連日投稿の新作は、前作とリンクしたお話。
というか・・・「愛される理由」や「君は太陽」を含めた4作品と時系列で繋がった最終話です。
元々は「君は太陽」の番外編として書いていたんですが・・・。
前作の堂上sideってのも考えて、結局、ここにぶっこみました。
でも、堂上sideって感じではなくなってしまいました。すんません。

カテゴリは一話完結ものとしてますが、それとは別に時系列シリーズ「カミツレ後~革命前」として目次にリンク貼っときますね♪
出来れば、他の5作品と共にお楽しみください。








君は太陽:番外編

 

あの日を忘れない

 

 

 


 

 

 

>>堂上――― 被弾!!

 

 

無線に飛び込んできた声は、怒気を孕んでいた。

特殊部隊員は皆、その声の主の気持ちに共感しながら、堂上の外傷具合や受傷過程の報告を受け、命に別状は無さそうだと安堵の溜め息を吐く。

 

 

>小牧、すぐに堂上を医療班へ連れてけ

>>・・・了解

 

諦めたかのような返事に、宇田川たちは苦笑した。

 

 

 

 

 

時は、正化30年秋―――堂上と小牧が特殊部隊に配属されて2年目。本来の有能さを発揮し、部隊の最前線を任される宇田川班のダブルエースと称される存在だった。

そんな華々しい存在でありながら、片割れの小牧はいつも不満げな表情をしている。その日も例に漏れず、文字通り頬を膨らませて医療班の元へやってきた。

 

「やこちゃん!聞いてよ。堂上のやつ、また一人で飛び出してさぁ!」

「・・・傷を作ってきたのね? ね、君には学習能力が無いのかしら?」

容赦なく浴びせられる言葉には、怒りと呆れが混ざっている。そのくらい心配をかけていることは重々承知なのだが。

「あの距離じゃ、良化隊の攻撃を封じる一手は届かなかったんだ。仕方ないだろう」

「分かってるよ。確かにお前の判断は間違ってない。でもさぁ――――

「はーい、ストーップ!!それが始まったら止まらないってことも学習してねー」

ヒートアップした二人の間に割って入ったのは、臨時採用の前野医務官。彼女は医務室のピンチを救う女神のような存在だ。

「堂上くんは、もっと自分の身体を大切にしようね。あなたが優秀で、厳しい訓練にもついていけるだけの体力があるのも知ってるけど、だからこそタスクに必要とされてるんだから簡単に戦線離脱とかはダメじゃない?」

「うんうん。やこちゃん、もっと言ってやって!!」

「今日のは仕方なかっただろう!悪いと言えば、良化隊が俺の頭を狙ってきたってことくらいだ」

「確かに交戦規定違反だけどさ、狙われるようなとこに飛び出すお前が―――

「もう!分かったから、ここで揉めないでよっ!!」

前野は遠慮なく堂上と小牧の頭をペシペシと続けて叩いた。

「ひどいよ、やこちゃん!なんで俺まで?!」小牧が恨み節だ。

「うるさいのよ、あんたたち!他にもケガ人が居るんだから、静かにしてちょうだい!」

口と手を一緒に動かして、前野は堂上のケガの手当てを完璧に熟す。そして改めて「よくもまあ、頭を狙われて腕の掠り傷程度で済んだわね」と安堵の表情を見せた。

 

「訓練の賜物なんだろうけど、でも小牧くんの言い分も分かるわ。運が良かったとしか思えないわよ」

「運が良いのも実力の内、ですよ」

「そんなこと言えるのは、命あってこそよ。ちゃんと身を守る手段を選んでから言ってちょうだい」

再びペシッと頭を叩かれる堂上。そのことに不満気な表情は無い。前野のお叱りは、甘んじて受けることになっているようだ。

「・・・はい。肝に銘じます」

「やこちゃん、ありがとう。じゃあ、俺たちは戻るね」

「気を付けて!」

 

2人は再び抗争へと走り出した。

まさかこの日、堂上が二度目の医療班来訪となるとは思いもしなかった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

抗争終了を告げるサイレンが、前野たちが詰めている医療班の一角にも鳴り響いた。

暫くして、騒がしい一団がどっと押し寄せて来た。

 

「前野―っ!こいつ診てくれ~!」

「進藤さん、お疲れ様でーす。・・・ん?堂上くん!?」

足を引きずる堂上が、進藤に抱えられるように連れて来られた。

「まったく・・・最後の最後に被弾しやがった」

「また飛び出したの!?・・・あれ、小牧くんは?」

「説教部屋」

「せ、説教!?どうしたって言うのよぉ」

堂上の傷よりも、この場に小牧が居ないことの方が心配と言った感じの前野に、進藤は事の次第を話してやる。

 

 

 

「前野の言う通り、こいつ、最後の最後に飛び出して被弾したわけだ。まあ、これでもこの程度のケガで済んで運が良かったと言えるんだけどな。被弾しながらも相手の侵入は阻止したから、お手柄でもあるんだが・・・これには小牧がキレちまって。終了のサイレンと同時に一発」

「え・・・」

進藤は終始俯いている堂上の顔を思い切りよく正面に向かせる。前野の目の前に現れたのは不貞腐れたように歪に膨らんだ顔。間違いなく殴られた痕が堂上の口元に残っていた。

「あららぁ。派手にやられたものね」

「ケガ人だっていうのにいきなり殴ったってことで、今ヤツは隊長室」

「玄田さん、説教出来るかしら?どちらかと言ったら、堂上くんに説教したいんじゃなぁい?」

少々呆れ気味に、前野は眉を下げながら堂上の手当に忙しい。

「小牧も、相当我慢してたみたいだな。あんなに怒り狂ったヤツを見たのは初めてだ」

「そりゃ、怒りもするでしょうよ。ここに来るの、今日だけで二度目よ?いくら戦闘職種で抗争の最前線に居るって言ったって、もう少し気にして欲しいわ―――自分の命に関わるんだってこと」

自覚が足りないんじゃないの?とキツめの視線を堂上に送る。だが、当の本人は言われるのを分かっているといった態度で、反省の色は見えない。そんな反応だから、前野は更に怒りが増すのを感じていた。更に畳みかけようと口を開いた時―――

「前野」

進藤が首を振って言葉を止めた。その絶妙なタイミングを恨めしく思いながらも、もしかしたら堂上の心を抉るような一言を吐き出してしまったかもしれないのを止めてくれたことに感謝もする。

 

堂上の足のケガは、腕と同様、大したことはなかったので医療班の処置で済んだ。

「本当に掠り傷程度だけど、無理はしないでね」

充分分かっているとは思ったが、注意の文言を告げずにはいられなかった前野は、頑なな堂上の背中を苦々しく見送った。

 

 

 

 

 

 

「進藤さん、堂上くんってドMなの?」

「ぐはっ!!お、お前・・・なに面白いこと聞くんだ」

「だってさぁ、あれは自分を痛めつけることに躊躇してないって感じじゃない?いくら注意しても、口では分かったって言うけど同じことの繰り返しよ。究極のドMか、命を落とすことを望んでるか、よ」

「んー・・・ヤツの場合、そこまで危ない考えってわけじゃないと思うけどな。まあ、色々あんだよ。若いけどな、背負ってるもんがあるんだ」

「へぇ。進藤さん・・・いや、進藤さんだけじゃないか。タスクの皆さん、堂上くんのこと凄く買ってるよね。まだまだ下っ端とかいいながらも、信頼もしてる感じ。危なっかしいとは思ってないの?」

「ああ、あいつは大丈夫だ。あれは自分を厳しく律してるだけだからな」

「・・・ふぅ~ん。何があったのか、聞きたいところだけど。まあ、それは本人の口から聞きだすことにしましょ」

「ん、俺たちよりも外野の方が話しやすいかもしれないな。上手く聞き出して、もう少し肩の力を抜くようにアドバイスしてやってくれ」

進藤は席を立つと伸びをした。

「サボリは終了?」

「おう。これでも俺は『やればできる子』で通ってんだ。そろそろ本気出すかってとこだ」

「くふふ・・・物は言いようだよねぇ。ま、タスクの皆さんは、精鋭揃いだから。何だかんだ言っても、仕事できちゃう人ばっかりだって、ちゃんと分かってるよー。それにね、進藤さんが私の話し相手に来てくれてることも、分かってますよー」

 

ニヤリとしながら言ってやると、意外にも進藤は少し慌てて「じゃあな」と吐き捨てるようにして医務室を出て行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

関東図書基地に属する隊員の健康を見守っていた通称「おじいちゃん先生」は、この夏の暑さに負け、ピンチヒッターとしてやって来た前野がその任を引き継いだ。

前任者が如何に隊員から信頼されていたか、医務室に残されたファイルなどから想像が出来る。その中に、隊員のプライベートや他人にはあまり話せないことなどをメモした『秘密のノート』なるものが存在した。これは守秘義務を徹底するための必須アイテム。本人から聞いたこと、そうでないこと―――人の集まる所に必ず湧いてくる噂などに振り回されないために、覚書きとして注意点を纏めてあった。

 

前野はノートの中にタスクメンバーのページを見つけた。

現在の日本で、一番の危険職種と称されるようになった図書隊防衛部に於いて、更に危険度の高い部隊。

彼らが守るのは「本」である。それには、本来一番に尊重されるべき「命」は無い。図書隊の医務官になるまで、前野はそう思っていた。

だが、実際の現場で彼らと触れ合ううちに、自分の考えは間違っていたと気付く。

 

 

 

この年は、秋から冬にかけて検閲が多かった。

ビッグネームが揃って新刊発表し、それに紛れて反メディア良化法を謳った作品が数多く出版され、全国的にピリピリとした緊張感が漂っていた。

蔵書数全国一を誇る武蔵野第一図書館には度々検閲執行のFAXが届き、その抗争の度に医療班の元へ堂上がやって来ていた。

 

精鋭と呼ばれる特殊部隊員の中で彼はお荷物となっているのか?と心配になり、それとなく状況を聞き出していくうちに、彼が図書大卒――しかも次席――のエリートであることを知る。因みに、首席がバディの小牧だということにも驚いた。

優秀な二人のこれまでを少しずつ聞いているうちに、図書隊へのイメージが変化してきた。

 

世間一般に囁かれていたのは、「たかが本」であった。

しかし、彼らにとっては「されど本」。前野が「命に勝るものは無い」と考え、何故自分の命を懸けて守るのか――と思っていた本にも、作者や出版者によって命を吹き込まれ、読者によって生かされているのだということを知った。

 

本は―――命を懸けて守るに値する物だということを、彼らの想いから学んだのだ。

更に堂上たちを理解することによって、図書隊が守っているのは「本」だけではないと知る。本に関わる全ての人の想いごと守りたいと願っていたのだ。

そんな彼らが益々好きになり、前野はタスクを応援することに生き甲斐を感じ始めた。

 

 

 

 

 

ある日、胃痛を訴えて医務室を訪れた隊員がいた。しっかりと付き添いまでくっついて来たのは、ある種のサボりなのだろうと推察出来る。二人は業務部員だった。

本人曰く、胃痛の原因は間近に迫った昇任試験なんだそうだ。今年こそ階級を上げたいと思っていて、その重圧にヤラれてしまったらしい。

「身体を壊してまでやらなきゃならないことなの?」

「医務官は階級関係無いですもんね。俺たちは階級で仕事内容も給料も決まるんですよ。これが結構大きいんです。俺たちの同期には最後の図書大卒がいて、奴らとはスタートからして階級が違うんですよ。今回昇任できたとしても、まだ奴らに追いつけない」

「へぇ・・・」

確か最後の図書大卒と言うのは、堂上と小牧たちの代のことだったと思い出す。

「図書大って偏差値高いし、元々の出来が違うってのも分かるけどさ。何となくそれだけで色々と優遇されてるって気がするよな」

「まぁ・・・何でも許されてるってわけじゃないけど。でも、腑に落ちないっていうか・・・なぁ?」

何やら不満があるような気配だ。前野はすぐに秘密のノートの内容を思い返す。ヒットしたのはタスクメンバーのあるページに小さく書かれていた二文字だ。

「愚痴なら聞くわよ。守秘義務があるから、ここから洩れることも無い。吐き出せることは吐き出しちゃいなさい」

「愚痴・・・っていうか、自分には真似できないなと思うと、ヤツとの差がはっきり見えてくる気がして焦るんです」

「うん、わかる。俺だったら、あんな状況には耐えられなくて辞めるだろうって思うもんなぁ」

「だよな。こんな胃痛じゃ済まないよな。あいつ、何であんな堂々としてられるんだ?しかも、エリートコースは外れてないし。あんな騒ぎ起こしといて、順調に昇任もして」

 

こうして前野は、堂上が入隊の年に起こしたとある事件と、その後の彼の立場を決定づけた査問会の頃のことを、彼の同期目線で知った。

 

――進藤さんが言ってたことって、コレが理由なのか

 

堂上が、自身を厳しく律している訳―――その始まりは知り得たが、堂上の想いまでは分からない。前野は益々、彼の本心を聞きたくて堪らなくなっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

風の噂で昇任試験が終了したと知った日、館内には検閲執行を知らせるサイレンが響き渡っていた。今日も彼はやって来るのだろうと、勝手に決定事項にして医療班で待機する。

堂上は前野の予想を裏切らなかった。

 

「これは・・・小牧くんに殴られたわけじゃぁ、ないよね?」

「やこちゃん、ひどいな。俺には学習能力あるよ」

「それ、俺には無いみたいな言い草じゃないか」

「「無いよね?!」」

三人はお互いに顔を見合わせて笑った。

 

「今日も肉弾戦?最近の良化隊は、館内侵入に執着してるみたいねぇ」

「流石、やこちゃん。抗争の前線に居なくても、戦況把握はバッチリだ」

「人が集まるってことは、情報も集まるってことなのよ。で、どうだったの?」

「しっかり食い止めましたよ」

氷嚢を頬に当てながら、堂上は満足そうに言った。

「そう。今回も勲章なのね」逆の頬を突いて言ってやると、僅かに膨れたのが分かった。照れ隠しのようだ。

 

「勲章ねぇ・・・要らん傷を増やしてるだけだと思うけど?」

「小牧くんは、今日もご不満そうですが」

「だってさぁ、こいつ、わざと殴られに行くんだよ?」

「それは、相手を油断させるための作戦だと言っとるだろうが!」

「確かに分かるよ。みんな優位に立ったと思ってバカにしてかかってきて、堂上が本気出すとかなりビックリするから見てて面白いんだけどさぁ・・・」

小牧は言いながら徐々に頬を膨らませていく。それを見ていた前野は何かに気付いて、ふっと笑みを浮かべた。

「相手を油断させなくても、堂上くんの腕なら難なく倒せるのに?」

「そう。別に殴られる必要なんて、無い」

「ふふふ・・・小牧くんさ、いつも堂上くんのこと怒ってるのは、強い堂上くんを見ていたいから?」

前野の言葉に、小牧はハッとしたようだった。図星を突かれたと不貞腐れるかと思いきや、意外にも素直に「そうなのかも」と眉を下げた。

 

「うん・・・そうかもしれない。こんなこと言ったら堂上は怒るかもしれないけど、俺の中の堂上って、一つのイメージに縛られてるんだよね」

「イメージ?」

「そう、イメージ。あるシチュエーションを噂で聞いて、その時の堂上を想像したんだ。カッコいい堂上を想像したから、多分それが強いのかも」

前野は、それはどんな姿なのかと問うのだが、小牧は「ナイショ」とはぐらかした。

堂上の前だから言えないという事ではなく、この件は誰にも話さないと決めているのだろうと察する。だからこそ、これはあの「査問」に関わる話なんだと思えた。

 

「お前の勝手な妄想に付き合う義理は無いな。俺は、俺が正しいと思うことをやってるだけだ。信念を曲げてまで続ける仕事ではないし、そんなことはしたくない。いや・・・しちゃいけないんだ」

「・・・信念を曲げずに突き進んでいる自分を、誰かに見てもらいたいの?」

「いえ。誰か、じゃなくて、自分が見てるんです」

 

他人にも自分にも厳しいと称されるだけある――と前野は思った。普通なら、他人の目を気にして生きていくものだ。だが堂上は他人の目より自分の目で、己を厳しく見つめている。

 

「ねえ、私もここにいる間に、色々な話を耳にしたの。他の隊員なら知らん顔したかもしれないけど・・・あなたたちは特別。命の重さを、医者と同じくらい感じながら仕事してると思ったから、勝手だけど『同志』って気がしてるの。だから敢えて聞くね。

――堂上くん、あなたが査問にかけられることになった経緯を教えてくれない?」

 

まさか正面切って質問されるとは思っていなかったのだろう。ひどく驚いた堂上の瞳は、大きく瞠られて僅かに揺れた。

しかし予想より時間を置かずに、堂上は諦めたように―――いや、やっと話せる解放感も感じているような爽やかな笑顔で、事件の日のことと、それから始まった苦難の日々を前野に聞かせた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「やこちゃん!!大変!」

 

医務室の扉を開けたまま叫んだ小牧は、その後の言葉を繋ぐ間もなく笑い始めた。

「な、何なの、いったい!」

「うひひひひ・・・こ、こんなことって・・あるんだね・・・くくくく」

「ケガ・・・ではなさそうね?何があったの」

切迫した状況では無さそうだが、何があったのか分からなくて困惑していると、豪快な足音と共に堂上がやって来た。

 

「小牧ぃぃ!!」

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」

「俺を置いて行くなっ!」

「ぐはっ!!普段、聞けないセリフ・・・ぐふふふふふふふ」

大型犬がじゃれ合っているいるようにしか見えず、前野は呆れ顔で「なんなのよ」と腕組みをした。

 

「やこちゃん、来たんだよ」

「何が?」

「あの子だよ!」

「ん? あの・・・子?」

過去の会話に登場したであろう「あの子」を懸命に思い出す。

 

「・・・え・・まさか?」

「そう、その、まさか!!堂上が助けた女子高生!!」

「来たって・・・今日は、採用面接だって・・・え?」

「うんうん。来たの。図書隊員になりたい!って。来春、大学卒業なんだって!!」

そうだよね、あれから4年だもんねぇ、っと、小牧はだいぶ興奮気味だ。

一方の堂上は――がっくりと項垂れていた。

「ぐふっ・・・なんだか、面白いんだけど・・・まあ、とにかく入りなさいよ」

二人を医務室に招き入れ、ここに至る経緯を聞いた。

 

 

 

 

 

「へぇ・・・その子も凄いわねぇ。執念って感じ。よっぽど、その時の堂上くんに憧れたのね」

「そうだよね。もうね、力説だったよ。何度も『カッコよくて』『正義の味方って感じで』って。目がキラッキラしてた」

「助けた甲斐があったじゃない!」

前野は景気よく堂上の肩を叩いた。が、当の堂上は終始苦虫を噛み潰したような表情で、二人のテンションに乗ってこない。

 

「どうしたの、嬉しくないの?自分が助けた子が、それをきっかけに図書隊員になりたいって目指してくれたのよ?」

「嬉しい?・・・どうしてこれを喜べますか?図書隊なんて危険な職業を選ばせてしまったってことですよ」

「でもさ、女の子だし、業務部の可能性が高いんだからさ」

「本人は防衛部を希望してたぞ」

「希望通りになるとは限らないよ。適性を見るし。万が一防衛部に配属になっても、後方支援が主だろ。心配は要らないよ」

「どちらにしても、図書隊はメディア良化委員会を敵に回して戦う部隊なんだ。危険職種だってことに変わりはない。そんなところを、本屋で助けてもらったからって理由で目指すなんて・・・あの子、おかしいんじゃないか?」

 

前野は二人の会話をじっと聞いて、堂上の様子を伺っていた。

堂上は真剣に怒っていた。それはきっと、図書隊が命に関わる現場であることからくる心配が大きいのだと分かる。

それに加えて、時折見せるのは焦りのような表情。前野はそれが気になった。

 

「堂上くん、その子を心配するのは分かる。でも何だか・・・焦ってるようにも見えるんだけど?」

「やこちゃん、よく気付いたね。それはね、彼女が語った内容と、それを聞いてたのがウチの先輩たちだったってことが原因」

「彼女、何だって?」

「助けてくれた図書隊員を見事に美化してた。それはもう、完璧超人か!ってくらいにね。そして、彼女は堂上の顔を覚えてないんだ」

「は?」

「全く気付かなかったんだよ。本人を目の前にしてるのに。だからさ、みんな可笑しくて・・・ぐふふ・・・笑いを堪えるのに必死で・・・ひひひ」

前野は天を仰いだ。それは堂上には気の毒な時間だったに違いない。

「だから、もし入隊ってことになったら、どんだけ揶揄われるか・・・ってヒヤヒヤしてるんだよねー?」

「そんなことはどうでもいい」

「うん、自分が揶揄われるのを嫌がってるんじゃないよね。堂上との関わりをネタに、彼女が揶揄われるのを心配してるんでしょ?タスクで揶揄われるくらいならまだいいかも。他所の奴らが知ったら、堂上が査問を受けた話まで持ち出して彼女を傷つけるかもしれない」

「なるほどね。あり得るわね」

堂上の眉間の皺が厳しくなった。

 

「あの子の中で図書隊ってのは、正しく生きるための指針みたいになっているのに、現実は彼女の言う正義の味方さえ査問に遭うような組織だって知ったら、がっかりするんじゃないかって思うんです」

「確かに、図書隊って非道なところもあるからね。特に良化隊に対しては、あからさまに敵認定と謳っている部分もあるし。決して、日本を善くしよう、みたいな壮大な理念を持ってるわけじゃないもんね」

「俺たち隊員だって、必要とされてるからここに居られるだけで。役立たずだと判断されればすぐに代わりを見つけるだろうよ」

「そか。堂上くんは、彼女を必要以上に傷つけたくないわけね」

そう言われて、堂上は苦い顔しかしない。

 

「でもさ、そんなの大きなお世話かもしれないわよ?その子は、ちゃんと考えてここを目指したかもしれない。きっかけは確かに、堂上くんとの出会いだったんだろうけど、それだけじゃないわよ。彼女自身が図書隊の理念に感銘したのかも。それなら、堂上くんが心配する必要は無いんじゃない?」

「そうだよね。出逢った時、彼女は高校生だったんだ。自分の将来を真剣に考える年齢だったんだから、図書隊を選んだことを自分の所為だって思う必要も無いよ」

2人の言葉をじっと聞いた堂上は若干納得のいかない表情ではあったが、それ以上自分を責めるようなことは言わなかった。

 

 

「あー、楽しみだなぁ。彼女が入隊してきたら、楽しくなりそうだ」

「小牧くんは本当に嬉しそうね」

遠足前夜の小学生のように、逸る気持ちを抑えきれないといった感じの小牧は、一部の業務部員が卒倒しそうな笑顔を惜しみなく晒して大きく頷いた。

 

「うん。だってさ―――

彼女が記憶してた堂上と、俺の中の堂上のイメージが同じだったから」

 

 

耳が真っ赤になった堂上に、前野はトドメの一言を残した。

 

 

「堂上くん。彼女があの日を忘れないでいてくれたことだけは、感謝しなきゃね」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

前野と対面して座った郁は、眉を下げながら「大丈夫なんですけどね」と申し訳なさそうに笑った。

「でも、過保護な班長の命令だから来た、というわけね?」

「はいぃぃ・・・」

思っていた通り、正直者だ。前野はクスッと笑って、業務中の出来事を話すように促した。

 

午前中は幼子を階段落下から救い、午後は酔っ払いの暴挙に遭ったと言う郁は、ケガ一つ無い状態で医務室を尋ねてきた。

「ケガが無い事は、堂上教官も分かっているんですけど。きっと、あたしの気持ちを落ち着かせるために医務室に寄るように言われたんだと思います」

「動揺するようなことがあったのね?」

「ちょっと・・・手の震えが止まらなかったんです。でも、それも教官のお陰で治まりましたけど」

言いながら、右手を優しく包むようにしている。

「手、どうしたの?」

「酔っ払いに掴まれて、すぐに振り払ったんです。すごく嫌だって思ったから」

一瞬で湧き上がった嫌悪感に、郁の身体は反応して震えていたのだろう。怖い思いをしたのだと、前野は想像していた。

「嫌な目に遭ったわね。でも、笠原さんには頼もしい上官がいて、良かったわね。そんな怖い思いをしても、すぐに救ってくれるんですものね」

「はい」

郁は自身の掌を見つめながら、穏やかに笑った。

 

「あ、その笑い方。堂上くんと似てる!」

「えっ!・・・」

「毎日一緒に居ると、似るのかしら?」

「そ、そ、そんなわけ、ないじゃないですかぁぁ!」

郁は真っ赤になりながら首を振るが、前野はニヤニヤと見つめるばかりだ。

「間違いないわよぉ。だって以前ここに勤務してた頃って、堂上くんはいつも厳しい顔してて、あんまり笑わない人だって印象しかなかったのよ。でも今回久しぶりに会ったら、何だか雰囲気が柔らかくなっててさ。時々、ドキッとするくらい微笑んでたりするじゃない!もう、ビックリよ。アンタ、誰?って突っ込みたくなってたのよ!」

前野の勢いに圧され、郁は引き攣った笑いをする。

 

「そっか。笠原さんが堂上くんに似てるんじゃなくて、堂上くんが笠原さんの笑顔に感化されたのね」

「え・・・」

「あることがきっかけで、自分を厳しく律してきたんだって。あ、以前勤務してた時に堂上くんに聞いた話よ。

その時にね、信念を曲げずに頑張ってるのは、誰かに見せたいから?って聞いたら、彼はこう言ったの。『誰か、じゃなくて、自分が見てるんです』って。その言葉が凄く印象に残ってて。本当に信念のある人って、こういう人のことを言うんだなって思った。年下の若造だと思ってたんだけどね、ちょっと尊敬してね。

その後もお互いに腹を割った話をしたわ。私もこの職業を選んだ理由とか、家族との絆の話を聞いてもらって。私と旦那の間には、子供がいないの。自分たちの元に新たな命を授かれないことと、仕事場で他人の命に関わっていくことと、私の中で上手く気持ちの折り合いをつけられなくて。病院勤務から離れたのはそんな理由があったんだけど、逃げるように来た図書隊で、私は改めて命の重さを考えさせられた。

 堂上くんは言ってくれたわ。『どんな場所でも、どんな方法でも、命と向き合っていくことが信念だと思えば、ここに来たことも逃げではないですよ』って。お互いに、何かの、誰かの役に立っていると思って生きていこうって、最後の日に約束したの。

 その時に―――初めて彼の本音を聞いたわ。もしかしたら、笠原さんなら分かるのかもしれないから、教えてあげるね」

前野はウインクをしてから一呼吸置いた。

 

 

「俺が、信念を曲げたくないと思っているのは、そう生きることで自分が強くなれる気がしたからです。そして、強い自分でいたいと思わせてくれたある人に、恥じない自分でいたいと思ってました。多分、もう二度と会えないと思っていたから、そのきっかけも忘れないように自分に厳しくしてきたんです」

 

 

前野は郁の顔を覗き込むようにしながら、「どう?分かるかな?」と尋ねた。郁からの返事は聞こえなかったが、潤んだ瞳から涙がポロッと零れたのを見て、それが答えだと納得した。

 

「あの頃の頑なな感じの堂上くんが、笠原さんを育てる立場になって変わったんだと思う。きっと気付いたのね。自分の気持ちに素直になることも、信念を貫くことに通じていくんだって。素直になって、心から笑うことも出来るようになったんだわ」

「素直・・・ですか」

「うん、素直よ。笠原さんと一緒にいて、笑顔にならないなんて有り得ないでしょ」

「あ、あたし、そんな笑われるような部下ですか・・・」

「そうじゃなくて!笠原さんには笑ってて欲しいって思うって話よ!」

郁は理解が出来ないようで、首を傾げ始める。

 

「ぶっちゃけるとね、私が堂上くんの笑ってるところを見た時って、必ず笠原さん絡みだったのよ。あなたが笑顔になった時はもちろん、あなたの気持ちを汲んで笑ってる感じだったわ。堂上くんは、あなたに笑って欲しくて、自然に笑顔になってる時があるのよ!」

 

郁は目を瞠る。瞬く間に溜まってきた涙が流れた。

前野は郁の肩を抱き、「嬉しくて泣いてる時も、優しく笑ってたわよ」と内緒話のように伝えた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

前野の図書隊勤務最後の日。

医務室には、朝から入れ代わり立ち代わりタスクのメンバーが訪問してくる。

堂上と再びの別れの挨拶をした後、小牧がやってきた。

 

「やこちゃん、お疲れ様」

「小牧くん、お世話になりました」頭を下げる。

「やこちゃんに笠原さんを会わせてあげられて、良かったよ」

「うん、気になってたからね。どんな子なんだろうって妄想が膨らんで。まさか、タスクに選ばれるような子だったとはねぇ」

「あの日の堂上を追い掛けちゃう、俊足の姫だよ。これこそ運命だよね」

「ホントねぇ」

ふっと笑いが込み上げた。

 

「あ、さっき堂上くんに言わなかったんだけどさ。この先、小牧くんが必要だと思った時にでも言ってあげてくれるかな?」

「なに?」

「あのね、笠原さんはね、堂上くんが微笑んでるのをこっそり見るのが幸せなんだって」

「・・・了解。きっと必要になる時が来るだろうからね」

二人でニヤリとする。

 

 

「でもね、何よりも、あの日を忘れずにいてくれてたことが、一番の幸せだってさ。だから、きっと大丈夫よね」

前野が何を想像しているのか、小牧には何となく理解できた気がする。

 

「そか。それなら、堂上があの日のことを笠原さんに話せる日が来るといいね」

 

 

 

 

きっと、そう遠い未来ではない。

 

 

そう思って

 

強く願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

関連記事
スポンサーサイト

究極の選択

ちいさなしあわせ

comment iconコメント ( 4 )

いのち、かぁ

命と向き合うって、いいね。信頼し合える仲間と一緒に、笑顔で。仲間同士が相手の命を何よりも大切にしているのが、いいなぁ…
私は命に向き合う現場にいながら、どこか、一線を引いて、(客観的といえば聞こえはいいけど)きっと自分が傷つかないように少し引きで見てる。
熱い、篤いタスクのみんなが羨ましいぜ!

ついでに、やこちゃんがまた登場して、めっちゃ嬉しいぞ!(笑)

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-03-15 05:17

おはようございます。昨日は失礼しました🙇昔から教官達の力関係(笑)は変わらないですね😆やこちゃん先生はお姉さんみたいな感じだったから、頑な教官も素直に話せたのかな?でも小牧教官ご言った様に先生に郁ちゃんを会わせる事が出来て良かったですね🍀

名前: torotan [Edit] 2017-03-15 06:55

ayaちゃんへ

やこちゃん、再登場ありがとう(笑)

タスクは自分の命以上に、周りの人の命を守って行く気持ちで繋がってるんだろうな、って思う。
命を守るってのは、相手の幸せも全力で祈るってことで。
当然のように、教官と郁ちゃんの幸せも祈ってくれてるんだなぁ・・・

みんなが、堂郁出逢いの日を忘れないでいられるように。
早く何とかしろ~~~~!って焦れる時期だね(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-29 22:15

torotanさんへ

初めて、教官たちが若い頃の話を書いてみました。
篤く走る堂上さんと、彼に一目置きながらも、その篤さにハラハラしてる小牧さん。
郁ちゃんの入隊によって、ハラハラはドキドキに変わる(笑)

やこちゃんと郁ちゃんは、周囲に与える空気が似てるって感じですかね。
だから自然とタスクに受け入れられたのかなーっと。

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-04-29 22:37

コメントの投稿