボソッと、「場所が悪い」と呟いた。あたしが甘えたら、いつもならギュッと抱きしめてくれる。それが可能な場所じゃないってことだ。思わずクスッと笑ってしまった。

 

「篤さん、またこんなお休みを過ごしたいな」

名残惜しかったけれど、あたしは上体を起こして寝転がったままの篤さんを見下ろした。

「それはいいが・・・場所だけは検討な」

言いながら起き上がって顎を突き出す。示された方へ顔を向けると、遠くに見える庁舎の窓に黒い人影が動いている。

「え・・・もしかして・・・進藤三監?」

「と、どう見ても隊長だな」

「手、振ってますよ。気付いて欲しいんですね、きっと」

あたしは立ち上がって大きく両手を挙げた。

「明日の朝、弄られ放題だな」

「ふふふ・・・いいじゃないですか。それも、楽しいですよ」

篤さんは苦い顔をしていて、「無駄に目がいいんだよな」と某スナイパーの特殊能力を恨んだ。そんな表情が見られるのも、あたしだけの特権。篤さんとこんな時間を過ごせるのも、あたしだけに許された特別なこと。

 

 

「ふわぁぁ!ほんっとにいいお天気!」

全身に太陽の光を浴びて背伸びをする。喉を伸ばすように上を向き大きく息を吸ったら、覚えのある匂いを感じた。

 

これは―――篤さんの匂いだ!

 

「篤さんの匂いがする!」

「は?」

「深呼吸したら、篤さんの匂い!何で?・・・これ、陽だまりの匂いだよ!」

鼻をピクピクさせながら、大気の匂いをもう一度確認する。そんなあたしに釣られてか、篤さんは自分の腕を鼻にくっつけてクンクンと匂いを嗅いでいる。

「柔軟剤の匂いしかしないぞ」

「あはは!そうでしょ。洋服の匂いじゃないもん!」

あたしの説明に、篤さんは納得いかない顔をした。分かりやすく伝えたかったけど、なんて言ったらいいか、上手い言葉が出てこない。

「んーっとねぇ・・・例えば、ふかふかのお布団に包まった時みたいな・・・パリッと乾かしたシーツみたいな・・・」

「それが俺の匂いなのか?」

「うん。そうみたい」

ニカッと笑ったら、篤さんは気が抜けたように微笑んだ。

「もう、いいですぅ!あたしにしか分からない匂いなんですよ!」

頬を膨らませて見せて、クルリと背中を向けた。再び大きく背伸びをして、体いっぱいに空気を吸い込む。

 

それはリセットの儀式

篤さんからもらった言葉を、ちゃんと自分のものにする

あたしは今、アップデートされた!

 

嗚呼―――楽しい!!

 

 

 

 

 

じわりと胸が熱くなった。

一人じゃないって、こんなに楽しい。こんなに嬉しい。

この気持ちを篤さんにも伝えたい。

何から話そう―――――

 

「あのね、あたしが初めておつかいに行った時のこと、思い出したの!」

 

 

お母さんが楽しそうにしてたこと、きっと篤さんは笑顔で聞いてくれる。

幼い頃の話が出来るってこと自体、あたしにとっては成長の証なんだから。

 

 

あたしの話を興味深く聞いてくれる。

時々頷きながら、それはそれは嬉しそうな表情を見せる。

そんなあなたと、これからもずっとこんな時間を過ごしたい。

 

 

あなたと――――

 

ずっと、ずーっと―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

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君の名

東京の空

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名前: - [Edit] 2017-12-20 17:40

じんわり♡

「郁の寝顔見てられる」
私も撃沈♡ww

ぽかぼか。ほっこり。そんな感じになりました(*´꒳`*)
「陽だまり」ピッタリ!
ぽかぽかの場所にはずーっと幸せな気持ちで居られるもん♡
お昼寝もできちゃうし(笑)
うん。私も読んでほっこり幸せになりました。

頼まれた堂上さんの嬉しそうな顔を見て、お母さんが思い浮かんだ郁ちゃんにジーンときました(*´-`)
お母さんとの思い出も苦いことばかりじゃないねーって♡

さぁ!次はどこで過ごしましょうかね?(*≧︎艸≦︎)
進藤さんにバレないように決めなきゃww

名前: yuca [Edit] 2017-12-20 18:10

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