新作は、kikoさんから剛速球で届いたリクエストを
とある三人組で受け取ったものです♡
オムニバス形式で、小毬・手柴・堂郁の3カップルの恋模様をお届けします。

プロローグは私。今作からPNちょっと変わりました。悠@youBBです♪
第一話 小牧×毬江 あっじょさん
第二話 手塚×柴崎 aya@屋根裏部屋さん
第三話 堂上×郁  悠@youBB

今回はタイトル画(悠@youBB書)を挿入してます。





プロローグ:悠@youBB


 

 

ある日の午後―――

カフェ『かじゅあぶ』でバイト中の僕は、窓際の席に陣取っていた女の子三人組に視線を釘付けにされた。

 

このカフェに入店してきた時、三人ともそれぞれに可愛いなぁって思っていたけど、さっきからちょこちょこ聴こえてくる会話がまた、三者三様で可愛らしい。

 

 

「柴崎おススメだけあって、素敵なお店だねぇ」

長身で、ふわりとしたショートカットがスレンダーな体に似合ってる。

 

「でしょー?有名なのは『焼きプリン』よ」

飛び切りの美人が妖艶な笑みを見せて。

 

「わあ!楽しみですぅ!」

二人よりちょっと幼く見える子は、耳に補聴器をつけている。

 

 

 

「あー、早く連休が終わってくれないかなぁ」

「ふふ・・・笠原はね、早く訓練したくてウズウズしてんのよ」

「流石、郁さんです!」

「だってさぁ、寒いからね。身体が縮こまって固くなっちゃう気がするんだもん」

「私は思う存分、コタツに潜っていたいくらいだわ」

「わたしは雪山に行きたいです!」

「へー!毬江ちゃん、スキーとかやるの?」

「下手ですけど・・・。何度か小牧さんに連れて行ってもらったことがあるんです」

「いいわねー!アクティブな彼氏♡羨ましいわぁ」

 

 

カサハラさん・・・って言うのか。「訓練」って、もしかしたら図書隊の人なのかな?ここは図書隊のお膝元だからな。

シバサキさんは、あんな美人なのに彼氏いないのかな?

うん、マリエちゃんは本当に守ってあげたくなる感じだなぁ。彼氏がいるのも頷ける。

 

でも僕的には、補聴器をつけて聴覚に障害があるらしいマリエちゃんと会話するために、ちゃんと口元を彼女に見せるように顔を向けて、ゆっくりはっきり話している二人に好感が持てた。

特にカサハラさんは、喜怒哀楽を表情に載せていて見ていて飽きない。彼女の感情にこちらまでシンクロしてしまうみたいで、僅かな時間でもウキウキさせてくれる。

 

――素敵な人だな

 

 

 

「お待たせいたしました。焼きプリンと季節のフルーツのティーセットです」

テーブルに皿を並べ終えた僕に「ありがとうございます」とカサハラさんは声をかけてくれた。

 

 

「んーーーっ!ホントだぁ・・・美味しずぎる~!」

「とろけちゃいましたぁぁ♡」

「紅茶も美味しいわよ」

「ああ、柴崎ぃ・・・このプリン、バケツで食べたい・・・」

「あはは!郁さん、どんだけですか!」

「せめて鍋くらいにしときなさいよ!」

「えーっ!?カレースプーンじゃないよ?おたまで食べたいよぉぉ!」

「ガッツくんじゃあないの!」

「郁さん、また来ましょうよ!」

「う・・・そうだね。うん、絶対来る!何度でも通うんだから!!!」

 

 

 

彼女たちの会話は全てがツボで、特にカサハラさんの素直さに心を鷲掴みされた。

 

きっとこの時、僕はすでに―――恋をしていたんだ。

 

 










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第一話 小牧×毬江:あっじょさん




あの店が見えた。

今日の待ち合わせの場所。きっと長い間待つかもしれないと理由をつけて近くの書店で気になっていたファッション雑誌を購入する。荷物になるけどそんなことは気にしない。

 

 

ふと、店へ向かう道中に窓に映る自分を立ち止まって見た。

 

 

毛先が緩く巻かれた長い髪。両サイドは捻ってパールのバレッタで留めている。新色の少しピンクがかったグロスに、目元はブラウン系のアイシャドウ。少しだけ、ほんの少しだけアイラインは長めにした。そしてボルドー色で袖と襟にファーをあしらったコート。裾から白いフレアスカートが見え、足元は新品のサイドゴアブーツ。

 

――ちょっと背伸びし過ぎたかな。変じゃないよね?

でも大学の女の子達もみんな一生懸命にお化粧をして着飾ってるんだもん。私も負けてられないしきっと大丈夫だよね?変じゃないよね?大人っぽく映ってるよね?

 

 

――だから、どうか。どうか小牧さんが褒めてくれますように。

 

 

 

◆◆

 

 

 

店のドアを開けるとカランとカウベルの音が響いているのだろう、振動がした。

「いらっしゃいませー」

「おひとり様ですか?」

店員がにこやかにこちらにやって来た。

毬江は慣れた手つきでスマホを操作し、店員に画面を見せる。

《あとからもう1人くるので、2人です》

案内された席に腰掛け、携帯の無料通話アプリをタップしトークにする。そして愛する人とのトーク画面を開けた。

 

(ごめんね、そんなに時間かからないから。先にお店でしばらく待っててほしい)

そして(ごめんね)とクマのキャラが一生懸命謝るスタンプ。

 

 

 

 

ここ最近大学のゼミが忙しくデートする時間がもてなかった。いや、全くデートをしていない訳では無い。わずかな時間をやりくりしてお茶をするだけわざわざこちらまで来てくれて私のお部屋で少しお喋りするだけ、となんだか物足りなくデートと呼べるようなものではなかった。近況を兼ねたお喋りに軽いキス……いや、逢えただけでも充分なのは分かっているけど。贅沢ってわかっているけれど!

今日やっと落ち着いてゆっくりデートが出来る!と意気込んだのも束の間、当日の朝、仕事でのイレギュラーな案件があったそうで遅刻と連絡がきたのだ。

 

仕方がない。

逢えるだけでも充分。充分ってわかっている。お互い忙しい中で時間を作れただけでも良しとしなくちゃ。本当はもっと一緒にいたかったりギュッとしたかったけど

あんまりワガママいう女なんて好きじゃないよね……きっと。大人の女性らしく物分りのいい感じにならなきゃ。

あの人と釣り合うために。

 

 

「ご注文よろしいですかー?」

店員が横に並んだ気配で何か言ってることに気づく。慌ててスマホの画面を操作した。

《ホットカフェオレください》

画面をみせ、店員は「かしこまりました」と去っていった。

メニューをパラリと開き、このあとの注文を考えながら先日のことを思い浮かべた。

 

 

 

 

「決めた!あたし絶対またここに来るからっ!!何度でも通うっ!」

スプーン片手に高らかに宣言したのは元気いっぱいでムードメーカー。人懐っこそうな笑顔に私ですらキュンとしちゃう、彼氏の部下の笠原さん。

「ハイハイ。何度でも通えばいいんじゃないの〜そのうち鍋持参とか止めてちょうだいよ?恥ずかしいから」

思わず触れたくなるような綺麗な長い髪をサイドに流しながらニッコリと誰もが見とれてしまう笑顔を見せ、笠原さんへ慣れたあしらいを見せるのは同じく部下の柴崎さん。

 

私たちは焼きプリンの美味しい店があるとミーハーでこの店にやって来たのだ。

耳が聞こえにくいというハンデに感じることを、この人達は私に微塵も感じさせない。この人たちならば声を出して会話しようと思えた心を許せる大事な人達だ。大事な人の部下だからでは勿論ない。彼女達も私を上司の彼女だから、という目では見ていないし、年が少し離れているのにそれを感じさせないぐらい心を許せ、心を預けられる人達で、私もこんな風になりたいと思ってる。

私にもこんな人達が出来るなんて思ってもみなかった。小牧さんがいなくても誘ってくれるし、いなくなったって会いたいと思えるのだから。友達とはまた違う仲間みたいな感覚で不思議。

 

それに……

何気にこの人達の恋の行方も気になっている。主に小牧さんからの情報だが、本当にその通りで、私が言うのもなんだけど不器用で可愛い恋をしている。

だけどその片方は、とうとう婚約という形に実った。あとの片方は素直になれば発展するとふんでいるのだが

 

 

 

 

今日はそのあまりの美味しさに小牧さんにもこの味と感動を分かち合いたくてこのお店を指定した。ただいまの時間はちょうどランチタイムが終わったところ。だけど、この店は人気店ゆえ忙しなく常に人がいる。あまり長居するようならば考えなきゃいけない。

「早く……逢いたいなぁ

ポツリとつぶやいた言葉はまだ形にならずに消える。

付き合った当初は嬉しくて嬉しくて逢いたくて堪らず、いつ休みなの?とか逢いにいっていい?とか今思うと恥ずかしいぐらい舞い上がってた。

実感が欲しくて―――

彼氏になった事が嬉しくて―――

でもそれは子供同様ワガママだと気づいた。困った顔を見せちゃいけない。こんなに子供なの?とか思われたくない。何処までが子供で何処までが大人なのか境界線がわからないけれど……嫌いになられたら怖くて……

幸せなはずなのにつきまとうこの不安。好きなのに?好きだから?

想いは通じ合っているはずなのに。

まるで糸が絡まってるみたい。解けない結び目が出来ちゃったのかな。

 

 

ふと目線を上げ、窓の外を眺めた。

行き交う人々は様々で、1人で歩く人、賑やかで楽しそうな家族連れ、幸せそうな恋人たち。

―――疲れてるのかな、なんだか周りばかり幸せそうに見える。

悩みなんてきっとないぐらいに。

周りからみたらちっぽけな悩みかもしれない。彼氏がいるだけ幸せ、恋をしているだけで幸せ。各々幸せの定義が違うことなんてわかりきっている。

だけど―――

 

ふぅ。

 

一息吐いて、先ほど購入した雑誌を取り出した。折しも季節はバーゲンセールの時期だ。小牧とのデートではなるべく新しく可愛い服を着て褒められたい。テイストを少し変えた服を着ても「どれも似合ってるけど、そういう服も似合うね」と全て褒めてくれるが、いつだって可愛いと言われたいし思われたいのだ。

アレがいいかな、これも素敵だなぁとパラパラとページをめくっていたその時店員が注文したものを持ってきた。

「お待たせしましたー。ホットカフェオレでございます」

店員はトレイに置かれたカフェオレを運ぼうとソーサーごと持ち上げたとき「あ!」と滑ったのだろう、カフェオレは目の前でそのまま見事に落下した。

 

ガシャーン!

 

そしてお約束かと思うほどに、そのカフェオレは毬江の白いスカートに大きな模様を作った。

「もっ、申し訳ございませんっ!!」

店員は速やかにおしぼりを大量に毬江に渡し、割れた食器を片付け掃除をする。毬江は慌ててスカートの染みを取った。

「お客様、お怪我はございませんか?スカートも申し訳ございませんっ!」店員の口元をみて読唇をしスマホに打ち込んで返事をする。

「大丈夫です。スカートはもう少し拭かせて下さい」

責任者と思われる年配の女性店員も慌ててこちらに来て「誠に申し訳ありませんでした。スカートのクリーニング代は出させていただきますのでお許しください」と言ってきた。

毬江は慌てて首と手をブンブンと振る。すぐさまスマホに打ち込み《大丈夫です。わざとじゃありませんから。お金は要りません。》と見せた。

店員2人共に恐縮し、「とんでもない!スカートを実際汚しているのですから!お代も要りませんし、お気持ちだけになりますがぜひお受取り下さいっ」

毬江は戸惑った。

店員のミスだけど、わざとではない。誰だって失敗はあるのだ。確かにスカートは汚れてしまったけれどもそれを責める気にはなれず、さらにお金という現実味なモノを受け取ることが出来なかった。どの対応が正解なのだろうか。

 

 

ふと肩に手を置かれた。

見上げるとそこには愛する人。

「どうしたの?大丈夫?」

小牧は周りを見て判断をし、店員も助け船かと困ったように説明をする。ふむ、と小牧は頷いて毬江に向き

「怪我はないんだね?良かった。毬江ちゃんはどうしたい?店員さんの気持ちもあるし毬江ちゃんの気持ちもある。だけどスカートが汚れたのは毬江ちゃんだから、毬江ちゃんに決定権があると思うんだ」

落ち着いてね、とその優しい手は毬江の背中をゆっくりと包み上下に撫でた。

 

まるで魔法みたい―――

 

気持ちが落ち着いた。

「わざとじゃないからお金なんて……貰うの嫌なの。失敗なんて皆あるから。だけど店員さんにとって私が貰わないと困ってる。どれが正解かわからないの。だからどうしたらいいのか……

悩んでいるのが自分でもわかる、少し声は震えていたが精一杯気持ちを小牧に伝えた。

小牧はニッコリと毬江に微笑み、店員にそのことを伝える。

「しかし!私たちの気持ちも収まりません。せめて何か……あ、良ければ本日お好きなものご注文くださいませんか?飲み物も食べ物なんでも構いません。お好きなものをお好きなだけぜひ!いかがでしょうか?」

「そんな……悪いです……

店員たちはお願いします!お願いします!と頭を下げる。

「毬江ちゃん、店員さんたちのためにも何か頂こうか?決定権は毬江ちゃんだけど、店員さんのためにも引き際は肝心だよ?」

毬江は納得したようで、小牧と店員に向かいぺこりと会釈をした。店員はあからさまにホッとし「私共へのお気遣い、ありがとうございます。ですが失敗といえどお客様へ被害を出しております。何かしないと私共も気持ちが落ち着きません。どうかご理解下さい。また楽しい時間を提供出来ますよう頑張りますので、よければ一時楽しい時間をお過ごし下さいませ」と深々と挨拶をし、作業へと戻った。

 

「小牧さん」

小牧は毬江の手を握り「おまたせ」と向かいの席に座った。

「良かった、来てくれて。すごく落ち着いた」

「本当にごめんね。待たせちゃって。それよりスカート。染みになっちゃわない?ちょっと洗ってくる?」

「ううん、意外と素材が弾くものだったから染み込まなかったの。大丈夫!でもかなり拭いたから少し濡れて冷たいけど。一応ハンカチを中に充てたの」

「そっか。せっかくよく似合ってる服を着ているから……心配したよ。何事かとびっくりしたけど毬江ちゃんが無事ならそれでいいよ。ほんとに良かった」

……ご心配おかけしました」

毬江はアハハとぺろりと舌を出しおどけた表情を見せた。

「さ、せっかくだから何か頼もう!何が美味しかったんだっけ?」

「そう!プリン!一緒に食べたい!」

「りょーかい。お昼食べ損ねちゃったから適当にあとは頼むね。すみません!」

 

注文を終え、向き直る小牧と目が合う。

なんだかドキドキした。

久しぶりだからなのか、このドキドキする動機が嬉しくて心地いい。それになんだかにやけちゃう。

「どうしたの?なんだか嬉しそうだね」

……うん!小牧さんに逢えたから嬉しくて」

「そんな可愛いこと言われると困るな、はは」

欠けていたパズルのピースがハマるみたいに心がピタリと満たされる。

たわいもない話なのに幸せ。日常会話なだけなのに。私はどれだけこの人を欲していたのだろう。

 

「おまたせしました!ご注文の品でございます」

店員は小牧が注文したスキャンピとフルーツトマトのパスタに、毬江用にとプリンと期間限定のあまおうがたっぷりとトッピングされたフワフワのパンケーキにドリンクを持ってきた。

先程は誠に申し訳ありませんでした、とぺこりと挨拶し店員は去っていった。

 

「わぁぁぁぁぁ!」

毬江はプリンは以前に食べたので知っていたが、パンケーキの破壊力にヤラれ目が輝いた。

「凄いね、どれも美味しそうだ」

「早く食べよ!」

毬江は待ちきれずフォーク片手にさぁさぁと急かした。

「「いただきまーす」」

 

ぱくり。

フワッフワのパンケーキはスフレのように柔らかく口の中に消えた。あまおうの甘酸っぱくも苺独特の甘味がまたたまらない。

「しあわせ〜」

美味しいものを食べるとますます心が満たされる。

「あ、このスキャンピいい味出てる」

小牧もうんうんと頷いて満足そうだ。

「ねぇ、小牧さん」

「ん?」

「わ、私も欲しいなぁ?」

「もちろん!」

小牧はどうぞ、とお皿を毬江の方に差し出した。

……

「ん?どうしたの?食べないの?」

「あーん、して……ほしいなダメ?」

この上目遣い。

これで嫌と言える人は絶対いないと誓えるな、いや、人前なら堂上は耐えられるか?クククと小牧はニヤける顔を抑えつつ、お皿を自分の方に戻し食べやすい大きさにパスタをフォークに巻き付けた。

「じゃあ毬江ちゃん、あーん」

……あーん……

 

……

 

「美味しいっ!」

「良かった。このトマトがまたいいんだ。はい、あーん」

「え?あ、あーん

咀嚼しながら、なんて恥ずかしいことを言ってしまったのだろうかと毬江は思った。まさか2回目があるとも思わず、勢いで言ったものの、ちょっと子供っぽいお願いだったかな、飽きられないかな、と心が曇る。

「ん?美味しくなかった?」

……いや、えっと美味しかった」

「ならどうして暗い顔になった?」

……

 

どうしたものか。

これもワガママになるだろうか。あーんをするカップルなんて恥ずかしいとか思われてないだろうか。ちょっと勢いでやってみたかっただけだったのに、いざしてみると小牧の反応が気になり後悔してしまった。

「あーんが恥ずかしかったの?」

ほぼ正解の答えに毬江は、バッと顔を小牧に向けた。

……恥ずかしかったのは小牧さんじゃない?」

「俺?」

「うん。こんな子供みたいなワガママして。ごめんなさい」

「こんなのワガママなんて微塵も思わないよ。可愛いおねだりで嬉しかったよ?」

……ほんと!?」

毬江の顔はパァァと明るくなる。

「子供なんてとっくに思ってないんだよ。言ったでしょ?他にもっともっと思ってる事とかワガママたくさん言ってほしいな。それぐらいの甲斐性はあるつもりだよ?」

 

……ワガママ言っていいの?」

小牧は毬江の頬に触れた。

「こんなのワガママな内に入らないよ。もっと他にも言ってみて?」

「えっと、えっと。じゃあ……またスキーに連れてってほしいな」

「いいね!お安い御用だ」

「あとね……

毬江は自分の頬に触れているその小牧の手の上に自分の手を重ねた。

…………したい」

「え?」

「イ、……イチャイチャしたいっ……!」

手を重ねたところが熱い。

小牧は目を見開いたが、すぐに手を絡めた。

 

 

……ねぇ、どこまでイチャイチャしていいの?」

 

 

毬江は少しだけ、ほんの少しだけ考え携帯に文字を打ち出し小牧へ向ける。

小牧はそれをじっくり見て、少し照れくさそうで恥ずかしそうで。

だけどなんとも言えない嬉しそうな顔をして微笑んだ。

 

「もう出ようか?」

小牧はそのまま視線を外さず毬江に問う。

その視線は熱く、これが熱視線というものかとわかるぐらい欲の炎がみえる。

 

……でも」

毬江はその重ねた手をテーブルに置いた。

「でも?」

「とりあえずもっとプリン食べてからね?」

「フッ……そうだね。せっかく毬江ちゃんのお勧めだからね」

「はい!じゃあ……あーん

 

 

 

また一つあなたを好きになってしまった。

いつもあなたは私のワガママを許して受け入れてくれる。いつまでも子供と思われたくない私と、とうに子供と思えないと言ってくれるあなた。

恋の糸はきれいに解けて、私はあなたにまた絡みつく。結び目を解く鍵はあなたしか持ってないの。

 

あなたの横で、あなたの隣で。

 

 

 

 

 





 

 

第二話 手塚×柴崎:aya@屋根裏部屋さん



 

店のドアが開き、一人の小柄な女性が来店した。

長い黒髪の、妖艶で大人っぽい感じの女性客だ。

ん・・・初めてのご来店ではなさそうだ。前にも来たことがある、気がした。

見覚えがある。こんな美人、なかなか忘れられないし。

買い物帰りなのだろうか、シックな色の紙袋を手に下げている。

連れはいない。

それでも、一応、メニュー表を手に、お決まりのセリフを用意する。

プライベートで出会ったら、とても恐れ多くて、気軽に声なんてかけられそうもないけれど、自分はどうせ彼女にとって、ただのバイトAだ。気楽に行け。

 

 

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

営業スマイルでバイトの若い男の子にそう問われて、内心は「うっ」と慌てる。

でも、そんな風には見せない。

 

柴崎はゆっくり口角をあげ、『感じの良い客』を装い、答えた。

「一人です。後からもう一人来るかもしれませんけど」

 

案内されたのは、通りに面した窓辺の席。前に郁や毬江と訪れた時と同じ席だ。

柴崎は、通りと店の入り口が見える位置の椅子に腰掛けた。

 

 

 

嘘を、ついた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

今日は、二ヶ月ぶりに郁と公休が被った日だった。

業務部とタスク。職種の違う親友とその公休が一緒になる機会はなかなかない。

同部署、同班に恋人がいる郁はいつも恋人と公休が一緒で、デートする機会がある。だから、たまにしかない自分との公休被りは、郁を優先的に柴崎に譲るという密約が、堂上と柴崎との間でなされていた。

 

でも、柴崎は知っていた。

ここのところしばらく、堂上が休日出勤ばかりで、堂上と郁の公休デートはおろか、公休前日からのお泊まりデートさえも、あえなく潰れていたことを。

 

最近、寮で笠原が自分との距離を詰めてくる。

誰かと触れ合っていたい。人肌恋しい。恋人の休日出勤は仕方のないことだと頭では理解しているが、寂しいのだとわかる。

自分は公休ではないので、たっぷりと時間を取ってあげることは叶わず、笠原がそのつもりで買って来たコンビニデザートに付き合うくらいが精一杯だった。

だからこそ「次の公休は休みが一緒だから、前夜は部屋でプチ宴会して楽しんで、翌日はバーゲンに繰り出して、前から狙っていたカフェに行こうね!」と二人で楽しみにしていた。

 

今回も願わくば、堂上教官が休日出勤になったらよかった。

そうしたら、大手を振って笠原を独り占めできたのに。

昨日、課業終了時刻になってタスクに探りを入れても、そんな気配はなく、ようやっとしっかり休みが取れそうな公休日だということがわかってしまった。

 

 

自分も、笠原と連れ立って買い物へ出かけたり、ゆっくりする時間が欲しい。

この歳になって、心を許せる『親友』という存在ができたのだ。

 

 

かつては、たくさんの同性の友達に対しても、いかにうまく恨まれずに立ち回れるか・・・ということばかりに重きを置いてつきあっていたので、心を許す存在なんていなかった。

異性に対しても、そうだ。

いや違う。異性に対しては、もっと警戒する。

心を許して、挙句、踏みにじられたり裏切られたり・・・そこに周囲の女同士の人間関係まで絡んでくるから本当に厄介・・・もう恋なんてまっぴら。『本気の恋』なんて縁のない私には、恋愛なんて不要な要素だ。

 

でも笠原は。

本気の恋をしている。心から思い慕う相手と相思相愛になって、日々の生活が色鮮やかな輝きを放っている。

正直、羨ましいと思うし、憧れる。

幸せそうに笑うあの子を見ると自分まで満たされるし、恋人の言動に一喜一憂する様は、本当に微笑ましい。

 

あの子の幸せを、心から願っている。

それを一番近くで見ていられることが、何よりも役得だと思うから。

 

 

「あー・・・今夜残業だ。笠原、ごめん。明日の買い物の予定、キャンセルしてもいい?予定入っちゃって・・・」

柴崎は心にもないことを、業務部にヘルプで来ていた郁に言った。

 

郁はちょっと驚いた顔をしたが、柴崎に負担をかけまいと「気にしないで」と笑った。

次いで柴崎は、堂上の携帯に『明日、笠原と出かける予定だったのですが、都合が悪くなってしまいました。笠原のフォロー、お願いしてもいいですか?』と送信した。

 

 

嘘だ。

今夜の残業も、明日の予定も。

 

 

柴崎は急ぎでもない仕事で郁とは少し時間をずらすように残業して、誰もいない部屋に帰った。

薄暗い部屋のテーブルの上には、郁からの書き置きが残されていた。

 

『柴崎、お仕事お疲れ様。

急ですが、今夜外泊します。

教官が明日スイーツをお土産に買ってくれるって

明日の夜は、一緒にゆっくりしようね』

 

うん。それでいい。

もしかしたら、堂上教官は勘づいているのかもしれないが。

それならそれで、恩を売ってやる。

 

 

制服のまま座り込んで、大きくため息を吐く。

柄にもなく、心が沈む。自分で招いたことなのに。

 

 

らしくないな・・・

そんな自分にちょっと笑えた。

いつもの、公休を過ごせばいいのだ。それだけだ。

 

柴崎はえいっと気合を入れ直し、スウェットに着替えて入浴に向かった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

柴崎は入浴を済ませ、共用ロビーにある自動販売機で缶チューハイを二本購入した。

公休前の夜。せっかくだし飲んでもいいか、という気分だった。ならば、夕食はいらない。部屋にストックしてある、カップのインスタントスープぐらいで十分だ。

 

「・・・お前も部屋飲みか?」

不意に背後から、声をかけられた。柴崎を『お前』と呼べる人物は、この基地の中ではごく限られている。主にタスクの面々なのだが、同期の中では、この手塚ただ一人だ。

「んー、まぁそんなとこ。・・・あんたも?」

手塚はコンビニから帰ったところのようで、手には買い物袋をぶら下げていた。

 

「ああ、まぁな。約束はしてないけど、自分が飲み出せば、自然とそうなるだろうな、多分」

面白い言い回しに、不思議そうに顔を向けると、手塚が少し面白くなさそうにどかっとソファに腰掛けた。

 

「いつもの部屋飲みは、二正たちの部屋に呼ばれることが多いから、あんまり自室では飲んでいないんだ。風呂上がりにビールを飲むくらいで。でも今日はお二人とも留守だから・・・」

「自室の部屋飲みは、窮屈?」

「そんなこともないけど・・・色々業務上のことを聞かれても、話せないことも多いし。お前らのことを聞かれても、猫被りのお前のことなんか話せないしな」

「うっさいわね」

 

そこで何かに気づいたように、手塚は柴崎をまじまじと見た。

「な、なによ」

「お前・・・今日笠原いないんだろ。堂上二正が外泊ってことは、笠原とだろ?」

「そうでしょうね。やっと仲直りしたしね。まぁったく・・・お互いに変な意地はっちゃって。周りがやきもきしたっちゅーの!・・・まぁ、無事に結婚決まって、やっぱりそこへ落ち着くわよね〜って納得」

「べちゃくちゃ喋ってごまかしてるつもりか・・・お前一人でそれだけ飲むつもりか?」

 

こいつの前だとどうして、通用しないんだろう。

格好つけられず、悔しい。

 

「そうよ、悪い?」

体裁を整えるのを諦めて、手塚の隣に座ってやった。

プシュッと買ったばかりの缶のプルタブを開けてゴクリと飲むと、手塚も同じようにコンビニの袋からビールを取り出して、プシュッと開けた。

 

なんとなく、共有スペースで二人で飲みが始まった。

手塚はコンビニの袋から、買ってきた色々な種類のつまみを広げた。

数種のプレミアムチーズ、国産サラミ&ジャーキー、干し貝柱などに、柴崎はいたく満足げだ。

 

「すごいじゃない。各種揃ってる。私の好きなのも多いし」

「そうか?」

「でも、高いのばかりね。笠原が見たら、怒り出しそう」

「なんであいつが怒るんだよ」

「うふふ。ほら、この高純度カカオのチョコなんて、笠原が堂上教官に差し入れしたかったけど、手が出なくて諦めたヤツよ」

手塚は怪訝な顔をしてチョコの箱を柴崎の前に放った。

 

「それ、残ったら部屋に持っていけ」

「あら、ありがと。笠原、明日の夜帰るから、一緒に頂くわ」

「・・・」

何か言いたげな手塚に気づかないふりをして、柴崎は違うつまみに手を伸ばした。

 

 

「確か、明日。笠原と買い物やら何やら予定を立ててたんじゃないのか?」

「ええ、そうよ。でも、やめたの」

「・・・どうせ、お前の気が変わった、ってことになってんだろう」

「・・・」

「どうするんだ?明日。楽しみにしてたんだろう?」

「行くわよ」

「一人でか?」

「そうよ。別にいいわよ」

「他のやつ誘ったり、しないのか?業務部のやつとか」

「しないしない。笠原じゃないんだったら、一人でいいわ。気ぃ遣う休みなんて、願い下げだわ」

「・・・じゃ、こうやって飲んでるのも、気ぃ遣うのか?」

「馬鹿じゃない?嫌ならこうしているわけないでしょうが。あんたは別よ。笠原と同類」

「・・・あいつと並列にされると、ちょっとおもしろくない」

そういって手塚が顔をしかめていたら、柴崎は1本目の缶チューハイを飲み干し、空缶をゴミ箱に入れに行った。

 

 

そのまま隣にまた戻って座ってくれたらいいのに。

 

 

そう願った手塚の思惑は見事に打ち砕かれ、柴崎は先に買った未開封の缶チューハイもう1本と、チョコレートを手に『ごちそうさま〜』と余裕の笑顔を見せて女子寮のドアに消えて行った。

 

「明日の話、してないだろうが・・・」

舌打ちをしたいのを、残りのビールとともに飲み干し、手塚は広げたつまみを淡々と畳んだ。

つまみのチョイスを褒められたことは覚えておこう、と思いながら。

 

 

柴崎は、ロビーの手塚から死角になる位置までくると、手にしたものをぎゅっと胸に抱え、足早に自室を目指した。

パタンと部屋のドアを閉めると、ふぅと大きく息を吐く。

 

 

危なかった・・・明日の、誘われちゃうのかと思った。

手塚のバカ。

そんなに色々、勘づくんじゃないわよ。

期待しちゃうから、やめなさいよね。

 

 

 

◆◆

 

 

 

昨夜そんなことがあって。

それでも柴崎は今日は予定通り、一人で買い物に出た。

 

冬真っ盛りなのに、すでにバーゲンが始まっている。行きつけの店を数軒まわって、めぼしいものを購入した。

 

さてと。

休憩するなら、今日は絶対、あそこのカフェだ。

焼プリンが好評で、最近は店の前に行列ができる時間帯もある。

前にみんなで来た時に、あまりの美味しさに、ここの常連になろうって心に決めて、それからすぐには来られなくて、ずっと楽しみにしていた。

もう、口がプリンを求めているから。

そんな言い訳を頭に浮かべて、柴崎は歩き出した。足取りは軽い。

 

 

 

店の前はそこそこに混んでおり、カップルばかりが並んでいた。

並ぶのは、別に苦にはならない。普段なら。

でも今日は、正直幸せそうなカップルは見たくなかったな。

自分の隣が空いている寂しさが、倍増する。決してリア充たちがうらやましいのではなくて、隣にいるはずだった郁がいなくて寂しいのと、自分から郁を奪って行くであろうあの上官がちょっとだけ憎いのだ。朴念仁のくせに。

 

 

手持ちぶたさで、携帯を開く。

どうしようかな。あいつ・・・誘ったら、来るかしら。

断られてもいい、一人で美味しくてびっくりした顔をするなんて、嫌だから。

リアクションを受け止めてくれる人が、向かいにいないとね・・・

 

そんな言い訳を考えながら、柴崎は手塚の電話番号をダイアルした。

 

用事があって電話するのだから、発信ボタンを押したらすぐに耳に当ててしまう携帯電話。今日はなぜか、発信ボタンを押したまま、画面を見ていた。

すると、手塚の電話へ電波の矢印が飛んで行くようなデザインの画面。自分の想いを飛ばしているような、受けてもらえるのを待っているかのようなそんな期待が垣間見えてしまった。

ナニコレ

自分が全く無意識なところで、手塚に甘えようとしている・・・それに気づいてしまった。何か自分が無性に恥ずかしいことをしているような気がして、たまらなくなって、手塚の声を聞く前に電話を、切った。

 

恥ずかしさのあまり、顔は赤らみ、もはやポーカーフェイスは作れない。

カフェ前の行列で何やってんの、私。らしくない。

昨日は我慢できたのに。

 

ふぅっと口をすぼめて息を吐いて顔の熱を逃そうとしていたら、コートのポケットに無造作に突っ込んでおいた携帯が、バイブする。

 

しまった・・・そうだよね。かけ直して来るわよね、あいつなら。

なんて言おう。どうしようかな・・・

 

「はい」

思考がまとまってないのに、いつもの癖で手が動き、するりと電話に出てしまった。

習慣って怖いわ!!

とか考えていたら、それ以上言葉が出なかった。私がなにも言わないものだから、業を煮やしたように、手塚が不機嫌に喋り出した。

 

 

「なんで出る前に切るんだよ」

「あ・・・ああ・・・」

「なんだよ」

「あ?ああ、別に?」

「今、どこだ?」

「あ、えっとカフェの前。並んでて・・・」

「すぐ行く」

「え?」

言った時にはもう切れてた。

 

きっと手塚にはバレてる。

私が寂しい事も、我慢していた事も、今、どうして欲しいかも・・・

 

朴念仁のくせに。

最近はちょっと成長が見えてその度にドキッとする。悔しい。でも、嬉しい。

 

早く来ないかな・・・

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

バイトのタカハシは、既視感を覚えた。

 

 

あの人・・・確かシバサキさんだったか。前に女友達同士でここに来た人だ。あの席の光景は見覚えがある。一番大人の落ち着いたお姉さん風だった人だ。

もう一人来るかも・・・って言ってたけど、約束はしていないってことか?あの時の友達、カサハラさんがまた来るのか?・・・

 

胸が高鳴る。

 

 

 

でも、あれはどう見ても待ち合わせだろう?

窓際の席に通されてこの方、一度もメニューを開かない。

窓の外を心配そうに見ていることがほとんどで、時折携帯画面に目をやる。どこかちょっと落ち着きがなくて、ソワソワしている。一人の時間を楽しんでいる・・・という風じゃない。この前ご来店頂いた時よりも、不安げで随分幼く見える。

 

窓の外を見つめていた彼女の顔が、ハッとなった。そうしたら今度は慌てて視線を窓から剥がして、メニュー表を開く。前からメニューを悩んでいる風な顔をしているように見えるのは気のせいか?

 

軽く息を切らせた男性客が一人、店前の行列には並ばずに、入店した。

タイミング的にはこの人に間違いないと、タカハシは予測を立ててその客に応対した。

 

「いらっしゃいませ。お待ち合わせですか?」

 

「・・・は、はい」

ほらやっぱり。シバサキさんが待っていたのは、この人のことだ。

カサハラさんではなくて、がっかりしたことは、この男性の面目のためにも胸にしまう。

窓際の席に座って、メニューを決めかねているといった態で物憂げな表情を浮かべる女性の方へ腕を伸ばして促すと、男性客はこちらに『どうも』と頭を下げ、足早に彼女の方へ去った。

 

タカハシは、この男性の前で彼女がどんな態度をとるのか、すごく興味があった。なぜなら、彼を待っているときの彼女の様子が、少し緊張しながら胸を高鳴らせている、恋する女の子にしか見えなかったから。

 

俺は一人分のお冷を手に、窓際の席に向かい、タイミングをはかる。

 

「・・・」

黙ったまま、その男性客は彼女の向かいの席に座った。

彼女が、ゆっくりと顔を上げた。2人は目を合わせたはずなのに、特別これといった挨拶を交わさなかった。『おまたせ』『遅かったわね 』とかいった会話が成立すると思っていた自分は、まだ、まだ恋愛初心者だ。

 

「・・・ランチは?」

シバサキさんが発したのは、意外にもその一言が最初だった。

「まだ」

「そう。じゃあ、私もここで食べようかな」

そう小さく言いながら、シバサキさんは男性にメニューを差し出した。

 

俺は見てしまった。

 

彼女はメニューを睨む男性から見えないように、ふぅっと息を逃している。

知らずに息を止めていたのか!?なんて可愛いんだ!

頬がうっすら赤らんでいるじゃないか!!

おい、そこの向かいに座ることを許された、幸運な男よ!!なんでお前はその彼女の表情を見逃すかなぁ・・・いい男に見えるけど、ちょっとなぁ・・・。

「残念君」と名付けるぞ。

 

 

「なにがオススメだ?」

「焼きプリン」

「それは飯にはならん」

「そう?フルーツ盛り合わせたのなら、結構ボリュームあるわよ」

「俺はこれでいいや。ランチAセット。お前は決まった?」

「うん」

 

そのタイミングで、タカハシはお冷をテーブルに置き、オーダーをとった。

「少々お待ちください」と背を向けると、その後ろで二人が会話を始めた。

 

「ホットサンドと焼きプリンって、完全に軽食だな」

「十分よ。きっと食べきれないから、ホットサンド助けてね」

「少なすぎるだろ」

「いいの!プリンを食べたくて来たんだから」

「ふぅん。女の胃袋は謎だ。買い物・・・もう行ったのか?」

「うん。ちょっと気になってたもの、買った。休憩にここに寄ったの」

「そか。重いもんとか、大きいもんがあるなら、この後付き合うぞ」

「あら、ほんと。じゃあ、この後本屋につきあって」

「ああ」

 

 

さっきの薄ピンクの頬は上手にしまい込み、前にも見た大人の女性の顔になっているシバサキさん。でも観察していると、瞬きが多かったり、視線の置き所に迷うと窓の外に目をやる。残念君はそんなことはおかまいなしに、シバサキさんの方に視線は向いている。でも、顔を直視はしておらず彼女の首元や手元・・・って不器用か。

 

それでも二人の纏う空気は、お互いに「好き」が垣間見得てドキドキしている感じで、くすぐったくも落ち着いていて。なんだか一緒にいるのが自然に見える。長い付き合いの、友達以上恋人未満?そんな風に推察する。

 

残念君のコーヒーとシバサキさんの紅茶を先にお出ししようと、トレイに載せて席に近づく。不甲斐ないことに、コーヒーをテーブルに置く時、つい手が震えた。カチカチと音をたててしまうカップが憎い。

 

「あら、どうしたの?今日はどうしてそんなに緊張してるの?」

 

じーん・・・

 

胸にしみる言葉だった。ただのアルバイトである自分のことを、覚えていてくれる人がいたんだ。残念君は、不思議そうな顔をしてシバサキさんと俺を見る。その目に咎めるような色はない。

 

「す、すみません!・・・実は以前シバサキさんと一緒にいらしたマリエさんが、先日ご来店された時に、俺、カップをテーブルに落として割っちゃって、カフェオレがスカートにかかってしまって・・・」

「あら。名前・・・覚えてくれたの?うれしいわ」

「あ、すいません。前のご来店の時、お三人がとても目立っておいでで、話も聞こえてしまったので・・・」

「ね、教えて?毬江ちゃんの彼氏、どんなだった?」

シバサキさんの目つきが変わった。興味ある!!と目が言っている。

 

「あ、と。俺がこぼした時は彼氏さんはまだいらしてなくて、クリーニング代を受け取ってもらえるようにお願いしている時に、お越しになって・・・」

「うんうん、それから?」

身を乗り出すような彼女の様子に、残念君が呆れて背もたれにうつかった。それでも制止することなく、彼も興味がありそうで聞き耳は立てている。

 

「なんて言うか、怒られてはいないんです。間に入ってくださって。彼女には優しく気遣いがある感じなんですけど・・・こっちは加害側なんで・・・正しくご意見をいただいたというか・・・」

「ふふふっ・・・目が笑ってないでしょう?」

「そうなんです。笑顔が怖い人、初めて見ました」

「そのブリザード、あの人の必殺技だから、今後気をつけたほうがいいわよ」

「お前な。言うに事欠いて・・・上官だぞ?」

初めて残念君が口を出した。俺にではなく、シバサキさんに対して、だが。

「あらぁ、あんただって、逆鱗に触れないように気をつけているでしょう?」

「う・・・ま、まぁ・・・」

「気をつけるに越したことないわよ。特にお姫様のことに対しては、導火線短いから気をつけてね」

クスリと余裕のある、笑みを浮かべるシバサキさん。

この人は二重人格かと思うほどに、残念君といるとギャップのある顔を見せる。

そういう、ことか。彼が、特別なのか。

「はいっ。ありがとうございます!」

俺は清々しい気持ちで、彼らの席を辞した。

 

 

その後、運ばれた料理は、主に残念君が平らげた。

とはいえ、彼の食事をしている姿は、なんというか、すごく綺麗で、行儀がいい。そんな彼を、シバサキさんはよく見ている。

そのくせ彼と視線が合うと、「なによ」とでも言うように、挑発的な態度を見せたりもする。

 

 

シバサキさんがお気に入りであろう焼プリンを口に運ぶと、目がまん丸になり、これでもかと口角が上がった。残念君が、彼女のその可愛らしい顔を見て思わず吹き出したのが気にくわないらしく、むぅっと口を尖らせて、自分の使ったスプーンとプリンのカップを同時に彼へ差し出した。食べてみろ、という事らしい。

一瞬「えっ?」っと躊躇した残念君は、そのまま観念したようにプリンとスプーンを受け取って、一口すくって食べた。「んん!」と驚きの目で喜んで見せて、また彼女の元に返す。彼女は、満足げにちょっと笑って、なんでもないといった顔で、またプリンを口に運んだ。

お互いが、間接キスを意識しているくせに、意識していないふり、だ。

 

 

可愛い人だな。端麗な容姿の奥の、素の部分が垣間見えるほどに、彼女の好感度が上がる。彼女のいわゆる仮面みたいなものを、この男の前ではうまく繕えないようだ。彼女をそんな風にさせてしまう特別な男・・・残念君は実はすごい人なのかもしれない、と一目置く。

 

 

残念君も、実はすごくイケメンで、店内の女性たちの注目を集めている。窓際の、美男美女カップルは、人目をひく。

 

 

でもな、俺は知ってる。

この人たち、多分まだ付き合ってねーぜ。

それはおそらく、残念君が勿体無いことに色々なチャンスを潰してしまっているせいじゃないか?と思う。

 

 

 

食べ終わった二人は、自然に席を立ち、残念君が彼女の買い物袋と伝票を手にレジに向かった。シバサキさんは会計の間も彼の横にいて、会計を終えた彼に、綺麗な笑顔で丁寧にお礼を言った。残念君は、照れながらもどこか嬉しそうだ。彼がドアを開けに行くと彼女は俯いて嬉しそうに笑った。

 

 

「ありがとうございました」と頭を下げて二人を見送る。

 

彼女がファー付きのコートを羽織りドアに向かった時、彼女の綺麗な黒髪にファーの繊維が抜けたものが1本付いているのが見えた。すぐ後ろの残念君はすぐに気づき、そっと指で彼女の髪に手を伸ばし、それを取った。

彼はそのファーをちらっと見て、スッと自分の上着のポケットに入れた。

 

床に捨てるのも惜しいのか?

 

 

 

ふわっと心が温かくなる。

お互いが想いを寄せているのに、それを見せないから、気づかない。なんだか応援したくなる二人だ。

思ったよりも残念君の背中が広くて、大きい。

タカハシはその背中を見送りながら、心の中でエールを送った。

「もうちょっとちゃんと見て、いろいろ気づいてやれよ!・・・がんばれよ!」

 

彼が気づいていない彼女の行動に、自分は気づけたから。

タカハシは自分がちょっと、大人になれた気がした。

 

 

 

 

 





 第三話 堂上×郁:悠@youBB

 



 

「いらっしゃいませ!」

「あ、こんにちはぁ」

 

カサハラさんだ!!

ちょっと照れたように頬を染めているのは、先日シバサキさんとマリエちゃんと三人で来店したときに、うちの看板メニューの焼きプリンをいたく気に入ってくれて、会計しながら「我儘を言うなら、もっと大きな器でお願いします!」と真面目な顔でリクエストをしてオーナーの阿武さんに笑われてしまったからだろう。

本当に素直で可愛くて、阿武さんもあの一言でカサハラさんのファンになってしまったほどだ。ほら・・・阿武さんご夫妻が笑顔になってる。カサハラさん、凄いよ!

 

「あのぉ、待ち合わせなんですケド・・・」

「それでしたら、先日のお席にどうぞ」

「え・・・お、覚えられてますか?!そ、そうですよねぇ・・・あんな恥ずかしいこと言っちゃって、ホント、ごめんなさぁい」

「いえ、オーナーも嬉しいリクエストだって言ってましたよ」

にこやかに答えると、少し安心したように眉を下げて「お恥ずかしいデス」と肩を窄めた。

僕が勧めたテーブルに彼女は迷わず歩み寄ったが、着席の前に少しだけ迷って先日とは違う席―――窓を左手に、入り口が見やすい席を選んだ。

 

「ご注文はお連れ様がお見えになってからにしますか?」

「あー・・・すぐには来られないと思うのでぇ。先に飲み物だけお願いしようかな」

メニューを裏返して選んだドリンクは、ダージリンティだった。

カウンター奥の阿武さんに注文を伝える。そしてそっと彼女の様子を見てしまう。

 

だれと待ち合わせなのかな? シバサキさんかな?マリエちゃんかな?

それとも、また3人でランチかな?

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

カフェの入口を視界に入れてのこの位置に座ると、立川のあのお店を思い出す。同時に、ふわふわと甘酸っぱい気持ちと、今にも泣きたくなるような悲しい気持ちと、全身が高揚するような嬉しい気持ちが一気に蘇るから、郁は顔色を赤や青に変えながら堂上の到着を待つことになった。

 

先月、一ヶ月ほど続いた冷戦にピリオドを打った。

ケンカの原因となった郁の提案・・・同棲話を堂上はこれでもか!ってくらい無駄だと言い切って、再び郁を落ち込ませる寸前だった。(いや、落ち込んだな、アレは)

その上で堂上から提示されたのは「結婚」だった。

青天の霹靂とはまさにこの事?郁の思考をかなり飛び越えた感じがしたが、返事を促され即答で了承した。

 

郁の返事を待ってましたとばかりに、その後の堂上は迅速だった。

その日のうちに指輪を見に行くと言い、あれよあれと言う間に婚約指輪に加えて結婚指輪まで吟味し始める。両家の親への挨拶のタイミングやら、式場に希望はあるかとか、色々聞かれた気がするが・・・あまり覚えていない。

郁がハッキリと覚えているのは、自分に向けられた甘い表情だ。終始、「こんな最上級な笑顔見たことなーいっ!」と心の中で大絶叫。被弾しまくりであった。

 

ふわふわと郁の心は浮かんでいく。

心地いい幸せな時間だと認識できた。

目の前を歩く堂上は、後ろ手に郁の手を引く。それは強引なものではなくて、ちゃんと歩調を合わせながらのリードだと分かる。

ずっと追いかけていた大きな背中が、すぐ目の前で逃げることなく郁を待っていてくれる。

 

単純に嬉しいだけの時間は瞬く間に過ぎて。

現実に引き戻されると、急に心細くなった。

 

結婚話が急過ぎるとは思わない。堂上があの銃弾に倒れてからもうすぐ1年半。同じだけ、2人は交際期間を経てきているのだ。それが長いか短いかの判断スキルは、郁には無い。恋愛初心者だから、ここまで全てにおいて堂上任せだったと言える。

それで困ったことは無かったし、堂上も満足気であったし。何も問題は無さそうなのに、郁には何かが引っかかっていた。

 

「ふう……」

 

堂上とのことを考えると、無意識に肩に力が入ってしまう。結婚を了承してからずっとこうだ。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「お待たせしました。ダージリンティです」

「あ、ありがとうございます」

 

この席に座ってから、カサハラさんは落ち着かない雰囲気だった。緊張してる?とにかく、先日の女子会の時とは別人みたいに感じる。

看板メニューの焼きプリンをもっと食べたいと素直に気持ちを伝えてくれた、あの時の飾らない感じが良かったんだけどな―――そんなことを考えていたものだから、ついつい声をかけてしまった。

 

「あのぉ、今日は焼きプリンのご注文はございますか?」

「え?あー・・・はい。ここに来たら、絶対に食べようと思ってましたから・・・え?もしかして、売り切れとか?」

「いえいえ!ちゃんとご用意できます。ただ、先日のカサハラさんのリクエスト、なかなか難しいようで・・・」

「・・・器を大きくって、アレですか?!うっそぉ!試してくださったんですかっ?!」

「ええ。オーナーが試行錯誤してましたよ。単純に大きな器にしても、同じ味にはならなかったみたいで。色々試したんですが、材料費とか時間とかの関係を考えると、どうしても現状維持がベストになってしまうらしいです」

「うわぁ・・・私の我儘だったのにぃ!ごめんなさい、大変な思いをさせてしまいましたよね」

肩を窄めて、膝の上に両手を合わせて載せ、恐縮そうに頭を下げている。

「カサハラさん、謝らないでください。オーナーは本当に喜んでるんです。自分の作ったものを美味しいって喜んでくれるのが幸せだって。だから、是非ともリクエストにお応えしたいと思ったみたいですよ。でも最近、姉妹店みたいなお店にも焼きプリンを出すことになって。数を作らなきゃならないので、器を大きくするとそっちにも影響がでてしまうようです」

「へえ、姉妹店ですかぁ。じゃ、そちらのお店でもここの焼きプリンがいただけるんですね?」

「ええ。あ、でも、そのお店は所謂バーですけど」

「バー?」

「はい。夜の営業しかしてません。基本はお酒を提供するお店ですが、時々店長がマジックショーを見せてくれるんですよ」

「ん?マジックショー??」

 

すごくビックリした表情で僕を見上げたカサハラさんだったけど、一瞬にして別の顔になってしまったのを見る羽目になった。

店のドアがカランっとベルを鳴らすのと同時に、頬を徐々に赤くする彼女。視線は入り口に釘付けで、もう僕との会話なんてそっちのけだ。

 

「きょ・・・あ、篤さんっ!」

胸の前で掌を広げる。手を振るか、迷うみたいに震えているように見えた。

カサハラさんの様子に、ある程度の覚悟をしてその視線の方向へ体ごと向いた。「いらっしゃいませ」と頭を下げ、上げる仕草の中で足元から順にその人物を捉えていく。

 

「すまん、待たせたな」

「いえ。思ったより早かったですよ?ちゃんと仕事片付けてきました?あたしのこと気になって、途中で出てきたりしてませんか?」

「ああ、大丈夫だ」

そっと微笑んで席に着く。そして―――僕を見上げた。

 

「・・・あ。ご、ご注文は・・・お決まりになりましたら、お呼び―――

「あ、篤さんはハーブティーでいいですよね?カミツレじゃないけど」

「ああ。お前は、お茶だけか?」

「いえ、あ、篤さんが来たら頼もうと思って」

「例のモノ、な」ふっと笑顔が零れた。

「は、はい。例のモノ・・・あ、篤さん!それがね、今、店員さんとお話してて気づいたんだけど。カズさんとこの焼きプリンって、ここのオーナーさんが作ってるのかも!」

 

カサハラさんの口から予想外の名前が飛び出した。

「え、カズさんって、カズナリさんのことですか?!」

「はい。さっき話してたバーって、駅裏のですか?」

「そうです、そうです!カズナリさんをご存じなんですか?」

「あたし、カズさんの後輩なんです。大学の陸上部の」

えへへっと舌を出しながら答える仕草は、もう堪らなく可愛いのだが。

「大学の・・・陸上部の後輩・・・って、もしかして、ご結婚される・・・」

二人の顔を交互に見ながらそう言うと、連れの男性――アツシさんはすこし顎を引いて背筋を伸ばし、カサハラさんはふにゃりとして真っ赤になった。

 

そうか、この二人がカズナリさんの言っていた「ジレジレさせられたバカップル」なのかぁ・・・

 

「僕、たまにカズナリさんのバーでアルバイトしてるんですよ。っていうか、師匠のもとで修業って感じかな」

「ってことは、マジシャン目指してるのか」

アツシさんから聞かれて、ちょっと面食らった。でも「はい」っと返事をすると、傍らから「うわ、師匠だってぇ」っとニヤつきながらのカサハラさんの声が。そしてアツシさんからは「そうか、頑張れ」と優しい励ましの声を貰った。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「やっぱり、あの店と何か関係があるんだろうと思ってたんだよ」

「えー?そうなの?あたし、全然気が付きませんでした」

話してくれれば良かったのに、と不満げに頬を膨らませる。

「店名がな、それっぽいと思ってな。でも、カフェとバーじゃ、どうも繋がりが見えなくて。まさか焼きプリンで繋がるとは」

堂上がくくっと笑うと、郁はホッと息を吐いてティーカップに口をつけた。

 

「どうした?何か心配ごとか」

「ん、なんで?」

「郁の緊張は手に取るように伝わるんだが?これでも長い事お前の上官なんでな」

なんでもお見通しと言われているようで、郁は恥ずかしいことこの上ないのだが、それと同じくらいの嬉しさと感謝も湧いてくる。

「ただ・・・」郁の瞳を見つめながら、言い淀んだ。

「な、ナンデスカ」見つめられると赤くなるのは、もはや条件反射だ。

「郁が何をどう考えているのかは、正直分からない。いや、予想しかできない。だから、ちゃんと話してくれないと解決もしてやれないし、郁が望むように変われない」

郁は目を瞠った。

「教官は、変わらなくていいんです!」

「・・・教官?」

「あ・・・。篤、さん」ちょっと不満気に言い直す。

「俺は変わらなくていい、ってどういう意味だ」

 

堂上は腕組みをして、答えてみろと言わんばかりの態度だ。まるでタスクの事務室にいるような説教タイムの様相。

そのタイミングで、先程の店員が堂上のお茶と郁の焼きプリンを持ってテーブルの脇に立った。「お待たせいたしました」の言葉に、二人は黙って頷いた。彼が立ち去るのを待って堂上が溜め息を吐いたので、郁が顔を上げる。

 

「あ、あの、篤さんっ!」

「待て」

訓練さながらの反応を見せる。

「話は後だ。とりあえず、郁の楽しみにしてたコイツ、堪能してくれ」

堂上は焼きプリンを指差しながら柔らかく笑う。それに安堵したように、郁も表情を崩した。

 

いただきます、っと手を合わせる郁をじっと見つめながら、堂上はこの一か月近くの目まぐるしい状況変化に思いを巡らせた。

一か月ほど続いた冷戦状態は、正直キツイものだった。人生初の「胃に穴が開くんじゃないか」と思ったくらい、郁とのことを考えあぐねた。考えても考えても、正解を導き出す公式は浮かんでこないし、それに代わる文章読解力も功を奏さない。郁の気持ちを読み解く鍵は、言葉を尽くさなければ手に入らないということは、堂上から結婚を提案した時にやっと気が付いたくらいだ。

言葉が足りない自分に、郁はどこまでついてきてくれるだろうか―――少しの不安は行動になって現れる。結婚へ向けてやるべき事の多さに驚きながら、ひとつひとつミッションをクリアしていくのが嫌いではない堂上は、その小さな達成感の積み重ねにのめり込んでいく。気が付けば、式場も日取りも決定事項となっていた。

 

 

「はぁ・・・ほんっと、美味しぃぃ!」

片手にスプーン、空いた手は頬にあて、恍惚の表情を見せる郁。幸せを感じた彼女の顔はどんなものかと想像した時、必ず今のこの表情が浮かんでくるんだろうなと思うと、堂上の頬も緩む。

「・・・幸せそうだな」

「・・・ええ、幸せですよ?」

「旨いもの食ってる時が、一番幸せそうだな」

今更だと言わんばかりの口調で告げたのだが、郁の眼が少し曇った。

 

「ん?」

「・・・それは、一番じゃないです」

堂上の言葉を否定する時の郁は、ちょっと涙目になる。それもいつものことではあったが、今この瞬間はきっと重要なポイントなんだろうと思えた。

「じゃ、何が一番なんだ?」

「そんなの!――――篤さんがそばにいてくれる時に決まってるじゃないですかっ!!」

 

食ってかかるように言われて、堂上は少しだけ身を仰け反った。そして、「どうして分からないんだ!」と目で訴えている郁をじっと見つめた。

 

「お前のそばにいるのは、もう当たり前のことだと思ってた。それが日常で、特別なことだなんて感覚、無くなってたな」

正直な気持ちを吐露してみる。少しの反省の上に、郁の想いが嬉しさを連れてくる。

「そばに居るだけで幸せとか、欲が無さすぎないか?」

「あたしにとっては、それが一番の欲でしたよ?ずっと教官のそばに居たいって思ってきたんですもん。それが叶うんなら、本当にあたしは幸せです」

片思いの時からずっと、とダダ漏れた言葉もしっかり聞いた。

「でも、結婚したらずっとそばに居られるんだから、それ以上の幸せを望んでもいいんだぞ?」

遠慮が過ぎる郁を楽にしてやりたくて、それが普通だということを提案してみたのだが。

「今以上の幸せって、考えられないです!」

そんな言葉で始まったのは、郁らしい可愛い言い分だった。

 

 

「だから教官は、変わらないでください!今のままで充分です。あたしは幸せだし、これからも絶対に幸せです。そう胸張って言えるから、教官があたしの望むように変わろうなんて思わなくていいんです」

捲し立てるように言った後、郁はちょっと視線を落とした。

「・・・変わらなきゃならないのは、あたしの方。もっとしっかりしないと、ずっと教官にご迷惑をかけることになるし。今だって、式のこととか教官に全部お任せで、申し訳ないなって思いながら何にも出来なくて。自分が情けないデス」

じわりと涙が滲んだのは「これじゃ教官に幸せだと思ってもらえない」と思ったかららしい。

 

何となく、お互いに似たようなことを考えていたのかもしれないと思い至り、堂上はホッと胸を撫で下ろす。気持ちがすれ違っているかもしれない不安は持たなくていい、と言われた気分だ。

 

堂上は自分の気持ちを上手く伝えられないのだが、代わりに郁がストレートに気持ちをぶつけてきてくれる。それに応えるうちに、表現できなかった想いが形になってくるようだ。

 

「それなら、郁だって変わる必要は無い。今のままで充分だ」

「でもぉ・・・ご迷惑―――

「迷惑だなんて思ったことは無いが?出逢った時から変わらないでいてくれたから、俺は郁を好きになった」

だから変わらないでくれ、と願えば、郁は耳まで赤くして俯いた。

 

「ただなぁ・・・何も変わらないでいられるか、と言われると自信がない」

「え・・・」

「今、この瞬間も変わってるからな。俺が郁を好きだという気持ちの大きさは」

ニヤリと意味深な笑みを見せる。郁はきょとんとした後、更に茹で上がりながら「あたしもデス」と呟いて、堂上を被弾させる一言を落とした。

 

 

 

 

「ずっと教官に恋してる気分です―――」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

ああ、甘い。

ベタベタに甘いじゃないか!!

流石、カズナリさんも認めるバカップルなだけあるな。

 

ふう・・・

僕は失恋したばかりなのだが、なぜか清々しい気分だ。

そんな風に思わせてくれるお二人さんは、きっと幸せになるんだろうな。

 

 

 

視界の端に二人を捉えながら仕事をする。

何分か後に見たのは、アツシさんがテーブルの上のカサハラさんの手をしっかり握っている光景だった。

カサハラさんの左手の薬指を意識して指を動かしているみたいだ。

 

 

「それじゃ、ティファニーにでも行ってみるか」

 

アツシさんの言葉にニッコリ微笑んだカサハラさんの表情が忘れられない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin

 

 

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ティファニーで朝食を??

堂上篤、天の神様の言うとおり

comment iconコメント ( 24 )

どーもー。青コーナーの覆面A…その名も赤福アミーゴです!
3人の妄想は、決して足し算ではなく、明らかにかけ算で。一人ではとてもこうならない!というくらいに飛躍してくれます。
会議して、あらすじわかっていても、完成したよって見せられると、予想を越えてて、「こんなことになってたの!?」って驚いて。楽しくて、たまらないの!

悠ちゃんとジョーには、ずっとこうやってタッグを組ませてほしい。もっともっと、やりたい!
私に、こんなふうにコラボしてくれるバディたちがいてくれることが、ほんとうに、幸せです。

こころから、ありがとう!
これからも、変わらず、よろしく!

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-01-20 10:35

ayaちゃんへ

あれ?どうしてあやちゃん青コーナーなの?
私が青よっっ!!(何の話だ?)
赤福アミーゴ?また名前変わってるし。どうしてそんなオモロイ名前ばっかり飛び出すのさ。ずーるーいーーーー!
私は地味に小倉ういろうず、とか柿ピービアーズとか、とちおとめかんぴょうずに収まっておくよ。。。

気持ちは、これを書いてる時からスピンオフへ飛んでいます(笑)
早くアレが書きたくて仕方ないのですww
ゴージャスシティで笑いの神に微笑まれた、あのオバチャンたちの会話から始まっているのだ。もう、止められない。
最後にあやちゃん、ちゃんと小ネタ回収してくれよ!
(`・ω・´)b

次のコラボ構想、お待ちしてます♡
ご期待に応えられるよう精進しますぜ。
よろしくね♡

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:33

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名前: - [Edit] 2017-01-20 19:29

何事もカタカナでな

この度はお姉様方に遊んで頂きまして誠にありがとうございました。期限守らずお待たせしまくりで申し訳ない。それでも堂郁に負けない亀の歩みで着いてく所存でございます。
どうか。どうか見捨てないで下さいまし。

そして。
スピンオフ作品楽しみに待っております。お姉さんのことだからほぼほぼもう出来てそうですが…←
今年も妄想の神様とお風呂の神様とトイレの神様くっつけて、いい一年にしましょうね♡
(真面目)

名前: ジョー(あっじょ) [Edit] 2017-01-20 22:57

No title

もう、さすが!って言葉しか出ませんな!
名作誕生です!
ありがとうございました😊

「恋」がこんな素敵なカタチになるなんて!
3組の恋模様を堪能致しました(´∀`*)
ほんま、大大大満足です!

って、言いつつも、スピンオフがあるなら
早く与えたまえʅ(◞‿◟)ʃ

名前: kiko [Edit] 2017-01-21 01:24

そうよ!青コーナーよ!

そうよ!
あなたはきっと青コーナーがいいと思って。
あたしが赤なら、敵として戦わなくちゃいけないわっ!そんなの、ヤダプ(・3・)プップクプー

だから、共に青コーナーコンビで(フラッシュギャルズではないっ💢💢)。

あなたとジョーのせいで、空っぽの棚になにか並びそうだわ💧

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-01-21 13:22

お得感満載です❗

三作とも可愛くて♡
読んでるときニヤニヤしてたらしく娘に「ママ顔やばいよ」と…( ̄▽ ̄)

堂郁はもちろんのこと、小毬&手柴も普通のカップルより絶対甘いですよね( *´艸`)
あ。まだ手柴は付き合ってなかった(;'∀')

コラボなのに、作品の雰囲気とかが一人の作品みたいにしっくりで。
誰の作品かって書いてなかったらわからないかも⁉
悠さん、ayaさん、あっじょさん♡
楽しませていただきました❗ありがとう(*'▽')
スピンオフも楽しみです!!

名前: yuca [Edit] 2017-01-21 22:09

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名前: - [Edit] 2017-01-22 22:15

今晩は😃豪華コラボでしたぁ💗同じ作品ですが、皆さん家にお邪魔させて頂きました(>_<)懐かしのキャラも登場したりして楽しめました😁また待ってます❗

名前: torotan [Edit] 2017-01-22 22:26

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名前: - [Edit] 2017-01-23 10:25

ステキです

あちらでも読みました。覆面様💛きっとそうだよね~と心の中でつぶやいていましたら、こちらでも。
ステキコラボを堪能しました。それぞれのカップルの甘さがちょっとずつ違っていて、でも、コラボでもまとまってて違和感なく最後までするするっとニヤニヤしながら読みました(どっちだ)。スピンオフも楽しみにしています!!

名前: shimoko [Edit] 2017-01-25 15:26

素敵コラボでした

三者三様の可愛さが堪らないw
カズナリさんの話が出てもムっとしない堂上さんは結婚が決まってやっと余裕が出てきたのでしょうかw
郁ちゃんはマリッジブルーとかなりそうですよねw
いい奥さんにならなきゃと自分を追い詰めそうw
そこは堂上さんが上手くガス抜きに甘やかしてあげないとですねw
またコラボ楽しみにしていますw

名前: チャコ [Edit] 2017-01-25 17:06

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名前: - [Edit] 2017-01-26 13:24

サトちんさんへ

返信遅くなってごめんなさいm(__)m

覆面、わかりませんでしたか~(・∀・)
ビリーブさん、とか言ってますが、単なる血液型だったりします(笑)

頂いたリクエストを膨らませてみましたが、この三組はそれぞれの色が出ていて素敵なカップルズですよね♡
今回は堂郁を書きましたが、いつか何かが降りてきたら、他のカップルの話も書いて見たくなりました♪

バイト君は、私も応援しています。
何だか、私の息子のような気持ちで・・・ww

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 14:00

ジョーへ

返信遅くなってごめんね<(_ _)>

この度は、勝手な無茶振りに応えて頂いてありがとうございました♡
この3組の選択で、ジョーが小毬を選んでくれるとは思わなかった!!
私的に、小毬はハードルが高いんだ。毬江ちゃんが一般人ってのが難しいと感じてて。
図書隊の中と外を交差させるテクニックが私には無い気がする・・・

ジョーの小毬は女の子のハートを鷲摑み♡
彼氏でありながら保護者のようなこまっきーの大人な姿も萌えポイント♡♡
堪らん!!ってお話でした(*'▽')

最近、お風呂の神様は時間が遅すぎて待っててくれません(笑)
もう少しまともな時間帯に入浴して、神様をお待ちしたいと思ってます!
(大真面目)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:12

kikoちゃんへ

返信遅くなってごめんねm(__)m

kikoちゃんのリクは、ざっくりなモノからピンポイントなモノまで(笑)
妄想が湧きに湧くから有難いどす♡
「恋」と言ったのは、アレか?源ちゃんの影響だったのか?(笑)
図書隊で恋と言ったら、あの三人娘しか思い出せなくて。
それぞれの恋が見られる時期を探し出してみました♪

この思い付きのお陰で、カフェかじゅあぶのお話が広がった!!
それはもう、とっても嬉しい(*'▽')
こういうのもSSの醍醐味だよね!!

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:21

ayaちゃんへ

(返信遅くなってごめんよー)

そうか!すでに読まれてたのかー!!
あやちゃんと青コーナーのペアなのね💛
それはとーっても楽しいだろうな(*'▽')

クラッシュギャルズでもいいけどさ(笑)
モスラ呼んじゃう双子とか思い浮かべる私は古すぎるっ!

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:30

yucaさんへ

返信遅くなってごめんなさい<(_ _)>

3人三様の恋模様、ってコンセプトにちゃんと沿えてましたかね?
あやちゃんとジョーのお話が可愛くて、未完成のものとか出来立てホヤホヤのものとか読んでる私も、ニヤニヤしてたんですよーww

コラボじゃないみたいに思えたのは、多分、タカハシくんのお陰かな♪
私のイメージは、うちの長男ですww
(でも、マジック出来るような器用な人ではないですw)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:35

nonorinさんへ

(返信遅くなりまして<(_ _)>)

恋する乙女は十人十色♡
同じシチュでも絶対に反応が違うよねーって話から始まりました。
それを傍で見つめる人物視点が降りてきたんです♪
で、絶対に一番の糖害被害者ww
ちょっとお気の毒~(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:48

torotanさんへ

返信遅くなってごめんなさい<(_ _)>

3か所、全部回っていただいてありがとうございます♡
過去作と繋がると、書いてても楽しくて。
これからもオリキャラが活躍してくれると、楽しいコラボが出来るかな?
頑張りまーす!

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:56

ぴーさんへ

返信遅くなってごめんなさい<(_ _)>

全部回ってくださって、ありがとうございます♡
覆面、ズレてませんでしたぁ?
ほぼ見えてたかなぁって(笑)

オリジナルのカフェ繋がりで、オリキャラがどんどん増えてきましたよ!
もう考えてる時から楽しくて仕方ありません(≧∇≦)
今後も展開できるといいなぁ・・・

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 17:00

shimokoさんへ

返信遅くてごめんなさいm(__)m

覆面、正解でしたね?(笑)
B型・信じる心を忘れないビリーブさんとは私のことです♡

恋する乙女の違いが見えて、ホントに楽しいコラボでした。
私たちの楽しい気持ちが、読んでる皆さんにも伝わったのならうれしいです♪

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 17:03

チャコさんへ

返信遅くなってごめんなさいm(__)m

ayaさんのとこでご登場のカズナリさんに友情出演(名前だけw)していただいて、オリキャラが出てきても違和感のないお話になったかと思います♪

この時期の堂郁は、結婚決まって盛り上がってるようで、郁ちゃん心がついていけないって感じかも…って思ってます。
それに早く気付いてほしいですね。
頑張れ、朴念仁!!(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 17:22

きみさんへ

返信遅くなってごめんなさいm(__)m
コメントありがとうございました(*'▽')

可愛い三人娘の恋模様を(色んな意味で)貫禄のあるお姉さん三人で仕上げて見ました(笑)
私達の色も出ていたと思いますww

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-08 04:37

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