新作は、県展後の堂郁・・・ではなく
笠原父の登場ですww

タイトルは
♪小田和正「東京の空」
エンドレスで聴いてた・・・と言いたいところですが
実はエンドレスだったのは・・・
V6のコンサート「The ONES」のWOWOW放送w
自分が映ってる!!ってずっと大騒ぎしてます(笑)
うっひっひっひっひ・・・V6と共演だ!!

そんな浮かれポンチな私は
土曜日には 嵐に夢中です♡
ああ、忙しい(;'∀')







 

空を見上げてまず思ったこと

 

“なんて冷たい色をしてるんだ”

 

 

こんな場所でお前は――――

 

 

 

 

 

東京の空

 

 

 

 

 

 

武蔵境駅のホームに降り立ち、少し顔の角度を上げると空が細長く見えた。一部を切り取ったようなそれは、普段見ているものよりも精彩に欠け、若干気分を下げてくれる。

笠原克弘は言葉の通りの溜め息を吐いた。以前に一度訪れた場所ではあるが、やはり人の多さに戸惑いは隠せない。空気は季節柄以上に乾いていると肌に感じ、とにかく馴染めない気持ちが何にも付いて回る。

とりあえず目的の場所へ足を向けた。今回の上京は県知事以外の誰にも内緒だ。無駄な時間を使って帰宅が遅くなるなど以ての外。

先月、水戸で開催された茨城県展において、良化隊とその賛同団体が仕掛けてきた一連の騒動を文字通り命がけで治めてくれた、関東図書隊図書特殊部隊の玄田隊長の入院先を見舞うことが知事からの指示であるが、そのついでに娘にも会っておきたいと思った。

 

娘の郁は、小さな頃からお転婆の類に属する女の子であった。そのことを克弘はあまり重要視していなかったのだが、3人の兄の後を追って遊びまくる郁は、当然のように怪我が絶えなかった。その殆どは小さな擦り傷程度のものだったし、子供は傷を作りながら大きくなるものだと軽く考えていた。そんな考えを善しとしなかったのは妻の寿子だ。ある日の大怪我を機に、その思いは笠原家の呪縛になった。

母の愛情は、娘には呪いにしかならなかった。どうにかして母から逃れようと足掻き、娘は家を出ることを躊躇いなく選んだ。大学進学を絶好のタイミングとして掴み、郁は家からの脱出に成功した。その後は自分の考えだけで突き進んだ郁が、図書隊に就職を希望していると知った時の寿子は、気が狂うかと思うくらいの荒れようだった。何としても諦めさせるんだと、毎日力説を聴きながらの食事。図書隊を誹謗中傷する記事を何処からか集めてきては、早く救い出すんだと息巻く姿を見守る。多少の苦痛を感じたりもしたが、母親の愛情の深さも思い知る瞬間だ。腹を痛めて産んだ張本人の想いは、他人には真まで分からないのだろうと思う。

 

郁からは元気にやっている、というありきたりな内容の手紙をもらったのみ。漠然と事務方の仕事だと思って疑わなかったが、ある事件の特集記事で克弘は見つけてしまった。郁らしい隊員が事件現場にいた証拠。事務方の仕事だとは到底思えない姿。これは寿子には知られてはいけない。

図書隊の稲嶺司令を誘拐したという大事件の記事だったが、幸運にも寿子は良化隊を批判する記事には見向きもしない。問題の写真は見ることなく済んでいた。

 

入隊した年の暮れ、克弘と寿子は郁に会いに上京した。とにかく一秒でも早く娘の顔を見たいと焦る妻に着いて行くのがやっとで、郁がどんな場所でどんな暮らしをしているのか、じっくりと風景を見ることが叶わなかったと気付く。あの時とは違った気持ちも持ちつつ、東京の空を仰いだ。

 

―――なんて冷たい色をしてるんだ

 

それなりに自然に囲まれ、ちょっと足を延ばせば海水浴も可能な海もあり、高層ビル群など無縁な所で育ってきた娘が、「空は青い」という通説を覆すような色をした空の下で生活している。それだけで克弘の心には痛みが走る。

 

―――でも、あの子は・・・

 

先月見た、郁が特殊部隊員として最前線で働く姿を思い出す。

過去と現在の狭間で葛藤する気持ちを、何とか昇華したい。

そのための図書隊訪問にしたいと、密かに願った。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「すみません。こちらで働いている、笠原郁を呼んでいただけないでしょうか」

克弘はカウンター業務をしている女性隊員に声をかけた。

「笠原さん・・・特殊部隊の?」

「は、はい」

「それなら・・・あ、柴崎士長!」

手を挙げてカウンター外の人物を呼ぶと、「あらぁ」っと明るい返事が届いた。

「笠原のお父様!」

「え・・・あ、そうです」

「お久しぶりです。独身寮で同室の柴崎です」

丁寧にお辞儀をつけた。

「ああ!二年前にもご挨拶させてもらいましたね」

克弘の表情が柔らかくなったのを見て、柴崎は「ふふふ」と微笑んで見せた。

「今日は?笠原・・・って、先程からごめんなさい。つい癖で」

「いいんですよ。今日は郁の顔を見てから帰ろうかと思っていまして」

「そうですか、お泊りではないんですね。今日は館内業務ではないので、警備だと思います。訓練ではないのは確かです。朝、騒いでなかったから」

「騒ぐんですか」

苦笑しながら聞くと、柴崎はクスッと笑って肯定した。

「訓練大好き女ですから。タオルを大目に持っていくんだとか、塩分補給できるタブレットも隠し持ったり。普段の出勤より、準備に真剣になるんです」

「あはは。あの子は本当に体を動かすのが好きなんだなぁ」

「ええ、そう思います。本人は陸上で鍛えた足で図書隊に入隊できたんだって言いますけど、足が速いってだけじゃ特殊部隊の最前線なんて任されないはずです。厳しい訓練にもついていけるだけの体力も、忍耐力も兼ね備えてるからだと思います」

柴崎は誇らしげに語ってくれた。克弘は少し驚きながらも、感謝を伝える。

「小さい頃から元気だけが取り柄、みたいなところがありまして。一緒に住んでいたら、騒がしいでしょうね。ご迷惑もおかけしているかと思います」

「迷惑だなんて、そんな。笠原は朝が弱いので、目覚ましの5分後に私が声をかけて起こすとか。女の子らしい服装が苦手みたいで殺風景なクローゼットなので、たまに休日が重なったら買い物に付き合わせて強制的に可愛い服を買わせたり。そんなところです」

「・・・・・」

「ふふふ・・」

思わず反応に困ってしまったが、柴崎が笑うものだから釣られて苦笑だ。

「それは・・・本当に、柴崎さんのお陰で生活出来てると言っていいですね」

「いえ、同じくらい私も、笠原に助けられてるんです。同期の中でも笠原は特別な存在で。同室っていうのもありますけど、お互いに自分を包み隠さず曝け出せるから・・・言いたいこと言い合って、それだけで癒されてしまったり。笠原は白黒はっきりしてますから、曖昧な返事にはならないところがいいんです。一緒にずっと肩を並べて走って行ける、数少ない同志だと思ってます。それから・・・私のお腹が一杯になると、笠原が残り物を片付けてくれます。とても助けてもらってます」

最後にニコリと笑顔を向けられ、克弘は今度こそ吹き出した。

「楽しく生活してるんですね」

「はい。とっても楽しいです。笠原のお陰で!」

柴崎の言葉は、克弘の心を温かくした。郁の日常が少しだけ垣間見れて、そこに我が子の笑顔が存在するのだろうと予想できた。

 

郁に会うにはどうしたらいいか柴崎に聞くと、堂上班の二人が館内業務をしていると言うので、まずはそちらに挨拶することにした。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

文学の書架が立ち並ぶフロアに、覚えのある顔の隊員がブックワゴンを手押ししていた。

「お仕事中すみません。わたくし――――

「あー!笠原さんのお父さんですね!」

爽やかに告げられ、面食らいながら「はい」と返事した。

「先月の警備の際は、大変お世話になりました。うちの隊長の搬送など、本当に助けられました」

「えーっと・・・」

「小牧です。笠原さんと同じ堂上班の、副班長をしています」

「上司の方でしたか。いつも娘がお世話になっております」

深々と頭をさげる。小牧は恐縮しまくりだ。

「こちらこそ、彼女の存在に助けられてるんです」

俄かに信じられないと言った表情で見つめ返してしまう。

「本当です。笠原さんが入隊してくるまで、俺たち特殊部隊は男所帯でしたから、男だけの暗黙の了解的な、余所にはお見せ出来ないような事務室だったんです」

「あの子は、ちゃんと掃除出来てますか」

「あ、笠原さんが一人で掃除してるってわけじゃないですよ!そうではなくて、彼女が来てくれて、俺たちの意識改革が出来て。ちゃんと気を遣えるようになったんです。もちろん、俺たちの不得意な部分は彼女がこっそりカバーしてくれます。とても良い環境になったのは、笠原さんのお陰なんです」

「そうですか。体力勝負の仕事は、皆さんの足を引っ張らないようにするのが精いっぱいなんでしょう。少しでも何かの役に立っているなら、良かった」

「何言ってるんですか!!」

館内であることに配慮して声量を抑えていた小牧が、つい声を大きくして反論した。

「笠原さんは本当によくやってます。確かに入隊当初は、上官から厳しく扱かれることもありました。でも、そんな扱きに歯向かって行く根性がある。負けたくないって気持ちと、追いかけたいって気持ちで走り続けて、今の彼女があるんです。彼女は足を引っ張る存在なんかじゃないですよ。立派に特殊部隊の隊員で、俺たちにパワーをくれる存在です」

克弘は本当に有難く感じた。どう考えても女性を置くには無理のある部署だ。それでも郁に助けられていると言って貰えるのは、周囲の理解と素晴らしい指導の賜物だろう。

「お母さんは・・・その後、どうですか?」

小牧はそれが気になっていたようだ。

「そうですね。とてもナーバスになってはいましたが、日に日に気持ちも落ち着いてきていると思います。県展のことは、詳しくは話せませんでした。地元の新聞記事でも、大規模抗争だったことは伝えられています。それ以上に状況を説明すると、きっとまた心配でヒステリックになるかと思いまして」

「もうちょっと・・・時間がかかりそうですね。でも、笠原さんも目の前の任務を一つずつ熟して、ちゃんと成長していきますから。きっといつか、分かってもらえると信じてます」

郁に近い上官の言葉は、親としての克弘の心を安心させた。娘を預けても大丈夫だと、何となく思えた瞬間だ。

 

特殊部隊へ行ってみたいことを告げると、小牧は丁寧に道順を教えてくれた。

館内へ足を踏み入れた時の緊張感は、すっかり消えていた。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

小牧に教えてもらった通りに廊下を進むと、向こうから歩いてくる隊員が克弘に気付いて足を止めた。逆光で顔は見えなかったが、スラリとした体格で若さを感じた。軽く会釈をして通り過ぎようとした時、遠慮気味な声掛けによって足を止められた。

「あ、あの・・・笠原・・・さんではないですか?」

「はい・・・もしかして、特殊部隊の方ですか」

「はい。手塚と申します。笠原の同期で、同じ班に所属してます」

「あ~、いつも郁がお世話になっております」

お互いに頭を下げると、ふと視線があって柔らかく笑った。

「今、郁には会えますか?」

「あー・・・あいつ今、市街哨戒に出てますね」

「市街・・・しょうかい?」

「はい。近隣の見回りです。良化隊の車両を逸早く発見して検閲の動きをキャッチしたり、防衛の重要な仕事です」

「そうですか。車で?」

「ええ。でも私たち図書士には、まだ隊の車を運転できる許可はもらえてないので。今日は堂上二正と一緒に行きました」

堂上の名前を聞いて、少しホッとした。

「同期と言ったかな。じゃあ、柴崎さんとも?」

「はい。同期の中では特に仲良くしてもらってます。・・・いや、仲良くってのとは違うか」

手塚は何やら納得いかない様子で、考え始めた。

「はは。郁は男勝りなところがあるから、友達感覚なんだね」

「あー、そうですね。入隊の頃から周囲からは“兄弟”とか言われてますから」

「兄弟か。郁には兄が3人いるから、そこは違和感ないんだろうな」

「そうかもしれませんね。普段から男ばっかりの中に居て、全然平気みたいですから」

何故か二人で腕組みしながら、うんうんと頷き合っている。

「入隊から見ていて、郁は成長しましたか」

「そうですねぇ・・・成長してると思います。とにかく入隊したての頃は、上官にドロップキックお見舞いしたり、図書業務が覚えられなくて柴崎に特訓してもらったり、向いてないんじゃないかって思ったくらいでしたけど。・・・あ、すみません。嘘は言えないので」

克弘が明らかにテンションを下げたので、流石の手塚も失言に気付いた。

「いや。そうだろうね。皆さん、わたしに気を遣ってくれたんだよね。郁はよくやってる、役に立ってると褒めてくれたものだから・・・」

「あ、いや、ごめんなさい!それは嘘じゃないです!俺もそう思ってます。笠原はよくやってます。訓練も頑張ってるし、図書業務も今はちゃんと出来てます。いつも前を向いて走りきる感じが、俺たちのモチベーションを高めてくれる存在だし。俺にとっては、良いバディです」

「バディ・・・」

「はい。有事の際には必ず二人組で行動します。堂上班で瞬時にバディを組んで完璧に動けるのは、俺は絶対に笠原です」

手塚は真剣に食ってかかるように言った。克弘がそれに驚いて口ごもると、全てを吐き出すように彼は続けた。

「笠原と一緒に、俺も成長してきました。これからも一緒に、ここで成長していきたいと思ってます!」

 

もしかしたら、母親の命令で郁を連れ戻しに来たのかと思ったのかもしれない。

万が一そんなことになったら、手塚も小牧も柴崎も、全力で止めてくれるのだろうと予想できるくらい、郁の存在の大切さを語ってもらえた。

父親として、こんなに誇らしいことはない。

だからもう、郁に会うことは諦めて玄田を見舞って茨城に帰ろうと思い立った。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

玄田の病室は個室で、まだ一人で歩き回ることは許されていなかった。それでも玄田は元気そうな声と表情で克弘を迎え入れた。

「笠原さん、その節は大変おせわになり、ありがとうございました」

「いえいえ。少しでもお役に立てて良かったです。とにかく隊長さんを助けて欲しいと、郁に懇願されましたので」

「ええ、娘さんにも感謝してます」

少し声のトーンを落とした玄田は、自身に掛かる布団を見つめながら優しく笑った。

「あの・・・玄田さん」

「はい」

「郁を特殊部隊に入れたのは、玄田さんのお考えですか?」

ふと浮かんだ疑問を投げかけると、玄田は鋭い視線を向けてきた。水戸基地内で寿子が騒ぎを起こした時、郁の怒りが沸点に達してしまった瞬間の、あの時に玄田が見せた視線だ。

「はい。わたしが決めて、上に話をつけました。特殊部隊に女性隊員なんて、今まで誰も考えつきませんでしたから。確かに女性の視座を、という話は出ていました。が、実際にどうしたら実現となるのか、模索していたんです。防衛部で何年も経験を積ませても、現場の最前線には遠い。全く現場の意見が理解できない人材を育てても仕方がないだろうと。最前線に立てる女性隊員ならば、後進へのアドバイスも出来るはず。笠原には大きな期待をして特殊部隊に引き入れました」

「その期待に、郁は応えられていると?」

「はい」

力強い返事を寄越す。自信に満ち溢れていて、迷いが無い。鋭いと感じた視線は、怒りや警戒ではなく、彼の自信の現れなのだと思う。

「未だ、全国的にも女性の特殊部隊員が笠原一人、という点は申し訳なく思ってます。うちが前例を作れば、他も後に続きやすいと思ってたんですが、そこはやはり戦闘職種であることがネックになっていて。それに、笠原ほどの身体能力の持ち主は、なかなか・・」

再び、娘の能力を褒められ、克弘は込み上げるものがあった。

「それでも諦めずに、笠原には立派な先駆者になって欲しい。それだけの能力がある。それに、ちゃんと成長出来る環境がある」

目が合って、どちらかともなく頷き合った。

「ここに来る前に、基地の方に寄らせてもらいました。郁には会えませんでしたが、皆さんから娘の働きぶりを聞くことが出来ました。ここ数年のことも、郁がどんな思いで過ごしてきたか分かったような気がします。本当に不出来な娘で、お手数をおかけして―――

「初めから完璧な人間はいませんよ!人は成長するもんです。いや、成長しなきゃいけない。でも、成長出来るかどうかは、本人の気持ち次第。笠原が成長出来てるなら、それは本人の努力の賜物です」

また力強く告げられる。玄田の言葉を聞くだけで、腹の底から力が湧いてくる気がするから不思議だ。

「ま、そうは言っても、わたしは何もしてません!ぜーんぶ、堂上に丸投げですわ!ガハハ!それでここまで成長してくれた。これからも堂上に任せておけば大丈夫です!」

 

そうして玄田が大口を開けて笑ったと同時に、部屋のドアがノックされた。ここの主が「どうぞ」と元気に返事をすると、ドアは躊躇なく開けられ――――

 

「隊長!でかい笑い声が廊下まで―――あ」

「おお、堂上!いいところに来たな。笠原の親父さんが知事の遣いで来てくれたんだ」

「堂上さん、郁がお世話になっております」

「県展警備の際は、大変お世話になりました」

お互いに頭を下げ合う。顔を上げた時、堂上は何故か緊張の面持ちだった。

「堂上、何か用か」

「あ。防衛部長から確認印をもらいたいと」

傍らから図書隊の封筒を取り出し目の前に提示した瞬間、片っ端から判を突いていく玄田。

「隊長!!ちゃんと書類に目を通してくださいよっ!」

「んなもん、お前が見とけ」

「俺が見たって仕方ないって言ってるでしょうが!まったく・・・毎回毎回、これで仕事してるとか言い張るし」

「仕事だろーが。俺の印鑑は、俺にしか押せん!」

「なに威張ってんだか」

得意げに判を押す玄田と呆れ顔の堂上のやり取りを眺めつつ、頬が緩んだ。

「はっ・・・すみません。お見苦しいところを・・・」

「いえ。お互いに信頼関係があるからこそ成立するんだと思いますよ」

克弘に見極められて、嬉しそうな玄田と不本意を顔に書いた堂上。この対比もまた面白い関係で、克弘は声をあげて笑った。

「今回の訪問は、有意義なものでした。ありがとうございました」

「では、母上の方は?」玄田が心配気だ。

「大丈夫。時間はかかるでしょうけど、郁の決めた道を閉ざすようなことはさせません」

そんな策はまだ考えつかなかったが、ここは断言しないと一歩も実現に近付かない気がしてならなかった。

虚勢を張ってみて分かったこと。意気込んだ自分をこの人たちは信じ、任せてくれる。そうされることで、自分にも出来ると自信が生まれる。何とも不思議なパワーをもらった気がした。

 

「では、そろそろお暇します」

「遠くまでありがとうございました。堂上、お送りしろ」

「了解」

こういうところはしっかり上官と部下になるのだと、克弘は密かに笑った。

 

病室のドアを通り抜ける時、玄田がベッドから「笠原さん・・・任せておけば大丈夫です」と力強く頷いて見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

病院の玄関までの短い時間に、堂上と二人きりになれた。

この若者には聞きたいこと、話したいことが沢山ある。だが少し前を歩く堂上の背中を見ていると、何も語らなくてもいい気がしてきた。

 

県展警備の際。良化賛同団体の輩が銃を持って侵入したのを知ると、玄田が知事や最優秀作品を守るために自ら盾になった。玄田が銃弾に倒れるまでの間、娘を庇ってくれていたのがこの男だ。そのお礼も言いたいと思っていた。だがこの背中をみていると、あの時のお礼をしても「上官だから当然」だと言うような気がする。親の立場としては微妙ではあるが、もしかしたらこの男は娘に何かしらの気持ちがあるのでは・・・と思わなくもない。それを探りたいという気持ちもあるにはあるが、きっと彼は億尾にも出さないだろう。

小さい頃から兄たちの後を追い、男の子たちとばかり遊んでいた娘。あの子は恋というものを知っているのだろうか。少しばかり心配にもなる。

 

「あの・・・娘さんに会われますよね?」

「え?・・・あ、郁にですか?」

「はい。ちょうど、玄関を入ってきました」

余計な考え事をしていて、すっかり景色が変わっていたことに気が付かなかった。エレベーターを降り、広いロビーに出る手前まで来ていた。その向こうのガラスドアを潜り抜ける人々の中に郁が居ると言うが、克弘にはどれが娘だか確認できなかった。

「・・・よく郁だと分かりますね」

「・・・職業柄、目が良いもので」

克弘は「やっぱり」と心の中で呟いた。この男は、そういう男だ。多少物足りなさも感じたが、妙な安心感も生まれた。だから―――

「今日は会わずに帰ります」

「え?どうして―――――

聞き返される前に、近くの柱の陰に隠れた。そこから堂上に深々と頭を下げた。「娘を頼みます」と小声で添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょーかーん!」

堂上を見つけた郁は、笑顔を咲かせて走ってきた。その距離も結構ある。彼女も相当、目が利くようだ。

「おいこら。ここは病院だぞ。静かに来い」

「あ。はーい。すみません・・・」

叱られて凹む郁は、子供のようだった。素直に反省してることも見て取れた。

「どうした。無線でも入ったか」

「いえ。ちょっと遅いなぁって思ったのと、あたしも隊長に会いたくなって。でも、丁度帰るところだったんですね。もうちょっと早く出て来るんだったなぁ」

心底残念という顔で、甘えるように堂上を伺う。その表情は少女そのものだ。

 

―――そうか。郁も、そういう歳になったんだな

 

確信にも似たものを胸にしまって、克弘は満足な表情を浮かべた。

今日の訪問は無駄ではなかった。

 

 

「まだ時間もあるし。隊長も笠原の顔が見られたら喜ぶだろ。いいぞ、もう一度隊長の病室に戻っても」

「わー!やった♪ 教官、ありがとうございます!」

郁は弾むように頭を下げた。そして頭を上げた瞬間に見えたのは、頬を赤く染めた笑顔だ。

今回が特別という訳ではない。きっと堂上は、いつも郁の希望を叶えられるだけ叶えてくれているのだろう。

厳しいだけじゃなく、優しさもちゃんと郁に向けてくれる堂上の存在を心強く感じた。

 

再び玄田の病室へ向かう二人を陰から見送った。

少し離れた所で、堂上が振り返る。

郁が「どうしました?」と伺うが、堂上は黙って小さく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

病院の玄関を出た克弘は、深呼吸をするように胸を張って空を見上げた。

 

―――ああ、東京の空も悪くない

 

 

 

大切なのは、郁の笑顔がここにあること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

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comment iconコメント ( 6 )

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名前: - [Edit] 2017-11-29 21:26

うっひっひっひ・・・

笠原父・・・ちちぃ!最強の理解者です。
いつだって郁ちゃんの笑顔を願ってるんです。
遠く離れたところで暮らす娘が、本人が望むように生きれているように・・・と、茨城から空を見上げていたのだと思うと・・・( ;∀;)
東京の暗く重い空のもと、娘が防衛部でどんな仕事をしているのか、知りたいようで、知ってしまったら心配が募りそうで、ちょっと怖い気持ちもあったのかもね。でも、娘の周りには、信頼できる人間が多くいて、皆に愛されていて・・・嬉しかっただろうなぁ、父。
堂上さんに対しては、ちょっとうらやましい、というか少しの嫉妬もあって。もっと娘に動じてほしいような(笑)
でも、娘のいろんな表情を引き出すのはやっぱりこの人だと確信。
堂郁が恋人になる前に、恋人として紹介される前に、1人の男性として、人間として認められる、堂上篤。いい男だ♡

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-11-29 22:00

お父さん(*´꒳`*)

お父さんの心模様にじーんと…
心配で心配で、こんなに冷たい色の空の下で愛娘が…
でもみんなが郁ちゃんのことを愛してくれてるってわかって同じ空の色も違って見えて良かったです♡
『良い』じゃなくて『悪くない』ってのは、郁ちゃんが郁ちゃんらしくいる場所が自分の元では無いって実感したから、その寂しさもあるからかな?と思ったり…

教官(*≧︎艸≦︎)
お父さんにバレてる!バレてるよー!
数回会っただけで安心させられる男!さすがです♡

名前: yuca [Edit] 2017-11-29 22:25

親になると改めて親の偉大さがわかるんですよね(^^)

私もいくつになっても心配かけっぱなしだし、郁ちゃんはまだ嫁入りまえだもん、お父さんも色んな意味で心配してたんでしょうね‼
でもタスクの皆さんの話聞いて安心しただろうなぁ(*^^*)

それにしても父親の勘てすごいですね‼郁ちゃんの表情はそれ以上に分かりやすかったでしょうけど(笑)

安心したけど、なんか複雑…(^^;
でもよかった…みたいな絶妙な感情が手に取るようでした‼

名前: ssssfamily [Edit] 2017-12-01 20:27

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名前: - [Edit] 2017-12-10 20:31

ちこままさんへ

はじめまして。コメントありがとうございました。
図書戦に嵌って日が浅いとのことですが、色々に楽しめる作品に出逢えるって素敵なことです♪
これからもどっぷり図書戦沼に嵌っていただきたいと思います(笑)

で、頂いたリクエストについてですが。
申し訳ありません。私はリクエストを受け付けておりません。
特に、曲をテーマにしたSSは、誰かに「この曲で!」と言われて書けるものではなくて。
時期やシチュの指定くらいなら何とかなる場合もありますが、ここで発表しているお話でキャプに「リク」と謳っているものは、プライベートで一緒に設定を考えたりして出来たものなのです。
基本、私は読み手さんからのリクにはお応えできないので、ごめんなさい。
他の書き手さんで、リクエスト受付けてる方がいらっしゃると思うので、そちらへどうぞm(__)m


名前: 悠@youBB [Edit] 2017-12-11 16:12

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