お久しぶりですm(__)m
書けない日が続いてしまったので、予定を変更してリハビリ作品にしました。
時期は、恋人期。郁ちゃんが三正昇任試験を受ける前のお話。
短くまとめてみましたwww









記憶の背中

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、堂上と郁はランチデートをし、そのまま街を散策して、帰りに日用品の買い出しをしながら帰寮しようと予定を立てていた。

晴れて恋人となり、紆余曲折あったが大人の一線を越え、お付き合いは順調。不満と言えば、堂上が隊長たちの尻拭いに休日出勤させられて、せっかくのデートが流れたりすることが時々あることくらい。

実は前回の公休にお泊りデートがお流れとなってしまっていたので、今日は是が非でも満喫してやろうと意気込んでいた郁。

 

「・・・ご、ごめんなさいぃ・・」

「ん。仕方ないだろ」

 

普段から糖害被害を巻き起こす首謀者の二人が、寮のロビーで沈んだ空気を纏っていた。

多分、このまま予定通りのデートへ出かけるところだったであろう。が、一言二言言葉を交わした後、郁は女子寮の入口へ方向を変えた。とぼとぼとした歩みの彼女の後姿を、堂上がじっと見送る姿が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――おかえり。堂上教官、どうだった?」

「うん・・・仕方ないって」

「ま、そう言うでしょうね。お兄さんの頼みじゃ断れないもの」

両手で掴んでいたマグカップをテーブルに置いて、柴崎は努めて明るい表情を作った。

「で?何時に出掛けるの?」

「んー、もうそろそろ、かな」

「彼氏とのデートが潰れた代わりに、甥っ子とのデートを楽しんでらっしゃいな」

「ん・・・そだね」

これからの楽しい時間など想像できない、といった感じの郁のテンションに、柴崎はそっと溜め息を吐いた。

 

 

 

**

 

 

 

 

堂上との公休日デートをお断りする事態になったのは、郁の二番目の兄からの唐突な連絡が理由だ。

現在、兄の嫁は第二子を妊娠中。今日は定期健診だった。仕事をもつ兄嫁は、産休に入るギリギリまで仕事を続けるつもりでいて、受診の時だけ休みを取っている。その日は長男の保育園もお休みだ。

いつも通り、長男も連れて受診するつもりでいたのだが、朝になって長男が捏ねた。理由は分からないが、兄の話によると「虫の居所が悪い」のだそうだ。第二子妊娠が判明してから、ついつい長男のことは二の次になってしまっていたのを反省した兄は、仕事を休んで子供に付き合ってやろうと息巻いた。ところが、だ―――

「後輩が大切なプレゼン会議を抱えててな、その指導を任されてるんだ。今日はどうしても外せない打合せがあったのを忘れててさ・・・」

「う・・・あ、あたしが休みだって、言ったっけ?」

「おお!そうか、休みかっ!!」

一か八かの相談だったようだが、タイミングが良すぎる。とは言え、郁が公休であることがバレてしまった今、困っている兄(と甥っ子)を放っておけるはずもなく・・・

 

だが実は、今日のデートは重要な話をしようと思っていた。

少し前に郁は、手塚と共に図書正昇任試験受験資格を貰い受けている。郁にとっては夢のような話―――三正になれるかもしれない、重要な時期を迎えたのだ。

昇任試験を受けてもいいと言われて、普通なら二つ返事で済むのだろうが、郁はそうはならなかった。図書正になるという事は、かなりの責任と自覚が必要になる。ただ三正になるのが夢だったという理由だけで受けて良いものとも思えず、ついつい「考えさせてください」と返事をしてしまっていた。

これには特殊部隊の先輩たちが驚いて、気の毒なほどの気遣いを受けた。覚えることの多い勉強の心配を軽くしてくれようと、自分たちの経験談を語ってくれたり問題集を自宅から掘り起こしてくれたり。実際に図書正になってからの違いなども、やる気を高めようという配慮からか、先輩らしくカッコよく見える話を選んでしてくれた。

みなの気持ちが有り難く、郁は素直に自分の夢を現実のモノにしてみたいと思えた。試験を受ける気持ちが固まったことを、今日堂上に伝えようと思っていたのだ。

 

 

「――教官、ホントに怒らなかったなぁ・・・」

「いくたん?」

「あー・・・なんでもないよー」

思わず笑顔が引き攣った。甥っ子の亮(りょう)と手を繋ぎながら、本当ならもっとゴツゴツとした大人の男の手に包まれて歩くはずだったなぁ・・・なんてことを考えていたことを反省する。

それが一度では済まず、その後幾度か繰り返すことになろうとは―――。

 

 

自分の邪な気持ちを隠し続けて、可愛い甥っ子との時間を過ごす。とにかく、この小さな王子様のご機嫌を損ねないよう、細心の注意を払って。

子供が喜びそうな場所を選んで移動する。遊園地は、まだ年齢が幼過ぎて乗れないアトラクションが多いので遠慮し、遊具の充実した施設やそれに付随する広々とした公園など。平日だが小さな子供連れの親子は結構居て、子育て未経験の郁に多少の安心感を与えてくれた。

 

亮は終始機嫌が良かった。ママとの病院が嫌だと駄々をこねたのが嘘のように。

「ね、亮ちゃん。どうしてママと病院に行きたくなかったの?」

「んとねぇ、びょういんいくとねぇ、あかちゃんのおはなししかしないの」

「寂しくなっちゃう?」

「うーん・・・つまんないの」

「そか」

それは正直な気持ちなのだろうと思った。新しい家族の誕生は楽しみにしているようだが、子供なりの疎外感も感じているのだろう。少し可哀想にも思える。

普段の関りは殆ど無い関係だが、今日くらいは叔母らしいことをしてやろうと心に誓って、体力の限界を気にすることなく遊んでやった。

 

「亮ちゃん、ちょっと休もうか」

昼食を終えたので、僅かでも体を休めようと思い立った。公園の東屋辺りで落ち着こうかと考えていた郁に、亮は絵本が見たいと申し出た。

「え?じゃあ、図書館に行ってみる?」

「うん!」

元気よく返事をされて、郁は素直に嬉しい。図書館という場所が誰かに望まれるだけで喜びを感じられるほど、自分にとってホームになったのだと改めて知る。

 

しっかりと亮の手を取って歩き出した時、トドメのように堂上のことを思い出した。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

武蔵野第一図書館に一歩を踏み入れると、郁の身体に馴染んだ空気がふわっと二人を包んでくれた。郁が「本の匂い」と表現しているそれは、多分インクの匂いだ。そして、それらを納める本棚の木の香り。

郁は亮の手を取ったまま、迷うことなく児童書のブースへ足を向けた。しばらく行くと子供にも確認できる絵本の数々。亮は足取りを軽くして駆け寄って行った。

「亮ちゃん!走っちゃダメだよ!」

郁はボリュームを抑えて亮に声をかけたが、目当ての場所へまっしぐらの子供にはそれは届かなかった。

 

「あっ!!」

 

気付くと、亮がコロンっと転げていた。コーナーを走ったまま曲がり、何かにぶつかった様子だ。郁が慌てて駆け寄ろうとしたとき――――

 

「大丈夫か?」

 

書架の陰から声がして、亮に手を差し延べているのが見えた。

その声は、郁には背筋の伸びる存在感のあるもの。

聞き慣れた、ちょっと鼻にかかった優しい声。

 

―――きょーかん?

 

 

郁は亮が起こされた場所の手前のコーナーを曲がり、その声の主の背後に回った。

亮に正面から向き合い、片膝を着いて視線の高さを合わせているのは、紛れもなく堂上だった。間違いようも無い背中が、目の中に飛び込んで来た。

 

 

「泣かないで、偉いな」

右手が亮の頭に乗った。堂上の大きな手に、亮の小さな頭はすっぽりと納まっているように見える。

「一人で来たのか?」

「ううん。おねえちゃんと」

「そうか。危ないから、ここでは走っちゃダメだぞ」

「うん・・・おねえちゃんにもいわれたぁ」

郁の声は聞こえていたのだと分かり、苦笑する。

「それなら、ちゃんと言うこと聞かないとな」

再び、堂上の手が亮の頭で弾む。注意を受けている亮は、上目遣いになりながらも笑みを浮かべてコクリと頷いていた。

 

 

 

 

「あ、いくたん!!」

堂上の肩越しに目が合って、亮は表情を明るくして郁を呼んだ。

「え?・・・郁?!」

「えへへ・・・その子が、兄の子です。亮と言います」

朝の説明の補足のつもりで紹介をしたのだが、予想に反して堂上が速足で側に寄って来た。

「おい、何した」

答えに困る質問を返され、郁はキョトンとしたまま堂上を見つめた。

「なんで泣いてんだ」と差し出される手が頬に届く前に、郁は驚いて自分の手の甲で頬を拭った。

「あれ?・・え、えっ?」

堂上に言われて、初めて自分が泣いていることに気が付いた。

 

 

涙の訳は、咄嗟には思い浮かばなかった。

ただ、この訳も分からぬ状況にあっても、堂上は混乱する郁の思考が回復するのを待つかのように、少しの笑顔を湛えて「大丈夫」と伝えてくれている。それがとても安心できる穏やかな笑顔で、何となくホッとしてまた涙が滲んだ。そうして一つの理由に辿り着く。

 

「教官の・・・背中を見てたら、懐かしくなって」

 

郁はそれ以上の言葉を紡げなかった。涙は決壊してしまい、その場で膝を抱えてしゃがみ込みながらの号泣に発展。

堂上は困ったように眉を下げ、振り向いて「いくたんは、泣き虫だな」と亮に笑いかけながら手招きをした。

 

「いくたん?いたいの、いたいの、とんでけー」

小さな王子様の健気な掌と。

「そんなに泣くなら、早く俺に追いついてみろ」

過去の王子様の激励の掌が―――同時に郁の頭を撫でる。

 

 

「なあ、郁―――いつまでも懐かしむばかりじゃなくて、お前も成長した背中を俺に見せてくれないか?」

撫でられながら伝えられたのは、昇任試験を受けて欲しいという堂上の想いだ。郁は鼻を鳴らしながら僅かに顔を上げた。

「試験・・・受けてみてもいいですか」

「ああ、勿論だ」

「事務仕事の覚えは悪いし、ミスもあるかもしれないけど。それでも、三正になってもいいですか?」

「地位が人を作るってこともある。郁なら自分に合ったペースで、理想の図書隊員になろうと努力するだろ。それでいいと思うぞ」

「・・・おもうぞ」

亮が堂上の言葉尻をマネて、じっと郁を見た。その姿に思わず吹き出しながら、郁は最後の涙を拭った。

「えへへ・・・郁ちゃん、頑張るね」

「うん!」

 

亮が絵本を見つけたタイミングで、二人も一緒に立ち上がった。亮を目で追う堂上の背中を再び見つめる形になる。

 

 

「教官」

「ん?」

 

「まずは、あたしの記憶の中の王子様の背中を目指します!」

 

 

まだまだだから―――と呟いたのを聞き逃すことなく、堂上は苦い笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

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comment iconコメント ( 2 )

ああ、待ちかねたぞ

憧れの、夢のカミツレ。
両手を上げて「わーい!」と浮かれるほど、浅慮ではなくなった、着実に成長している(本人は気がつかないほどに)郁ちゃん。
沁みました~!
堂上さん…押し付けたり、「何を言っとる!」なんて強制したりしなくて、気持ち固まるのを待ってくれてる…ああ、素敵!(本当は一刻も早く、試験勉強でケツ叩きたいだろうにww)

亮君のチビスパイスも、郁ちゃんを素直にしてくれて。
ふふふふ。
憧れの資格試験………覚悟決めたら頑張るっきゃないね♪

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-10-27 05:24

教官ちゃんと郁ちゃんが何を思い何を悩んでいたのか
わかってたんだなぁ〜と。
それをしっかりと待ってくれた教官の優しさにウルっときました(*´-`)
教官は郁ちゃんが早く三正になってくれないと
先に進めないから困るのに(*≧︎艸≦︎)

そっとそーっと郁ちゃんの背中を押す教官…♡
あぁ〜あたしの背中も迷った時にそっと押してくれないかなぁ〜(笑)

名前: yuca [Edit] 2017-10-31 23:43

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