お久しぶりでございますm(__)m
年度末~新年度。私の仕事は忙殺期であります。

チビチビ書き進める10作品から、やっと完成品を。
時間無いとか言いながら、書き始めたら進んじゃったよん♪
・・・残り9作か。頑張るべ。







究極の選択

 

 

 

 

 

隊員食堂の入り口で腕組みをする郁―――この姿に、またかと呆れ顔をしたのは手塚。お馴染みだと笑うのは小牧。そして―――

「お前はいつまで迷っとるんだっ!!」鉄拳制裁を加えたのは堂上だった。

 

「いっ・・・たぁぁぁぁい!教官!そうやってポカポカ殴らないでくださいよぅ」

「少し刺激を与えた方が、決断の回路が繋がるんじゃないのか」

「・・・確かに。お陰で決まりました。酢豚にします」

少々剥れながらも、自分の決断には満足がいったようだ。いつもの軽い足取りで食堂内に入って行く。その素直な反応に小牧が盛大に笑い、堂上班がやって来たことを皆に教える羽目になってしまった。

 

 

「今日は派手なご登場でしたね」

柴崎がいるテーブルの隣りに堂上班が座ることになり、4人の着席のタイミングで「お疲れ様です」とお声がかかった。見ると、柴崎のいるテーブルには郁たちの同期が集まっている。

「あれ?今日はどうしたの」

「年度末前で比較的時間が取れる時期だからな。昇任も決まったことだし、ちょっと集まるかってことになったんだ」

「アンタたちには声かけなかったけど、何事も無ければここで会えると思ったの。良かったわ、事件とか無くて」

柴崎の言葉で、堂上班が容易く席を確保できた理由がわかった。そうとなればこの席順はダメだと、堂上と小牧は部下の二人に同期のテーブル側へ移動するよう促した。

 

 

 

もうすぐ郁たちは図書隊3年目に突入する。

年が変わって迎えた昇任試験では、それぞれに成長した姿を見せてくれた。最初から最後まで郁の筆記試験には心配させられたが、特に堂上のスパルタ指導の甲斐あってギリギリ合格点が取れた。数多くいる同期の中には、そもそも試験資格を貰えなかった者や惜しくも不合格となった者もいると聞く。郁たちのように昇任が決まったということは、各自の努力もさることながら、上官に恵まれるという環境の良さも付随する。改めて周囲に感謝の念が浮かぶ毎日だ。

「士長になったんだから、更に自覚を持って仕事しないとね」

柴崎が当然のことのように告げると、皆が深く頷く。その中から、思い出したように飛び出した話があった。

 

 

「そう言えば。今朝のニュース番組のコーナーで、人生の選択の時ってのをやってたの。誰か観た?」

「おお、俺観たぞ」

「私も。ここでも流れてたよ」

数人が観たと言うテレビの内容は―――新年度を迎える季節にあたり新たなスタート切る若者を対象に、この春に向けてあなたに訪れた人生の選択とは?という質問から、どんな選択肢があってそれをどう選んだか答えてもらっていた。

 

「俺たちの人生の選択の時と言ったら、やっぱり図書隊を選んだ時だよなぁ」

「ま、今のところね」

「うん。これから先には、もっと大きな選択の時が来るだろうけどね」

「人生は大きな選択の繰り返し、よ」

柴崎がお茶を啜りながら言うと、皆から感嘆の溜め息が零れた。

「流石、柴崎。名言出ました」

「加えて言うなら、日々は小さな選択の繰り返し」

「何それ?」

「ん?―――例えば、笠原」

「あ?」まさか自分に振られるとは思っていなかった。

「アンタ、今日は『から揚げにしようかな?酢豚にしようかな?』って迷ったでしょ」

「ぐはっ!」小牧が吹き出し、それは柴崎の質問に答えたような形となった。

「・・・それって、あまりにも小さな選択過ぎない?」

「うん。でもね、こういう日々の小さな選択の積み重ねが、大きな選択の時に役に立ったりするのよ。迷うことを優柔不断って思う事もあるけど、選択肢が用意されてるって幸せなことよ。それがどちらを選んでも不幸にはならない選択肢なら尚更。どちらも選びたいから迷うのよね」

「確かに、迷いました!ごめんなさいね、つまんないことで迷って!」

郁は自分が例になったことが納得いかない。

「つまんないことだなんて思ってないわよ。少なくとも私は」

他の同期がどう思っているかは定かではない。

「笠原は特殊部隊の仕事で、重要な決断をする場面を結構体験してると思うの。でもそういう時、じっくり悩む時間なんて無いはずよ。特に抗争中なら、判断は的確且つ迅速に、ですよね?」

「確かにそうだね」小牧には柴崎の言いたいことが何となくわかるようだ。

「そういう決断を迫られる環境にいるんだから、普段の気を抜ける時くらい、小さい事で迷っていいのよ。バランス取ってるの。そして、普段から選択することに慣れてると、いざって時に判断ミスが少ない。そういう点でも、選択の時を増やすことは良い事なのよ」

なるほどね~っと感心する同期たちの中で、郁は何となく居た堪れない表情だ。

「大丈夫よ!アンタはちゃんと、そういう訓練もしてるんだと思ってればいいの!」

不安げな郁を慰める柴崎を見て、小牧も援軍に回る。

「うん。結果オーライだという事にするなら、今のところ笠原さんが大きな判断ミスをしたってことは・・・無い、かな?」

助け船と思ったが、ちょっと自信が無くて堂上をチラリと見てみる。班長から否定の表情は伺えなかった。

 

「え、でも。笠原って、教育隊の時、見計らいしませんでした?」

「あー!やったな。しかも、権限無いのに」

あれは大きな判断ミスだろう!と今更ながらに盛り上がって、郁は肩身の狭い思いをする。

 

「あの時は新人だったろ。右も左も分からない、まだ訓練途中の時だ。特殊部隊に配属されて、俺と小牧の元で成長してきた今と、比べる方がおかしい」

 

それまで黙っていた堂上が口を開くと、皆の予想を反して郁を擁護する言葉が飛び出してきた。いくらか、機嫌が悪いような気もする・・・。

 

「あ、あの、あたし、仕事残ってるから先に戻るね。教官、お先に失礼します」

郁はさっさとトレイを片付けて食堂を後にした。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

―――教官の前で『見計らい』の話はやめてほしかったなぁ

 

 

事務室に戻る廊下をトボトボと歩きながら、郁は食堂でのことを思い返していた。

去年、手塚兄の罠に嵌り、郁は査問会にかけられる経験をした。自分には身に覚えのないことで追及され、穿った目で見られ、仲間たちからも距離を置かれ、辛い日々を過ごした。

そんな日々の終了は突然やってくる。同時に、手塚兄から衝撃的な暴露話があった。

 

―――教官が『王子様』だった

 

 

あまりの衝撃に我を忘れ、心配してくれた堂上を投げ飛ばす暴挙にまで発展してしまった。いくら昇任試験の勉強をしても、そこは塗り替えることのできない鮮明な記憶だ。

堂上の前で『王子様』の話はしていない。正体を知ってしまったことも話せずにいる。堂上があのことをどう思っているのか、考えただけで怖くてしかたがない。

だから、一連のことを連想させるようなワードは、極力使わないようにしていた。「見計らい」「査問」などは以ての外だ。

 

それなのにそんな言葉が飛び出したから、というのも食堂を出てきた理由ではあったが、やはり一番は入隊直後の甘ちゃんだった自分を思い出すのが恥ずかしくて。当時の自分を思い出すと、冷や汗が止まらなくなる。堂上に歯向かってばかりだったこと、防衛の仕事を甘く見ていたこと、図書隊を正義の味方のように考えて理想を膨らませていたこと―――全てが恥ずかしくて仕方がない。

 

 

しかし、郁には曲げられない信念もあった。

あの時――図書士の分際で掲げた見計らい権限は、図書隊員としては間違っていたかもしれないが、人としては正しいことをしたと思っている。

じっくり考えて選んだわけではない。あの時、体が自然に動いてしまったのだから仕方がない。

 

 

郁自身が経験した見計らいと、堂上があの日に宣言した見計らいを同じものと捉えていいのか分からない。だが、郁は願っている。堂上もあの日の見計らい宣言を「間違っていた」と思わずにいてくれることを。少なくとも郁は、欲しかった本を取り返して貰って感謝しているのだ。だから「間違い」なんかでは無いと思っていて欲しい。

 

とは言え、あの日のことを堂上に聞くわけにもいかず、今まできてしまった。

今更聞こうとも思わない。いや―――聞きたくない、のかもしれない。だから、見計らいの話になると居た堪れなくなるのだ。

 

 

 

 

 

「あ、いたいた。笠原~~!」

郁を呼び止めたのは、先程食堂で一緒だった同期の広瀬だ。

「ど、どうしたの!?」

「ん~?部長に早く戻って来るように言われてんの。みんなとの話、楽しかったからもっと居たかったんだけどぉ」

「そ、そっか。楽しい話が出来て、良かったね」若干、頬が引き攣っている気がする。

「二正達ともお話できたし♪笠原と手塚のお陰よ~~♡」

「・・・お役に立てたのなら、良かった」

微妙な気持ちのまま相槌を打っていた。

 

「あの後ね、ちょっと突っ込んだ話したのよ。真面目にね、笠原と同じ場面に遭遇したら見計らい宣言するか?って質問に、全員で二者択一」

「え・・・」そんな話、郁は嬉しくもない。

「意外にね、良化隊と対峙したい!とかって、男どもが見計らいするかもって言ってたのよ~」

「へぇ・・・」

「でも、二正はキッパリ、それは有り得ないって言ってたけどね」

 

―――バッサリ、かぁ

 

 

 

聞くまでもない。そもそも、郁がしでかした「一士の分際で見計らい」など、普通の隊員だったら有り得ないのだから。いくら当時と同じ状況と言っても、堂上や小牧のようなエリートコースをゆく人間には考えられない展開だろう。そこは改めてがっかりする程のことでもなかった。ただ――――

 

「堂上二正にそう言われて、男どもは恥ずかしくなったみたいで。やっぱり見計らいなんてするのは笠原くらいだ!ってバカにしてたのよー!まったく・・・調子がいいんだから。ねぇ?」

「ん?あ、うん・・・そ、そうだねぇ・・・あのさ、その時、教官は何て?」

「えー、別に?いつもの不機嫌そうな顔で黙って聞いてたけど?」

「そ、そっか。あー・・・ありがとね。じゃ、またね!」

 

―――教官も、みんなと同じ意見なのかなぁ

 

 

期待する訳じゃない。ただ、部下として認めてくれるなら、少しは庇って欲しかった。

「否定はしないが、まあ勘弁してやってくれ」とか何とか・・・ギリギリのフォローも無かったのか。

 

 

―――それくらい、見計らいの件は触れたくないんだね

 

 

分かっていたけど、実際の反応を知ると寂しいものがある。そして郁のしでかした事は、何年経っても昔を懐かしむ出来事にはならなそうだ。きっと「いつまで経っても成長してない」と言われる場合の例に取り上げられるのだろう。

 

沈んだ気持ちのまま事務室へ戻るのは憚れて、郁は少し時間をかけようと遠回りの道順を選んで歩いた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

午後の始業にはいつもの笑顔に戻れるよう、ポジティブ思考を発動させる。嫌なことは忘れて、楽しいことだけ思い出して。

そんなことをブツブツ呟きながら歩いて、気が付くと特殊部隊事務室に到着していた。頬をパシッと両手で挟んで、気合を入れてドアを開けた。

 

「ただいま戻りましたぁ」

「お、笠原ぁ!どこほっつき歩いてたんだ?堂上たちが心配してたぞ」

「えっ!?教官が?」

「探しに行こうとしたから、時間になれば戻ってくるだろって引き止めたんだ。笠原だって子供じゃないんだからな。食堂から事務室に向かうのに迷子ってこともあるまい」

「ぷっ!迷子ぉぉ?」苦笑いだ。

「今、小牧と給湯室だぞ」

「あ、食後のコーヒーですね。皆さんの分も、ですか?」

「ああ」

「じゃあ、私が代わって淹れてきますね」

 

事務室内をぐるっと見渡し、隊員を確認して給湯室へ向かうと、入り口手前で小牧の声が聞こえてきた。ついつい気配を消してしまう。戦闘職種の性だ。

 

 

「―――って、俺は怒りしかなかったよ」

「まあ、落ち着け」

少し興奮気味の小牧を宥めるのは堂上だ。

「だってさ、あいつらは実際に何があったかなんて知らないんだよね。それでよく、あんな質問出来たものだよね。何が『あの時の笠原さんと同じ境遇』だよ!」

郁にも小牧が話していることが何なのか分かった。先程、広瀬から教えてもらった、食堂での続きの話だ。

 

「っていうか、意外だな。どうして堂上はそんなに落ち着いていられるわけ?」

「お前の気持ちは分かる。だが、よく考えてみろ。確かに奴らは、あの日の笠原の状況なんて詳しく知らない。あいつがどうして見計らいをしようと思ったのか、いや・・・もしかしたら考える前に体が動いてたのかもしれん。そうなるきっかけがあったことは、笠原と俺たちだけが知っていればいい。わざわざ奴らに理由を教えてやる必要もないだろ」

「うん・・・そうだけどさ・・・俺は、笠原さんが同期の奴らにあの頃のことでバカにされてるのは我慢ならないな」

「俺だって、その点は同感だ。だから、あいつらの選択を完全否定してやった」

「―――あれって、奴らを怒ってたの?」

「ああ、そうだが?」

「堂上、分かり難いよぉ。あれじゃぁ、見計らいをした笠原さんのこと怒ってる風にしか見えないって」

「そうか?だとしても、別に構わん。当の本人は居なかったし。奴らも俺がかなり不機嫌だと思ってあの話題は早々に切り上げてくれたしな」

「ぐふっ・・・あれ以上聞かれたら、本心がダダ漏れちゃうもんねぇ?」

小牧の声は、笑いを嚙み殺したようなものに変わっている。

「見計らいのことを聞かれても、俺は正しい答えを用意出来ないからな」

「ふ~ぅん・・・じゃあ改めて。笠原さんと全く同じ状況に遭遇したら、堂上はどうするの?」

 

「今更それを聞くのか?」

「―――今更、ってことは?」

「お前は既に、俺の答えを知ってるだろ」

 

不貞腐れたような声だった。それに対して小牧は笑い始めたらしい。喉を鳴らしているのが聞こえてきた。

「・・・そっか、あの日の笠原さんは、間違ってはいなかった。そう思ってるから、お前は彼女と同じ行動をとる。―――いや、笠原さんが王子様をなぞらえてるのか」

小牧の言葉に返事は無い。きっと苦い表情をしているに違いない。

 

「くくく・・・笠原さんは凄いね。あの日、僅かな時間しか出逢えなかった図書隊員の記憶だけで、その正体も知らずに追いかけて来たのに、見事にあの頃の堂上の生き写しみたいな隊員になってるよ」

「俺はあんなだったか!?」

「うぷぷ・・うん、そーっくり!」

嬉しそうな小牧に対して、堂上は「笑うな」と不満気に呟いた。続いてはっきりと声に出して「はぁ」っと溜め息を吐いた。

「あの頃の俺になんて、似なくていいのに・・・」

「なんて言いながら、満更でもないって顔しちゃってさ」

「満更でもないって、なんだよ」

堂上の一言に、小牧が「いひひ」と笑っている。

「笠原さんの言う王子様の正体は明かしたくないのかもしれないけど。だったらさ、正直に言ってあげればいいんじゃない?ちゃんと笠原さんの成長を認めてるってこと」

 

郁は潜めていた息をゆっくりと静かに吐いた。一瞬、動きが止まったかと思った心臓が、次第にドクドクと波打つように存在していることに気付く。

堂上と小牧の会話をこれ以上盗み聞きしていていいのか?と良心が囁き始めるが、郁にはどうしても気になる内容で、この会話を途切れさせるのは勿体ない気がして仕方がない。

 

「・・・俺に認めてもらえたからと言って、あいつが喜ぶと思うか?」

「うん、喜ぶと思うよ? 何でそんな自信なさげなのさ」

「俺は・・・あいつが入隊してきた時から、あいつの気持ちを無視して図書隊を辞めさせることしか考えてなかったんだぞ?逃げ出してしまえばいいと、敢えて厳しく扱いてきたんだ。あいつだって言ってたじゃないか、鬼教官って。そんな俺があいつを認めるなんて、今更じゃないか?」

「確かに理不尽な扱きだったかもしれないけどさ。笠原さんはあの頃のことを恨んだりしてないよ。自分を育ててくれたって、本当に感謝してるって。彼女が真っすぐな性格なのは、堂上だって分かってるだろ?未だにお前を鬼だと思ってたら、あんなに懐いてくれてないって」

「・・・懐いたって言うのか、あれは」

「うん。完全に飼い主と犬だよね」

 

再び小牧が笑い始めた。その途中で堂上が何か呟いたらしい。小牧が「え?なんだって?」と聞き返している。

 

「もし、次に大きな抗争が起きたら、笠原を最前線で使おうと思ってる」

「そっか・・・それは思い切った選択だね」

「ああ。俺にとっては、究極の選択、だな」

 

郁の心臓がドクンっと鳴った。

 

「うん・・・うんうん・・・わかった。お前は、そうやって笠原さんを俺たちと同じフィールドに立たせることで、彼女を認めてるってことを伝えてるんだね」

「伝わるといいんだが」

「大丈夫。笠原さんは図書隊が大好きで、この仕事を続けたいから辞めずに頑張ってくれたんだ。彼女が望む防衛方の最前線で仕事が出来るとなったら、そう采配してくれたことに感謝して挑むと思うよ」

 

郁は小牧の嬉しそうな声を聴きながら、反論しない堂上の静かな想いを受け止めた。

はっきりと言葉にはしないが、図書隊員として認めてくれていることが分かって、それまでのモヤモヤした気持ちはどこかへ吹き飛んだ。

 

 

もういい―――

 

王子様にお礼がしたいと思い続けて、いつか逢えたらと期待するばかりだった。

王子様としてじゃなく、そのままの堂上教官として見ていこうと思いながらも、どこかで過去の姿を追いかけてしまっていた。

 

でも、もうやめよう―――

本当に、王子様からは卒業しよう!

 

王子様なんて・・・もう、どうでもいい!!

 

 

 

 

 

 

郁は足音を消して数メートル引き返した。そこから今度はバタバタと足音を立てながら「教官いますかー?」と声をかけて給湯室に近付いた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「くぅぅぅっ!!・・・迷う」

「今日は何だ」

「うわっ!ど、堂上教官っ!!」

 

訓練後の隊員食堂で、トレーを持ったまま唸り続ける郁に堂上が痺れを切らせて声をかけると、面白いくらいに驚いて仰け反った。

 

「す、すみません!今、すぐに決めますから!」

「別に謝らんでもいい。じっくり迷えばいいだろ」

「・・・教官、いつも拳骨落とすじゃないですか。どうしたんですか、今日は」

「ん? まぁ、あれだ。柴崎が言ってたバランスってやつだ。今日の訓練中、良い判断してたからな」

少し照れてるのか、視線を合わせない。

 

「で?何を迷ってるんだ」

「えーっと・・・チキン南蛮のタルタルソースがあたしを呼んでるんです。でもぉ、今日のデザートは久しぶりの抹茶ムースでぇ。二人の戦いが白熱してしまって・・・」

タルタルとムースを擬人化した表現に、堂上は思わず吹き出しながらも「やっぱりな」と納得したようだ。

「分かった。じゃあ、俺がデザートやるから、心置きなくタルタルソースと戯れろ」

「いいんですかぁ?」

「何を今更。毎回、俺のデザートはお前のトレーに移動してるだろうが」

「いえ、そのことじゃなくて。柴崎は、日々の小さな選択の積み重ねは、いざという時誤った選択をしないための練習だって言ってました。あたし、小さな選択の瞬間に巡り合っても、いつも教官に助けられてて自分で決められてないなぁって思って」

 

堂上はゆっくりと郁へ視線を向けた。

 

 

ただ郁が喜ぶ顔が見たくて、餌付けと思われるようなことをしていた自覚がある。

そんな自分の行為に、「助けられた」と言う。

 

 

ぼんやりと、既視感を覚えた。

 

 

それは数年前のある書店で遭遇した場面。

女子高生が一人で良化隊に立ち向かっている姿を見て、図書隊員としての背中を見せつけられた気がして一歩を踏み出さずにはいられなかった瞬間。

彼女を助けたかったのではなく、自分が図書隊員として存在したかったから見計らいをしただけだったのに・・・

正義の味方みたいで憧れた、と言って追いかけて来た少女。

 

郁が直面した人生の選択肢には、確実に『あの日の図書隊員』があったのだ。

 

そしてそれを、迷わず選んでくれた――――

 

 

 

 

 

「ちゃんと自分で決めたいなら、次からは『俺からデザートをもらう』って選択肢も入れとけ」

「え・・・その選択肢、美味し過ぎます。っていうか、あたし図々しいから、それしか選ばなくなっちゃいますよ?」

堂上は口角を上げた。

 

「ああ、構わん。それなら俺は、選ばれなくてもデザートをくれてやる」

 

「ん?なんかソレ、変じゃありません??」

「いいから。ほら、行くぞ!」

 

変だ、と言いながら耳を赤くしている郁が可愛くて、合図の代わりに頭を撫でた。

小さく返事をして後ろをついて来る郁が、きっと小牧あたりには飼い犬にしか見えないんだろうなと思うと、なんだか可笑しいような嬉しいような。

 

堂上は、郁から見えない角度でそっと笑顔を浮かべてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin



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僕たちの未来

あの日を忘れない

comment iconコメント ( 12 )

きょうかーーーーん!

教官の愛が、深くて大きくて・・・じーんときます。

一人の男性として郁ちゃんに向ける気持ちも、上官として大切な部下に向ける気持ちも、ほんとに大きくて。
誰に誤解されてても、自分はわかっているし、支えるし、評価してるっていう、静かな熱。ああ、もう。感動!!
直接言わずとも・・・ってその背中がむちゃくちゃ大きいよぉ。

給湯室で、教官ズが、郁ちゃんがバカにされているみたいで腹がたつって愚痴ってるの、いいなぁ。部屋飲みでやらないでくれてありがとー!郁ちゃん、よくぞこっそり聞きました♪
気の利いた、愛される部下に乾杯!!

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-04-06 13:20

キターーーーーー!!
最初に、悠さんお忙しいのに素敵な作品のアップ感謝感謝です!

この堂郁の距離感、大好きぃ!
付き合ってないよね?(念のための確認(笑))
教官、ほんとうに郁ちゃんを大切に大切に育ててますね。
大きな愛情に包まれて、しっかりと成長していく郁ちゃん。ほんとうらやましい。私も教官に育ててほしい。って、言ったら、ayaさんに郁ちゃんポジションほしがるって、言われそうですが(笑)
どんな場面においても、選択するって難しいですね。
タスクって、本当にすごい!

残り9作かーーーーーー。楽しみ。
でも、そろそろ連続シリーズもほしいな、てへ。
あーあ、図書隊ででっかい事件起きないかなーーー。
手塚君の成長物語的な?悠さん流の。うふふふ。
うふふふふふ。

名前: kiko [Edit] 2017-04-06 19:15

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名前: - [Edit] 2017-04-07 00:19

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名前: - [Edit] 2017-04-08 14:52

悠さん、私が大好きな視点を掬いあげて、見事に表現して下さってありがとうございます‼︎さすがですっm(_ _)m
上官二人の郁ちゃんへの評価がストレートに伝わるのは、とても嬉しい! 他の人から聞かされるばかりでなく、こんな素直な気持ちを自分の耳で聞けたら、なんと幸せなことか!
たまらず出てきました。
この時期の郁ちゃんの、未熟さを自覚して現実と向き合おうとして、でも、純粋な真っ直ぐさを隠せない(上手く表現できません…恥)姿勢が大好きです。それを見守る上官達。
お約束の言葉足らずの堂上さんも、今回はちゃんと少し素直になっててヨロシイ♪ 熱い小牧さん まで見られて大満足!
次お待ちしてます〜。欲張り…

名前: サフィー [Edit] 2017-04-09 18:47

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名前: - [Edit] 2017-04-12 10:59

ayaちゃんへ

あざーっすm(__)m

本当は、書きたかった「究極の選択」は他にあったんだけど。
書き切れなかったんだよねぇ・・・そのラストに持ってくエピソードが思いつかなくて。
(思いついてたら、物凄く長い話になってたことでしょうww)

でも、あやちゃんが教官の想いに感動してくれたって言うので、もういいの(笑)


そして、郁ちゃん側の「究極の選択」も書きたかったの。
でも、それは多分、革命編あたりに集約されてるよなぁ・・・と思ってさ。


今年は、革命後の夏の話を書きたいです!
(あくまで希望)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-29 23:04

kikoさんへ

ありがとございますm(__)m
忙しいと言いながら、仕事以外に色々あり過ぎて・・・こちらに時間が割けない。

原作に忠実に、まだ付き合ってません!(笑)
教官に至っては、箱の蓋をぶっ壊す直前ですww
このジレ期がいいのよね~♡
一歩踏み出せない感じが。書き手なのにキュンキュンしますw

残り、未だ9作です。
完成させる傍から、新しいタイトル作っちゃってるからww
で、このkikoちゃんのリクエストに丁度いい手塚の話書き始めてたから、少しずつ頑張って書き上げたよー!
でっかい事件は・・・会議しよっか(再び)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-29 23:11

nonorinさんへ

いつもありがとうございますm(__)m
非公開でもなんでも、コメントは嬉しいです(*'▽')

図書戦がこんなに多くの人に多様に愛されるのは当然のことなんでしょうね。
小説を読んだだけで、キャラクターを勝手に動かせるくらいの許容があって、ストーリーを妄想するくらい行間に溢れる想いがある。
もう、教官たちは架空の人物でなくなってきてるし(笑)
私も書いていて、手前味噌ではあるんだけどジーンっとしてしまう時がありますw
そんな時間を貰えることにも、図書戦には感謝です♡

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-29 23:19

ぴーさんへ

ありがとうございますm(__)m

教官の前での見計らいの話は、色んなことと繋げてしまって辛くなっちゃうと思います。
自分にもイタイし、教官に対しても居たたまれない・・・そんな時期。
こまっきーの助言通り、王子様じゃない教官を見ようと努力するけど、郁ちゃんは不器用だからなぁ(;'∀')
なかなかクリアできなくて足掻いていたと思います。
もし、教官の口から何かが聞けたら・・・郁ちゃんは救われるのにな・・・と。

私の願望が詰まった給湯室になりました(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-30 02:16

サフィーさんへ

わぁ!ありがとうございます!!

入隊当初の扱きの時代があるために、教官はイマイチ素直になれない。
でももう、優しくしないなんて選択肢は無くて。
分かり難く郁ちゃんへの攻撃に反撃することも、ただ黙って反応を見せないことも、全てが郁ちゃんへの優しさです。
そんな風に大切に育てた部下を、抗争の最前線に使う・・・それは、図書隊員として最高のご褒美。
それだってきっと、ぶっきらぼうに命令するだけなんだろうな。
頭ポンくらいはあるかな。
それだけで郁ちゃんは嬉しくて張りきっちゃうんだろうな。
きっと堂上班は大活躍なんだろうな。
なんて妄想が膨らみます♪

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-30 02:32

yucaさんへ

むふふ♡ なコメントありがとう(*'▽')

きっと小牧さんは、堂上さんが落ち着いてたから、わざと熱くなってみたんだと思う。
同じ気持ちだと分かるから、上手いことガス抜きをさせてあげるみたいに。

このお話で手塚の影が薄かったのは、もう一本の方でガッツリ手塚クローズアップしてたから(笑)
登場させることさえ思いつかなかったww
(ごめんよ、手塚。キミのことは次作で救済してるからね♡)


さてさて。
追伸の件。仲間がいて嬉しいです\(^o^)/
一緒にあの方々を心の中で応援しましょ♡

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-30 02:41

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