先日アップした今年一発目のお話
「笠原郁、それは正夢」の堂上sideを書いてみました。
需要、ありますか?

辿り着く所は同じなのに、教官の想いを追うと長い話になってしまうのは、私がそんな病気だからです(泣)
ホントにどんだけだ!って感じに長いです。。。





堂上篤、天の神様の言うとおり

 

 

 

 

 

正月三が日過ぎに迎えた、堂上班の三連休が終わった。

それは今までと変わらない、穏やかな正月休み。堂上は実家で久しぶりにのんびりと過ごした。

だがそれとは次元の違うところで、何か違和感があった。その正体が何なのか、気付いたような気付かないような・・・。

 

 

連休明けの朝、堂上班は始業の前に時間を作るため、早く出勤することになっている。

昇任試験を間近に控えた可愛い部下たちが、勉強に集中し過ぎて本業や体調管理を疎かにしないように、ちゃんと息抜きもしながら連休を過ごすよう約束させた。上官命令とも取れる約束だ。素直な部下たちは、きっとそれさえも懸命に守ろうと努力するだろう。

そんな二人のそれぞれの休日を想像する。容易に浮かんできてしまうから、堂上自身驚いた。

 

「そうか・・・あいつらとこんなに長いこと会わずにいるなんて、無かったな」

 

 

気が付けば、部下たちのことばかり考えて過ごす休日だった。心配などと言う上官らしい思いばかりでは無い。親にでもなったのか?と思われるくらいの、過保護な心配も自覚出来た。

それはちょっと気恥ずかしい。だがこんな思いをしてるのは、きっと堂上だけではないはず。共に部下を育てている小牧だって、平気なフリを見せているだけで絶対に心配しているだろうし、タスクの諸兄たちに至っては「どうしてるかな?」と思いを声に出しているに違いない。

そのくらい、郁と手塚はタスクのみんなから愛され、大切に思われているのだ。

 

「試験、上手くいけばいいんだが・・・」

 

これは主に、迂闊な方の部下に向けた心配であることは、自分の声が耳に届いてから気が付いた。誰が聞いているわけでもないが、照れ隠しの咳ばらいを一つしていつもより少しだけ早く寮の部屋を出た。

 

小牧の提案の「休日報告会」で、会えなかった三日間の様子が聞けるはず。それを思うと自然に足取りは軽くなっていた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

――今日の占い カウントダウン!!

 

 

出勤時間を早く設定した日にだけ、朝の食堂でお目にかかれる占いコーナーが始まった。普段は全くと言っていいほど占いに関心の無い堂上だが、時々巡り合うこの瞬間は何故か誰かの星座が気になったりするから厄介だ。

 

 

――8位は山羊座

  今日は何事にも逆らわず過ごしましょう

  運命に任せれば結果オーライです

  ラッキーアイテムは「キーホルダー」

 

 

「・・・そんなもんで運気が上がるなら、努力する奴はいなくなるだろうな」

自分のことだと気にもならない。なんなら理屈を捏ねて占いなんか信じるものか!という態だ。全国の山羊座の皆さんが、キーホルダーに祈りを捧げる姿を想像してげんなりした。

 

そんなくだらない妄想の途中で、気になるあの子の星座が最下位だというアナウンサーの声が耳に届いた。思わず全神経をテレビのスピーカーに集中させてしまう。

 

 

――色んなことが上手くいかない日

  今日だけは我慢しましょう

  ラッキーアイテムは「プレゼント」

 

  そして、最下位のあなたの運気をアップする

  ラッキーパーソンは・・・

  「頼りになる上司」です!

 

 

 

 

「・・・・・」

 

さっきまで馬鹿にしていた占いが、急に信頼の対象に格上げされる。

堂上は、郁が以前話していたことを忠実に思い出していた。

 

郁も占いを信じ切っている訳ではないと言った。ただ、いい結果なら諸手を挙げて信じる。悪い結果は見なかったことにするんだそうだ。超ポジティブ思考だと感心しつつ、最後に彼女が言った「最下位の時の対処法」に思わず微笑んだ。

 

「最下位の時ほど『当たる!』って信じるんです。だって、最近の占いって運気を回復させるポイントとか教えてくれるじゃないですか。それを出来る限り実行するから、是非とも当たって欲しいんです。そしたらラッキーアイテムで運気上げ捲りですっ!!」

 

 

 

今日も彼女は、占いが当たるように祈るんだろうか。

誰かに何かプレゼントしようと、朝から悩むのだろうか。

運気を上げてくれる人の傍に居たいと、強く願うんだろうか―――

 

 

「頼りになる上司・・・か」

 

 

決して自己評価が高いわけでは無いが、少なくとも郁に対して自分は、頼りになっているんじゃないか?と思わないでもない。

 

「ま、アイツがそう思っているかが重要だがな」

 

そんな言葉を口にすると、急に自信が無くなるもので。責めて今日くらいは郁に頼られる上司になれるように、と遠慮気味な誓いを立てて食堂を後にした。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

小牧と手塚が事務室に到着したのは、堂上が机上の書類に一通り目を通して処理の順番を頭の中で組み立てていた時だった。

「おはよ。笠原さんはまだかな?」

「おはようございます。まさかアイツ、今日のこと忘れてないでしょうね」

「おはよう。ちょっと不安だな」ふっと笑いを含んだ声だ。

 

そしてそれから5分後。隊長室の扉を豪快に開け放った玄田。

「よお!おはようさん。お前ら、早いな!・・・堂上、これから防衛部で会議だ。一緒に来いっ!」有無を言わさぬ雰囲気だ。

「俺ですか?」意識してはいないが、眉間に皺が寄った。

「なんだ、不満か?じゃあ、俺んとこに集まってる書類、今日中に全部処理するか?」

 

堂上は頭の中で色んな事を瞬時に計算した。事務室に残ることを選択すれば、もうすぐ来るであろう迂闊な部下の顔が見られる。3日間も会えていなかったのだ。流石の堂上も、少しばかり慣れない日常だったと思っている。が――――

そう思った瞬間に、今朝の占いが脳裏を過る。

 

『何事にも逆らわず過ごしましょう』

 

 

 

「・・・いえ、会議に同行します」

「えっ!?行っちゃうの?!」

「ああ。小牧、すまんが手塚と笠原の報告を聞いて、後で教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議には業務部長も参加していたのだが、途中で業務部から提出されるべきデータが足らないことに気が付いた。部長は誰かに届けさせようと内線で連絡をしたが、人手が足りなくて頼める隊員が居ないという。仕方なく堂上が手を挙げて、業務部へデータを取りに出た。

 

特に急いだわけでもなく、逆にゆっくりしてきたわけでもない。だが、会議室に戻った途端、玄田が怒っている様子で「タイミングが悪い!」と言い放った。

「ん?なんっすか」

「今、笠原がタスクの資料を届けに来たんだよ。お前、今朝は会ってないんだろ?挨拶でもしたかったんじゃないか?探してたぞ」

「そう・・・ですか」

 

堂上には玄田の「探してたぞ」という言葉が気になった。

 

――もしかしたら、何か拙いことにでもなったのか?だから困って俺を探してる?

 

迂闊な郁を想像すると、どうしても悪いことしか浮かんでこなくて、居ても立ってもいられなくなるのだが。

 

――いやいや、考えすぎだろ。あの占いの通りになるなんてことは無い!

 

そう、郁はもうすぐ図書隊員になって3年目の春を迎える。いつまでも手のかかる部下のままではない。少しずつでも成長を見せてくれてきたし、ちゃんと使える特殊部隊の隊員になれている。

 

――大丈夫だ

 

自分に言い聞かせるようにして一つ頷けば、堂上の掌を頭で受けて頬を赤らめる郁の表情が鮮明に思い出された。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

会議を終えてタスクへ向かうと、小牧と手塚が待ち構えていた。

「あ、はーんちょ♪お疲れ様」

「堂上二正、お疲れ様でした」

「ああ、お疲れ。・・・笠原は?」

「俺たち、午前中は館内警備で。堂上とバディが組めない笠原さんは、緒形副隊長預かりで事務室に籠ってたんだけど。どうも、業務部に助っ人頼まれたらしいよ」

「そうか、じゃ先にメシに行くか」

「そうだね」

 

 

 

 

 

「そうそう。報告会、良かったよぉ。二人とも勉強も息抜きも、しっかり頑張ってた。笠原さんは、大学時代の友達と会って来たみたい。立川に行ったって言ってたよね」

手塚が汁物の椀を口にしながら少しだけ頷いた。

朝別れてからの状況を聞きながら、堂上は小牧の隣りに陣取った。目の前は無人。休日中からの言いようの無い寂しさが膨らむ気配がした。

 

「可愛い丑のマスコットが机に飾られてるよ♪問題集は・・・堂上が添削してあげて。何度も唸りながら頑張ったんだってさ」

「でも、相変わらず新年早々寝坊したらしいです」

「あはは。慌てて走って来たもんね。あれ・・・ちょっと気になったんだけど。笠原さん、朝ごはん食べて来なかったんじゃないかな?寝坊したってわりに、そんなに遅くなかったよね。堂上が会議に出ちゃってから5分も経たないうちに来たし」

堂上の眉間に皺が寄って、無言で皿を空けていく。

「・・・急用を思い出したから先に戻るぞ」

 

平時から緊急出動を意識している、防衛部員らしい堂上の食べっぷりに唖然とする手塚を余所に、小牧はニヤリと口角を上げていた。

 

 

 

 

 

堂上は真っすぐに業務部へ向かった。時計は12時半少し前。今から食堂へ連れて行けば、郁なら余裕で午後の始業に間に合うように食べ進めるだろう。

昼休憩に入ったからか、業務部内は閑散としていた。誰か気付いてくれる者は居ないかと背伸びをしたりして存在を強調すると、待望の「堂上二正?」という声が後ろから聞こえてきた。振り返って見ると女性隊員。確か郁たちの同期だったと思う。

「笠原が来ているはずなんだが」

「笠原ですか?私は会ってないですねぇ・・・」

言いながら室内の奥の方へと視線を遣る。郁の姿を探してくれているようだが、真剣身が足りない気がするのは堂上だけだろうか。

「いませんねぇ。タスクに戻ったんじゃないでしょうか」

「そうか、すまなかった。失礼する」

 

 

 

 

 

とりあえず特殊部隊へ戻るのだが、その道すがら図書館内も確認してみようかと足を向けた。館内への通路の手前で、業務部の三監とすれ違う。

「お!堂上。お前の班の笠原な、うちで助っ人として借りてるぞー。なんだか、お前のことを探してたようだったんだが」

「ああ、それならさっき業務部へ行ってきましたが、姿が見えなかったのでタスクに戻っただろうということでした」

「そうか、もう終わったのか?じっくり出来るようにミーティング室を与えたから、仕事が捗ったか?」軽く笑いも込みだ。

「え・・・ミーティング室!?」

堂上は少し考えてから、踵を返して業務部へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~っ!堂上二正!!先程は申し訳ありませんでしたっ!」

いきなり頭を下げて来る。それは先程、郁の所在を適当に確認してくれた隊員だ。

「笠原、そこのミーティング室に籠ってました。知らずに居ないとか言っちゃって、ごめんなさい!」

「で、当の本人は?」

「仕事が終わったみたいで、タスクに戻りました。二正がいらっしゃったすぐ後です」

堂上は片手を上げて方向転換をした。その背中に、広瀬の謝罪の声だけが届いた。

 

 

 

 

 

 

特殊部隊の扉を勢いよく開けた。そんな大きな音を立てたつもりはなかったが、昼休みをのんびりと寛ぎの時間として過ごしていた進藤には、迷惑なものだったようだ。

「今度は誰だぁ?!・・・あ、堂上。笠原には会ったかぁ?さっき、お前を探しに来たぞ」

「・・・会えてないんですが。笠原になんと答えたんですか」

「食堂じゃねーのかってな。なんだ?違ったのか?」

「・・・いえ、それならいいです。小牧たちが居ますから、ちゃんと食事を摂ってから戻るでしょう」

「ん?どした?」

進藤は堂上の様子がいつもと違うと感じたようだ。揶揄うような口調を避けてくれたのは、郁が絡んでいるから心配になったのだろうと思う。

「大丈夫です、なんでもありません」

堂上は自分を落ち着かせるように静かに言って、自席に着いた。

 

 

――もう一度食堂へ行くべきだったか?

 

自問する。正しい選択はどっちだろう、と珍しく悩む自分がいる。

ふと、ある光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

――― ど・ち・ら・に・し・よ・お・か・な! ―――

 

 

食堂でよく見かける、郁のメニュー選択場面だ。

今頃、本日の定食の前で指を左右に動かしているんだろうか・・・

 

――いや、今日はアジフライ一択だな

 

思わず笑みが零れた。

 

笠原郁という人間を観察し始めて、もうすぐ丸二年。事細かな観察日記は、堂上の頭の中にぎっしり詰まっている。

同じ場所で同じ空気を感じて過ごしてきた毎日の中で分かったこと。

『笠原郁は、良くも悪くも単純である』ということ。

その代表的な例として挙げられるのが、メニュー選択の時の郁だ。

 

郁は、物事の選択で迷った時「どちらにしようかな」っと指差し確認しながら決める。

だが、堂上は気付いた。

郁には、迷いながらも「こっちの方がいいな」と思っている時と、「全く決められない」とお手上げ状態の時があるようだ。あまり迷っていない時は「どちらにしようかな」で指が止まった方で決定するが、かなり迷っている時は更に「天の神様の言うとおり」と続くのだ。

この選択方法。神様の意思なんて関係なくて、各自の思いが反映されていることに郁は気付いていない様子。堂上は郁の行動分析をした上で、本当に分かりやすい性格だと心の中で苦笑した。郁が「こっちの方がいいな」と少なからず思っている時は、それを選べるように指を動かしているのだ。(最初に指差した方に止まる)そして、天の神様に聞くと、もう一方に止まる。郁は「神様が言ったから」と素直にそちらを選ぶのだ。

 

 

この単純さに、皆が癒されている。

自分は計算し尽くして行動していると思える堂上には考えられない選択方法ではあるが、郁の天真爛漫な行動には、もしかしたら本当に神様の意思が働いているのかもしれない。

 

 

――俺が何かを選択する時

  神様はどんな答えを用意してくれるんだろうな

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

しばらくして小牧と手塚が事務室に戻って来た。

堂上の心配を汲み取ってくれたようで、小牧の助言で郁は昼食を摂っているという。ほっと一安心だ。

 

「とりあえず食事の心配は無くなったけどさ。なーんか笠原さん、余裕無かったよね。俺たちの話なんか聞いてなくてさ。いきなり『堂上教官は?!』だもん」

「でも、特に用があるって感じでもありませんでしたね」

「そうなんだよねぇ」

 

二人の話を聞きながら、堂上は朝の占いを思い出していた。

やはり郁は、運気上昇のために自分を探してくれているんじゃないか。自惚れかもしれないが、今日だけは許して欲しいと思う。

午後の始業時間となり、堂上班は内勤に入った。もうじき昼食を終えて郁も戻るだろう。やっと顔を合わせられる―――と、ちょっと頬を緩めた時。

 

「堂上、すまんが館内警備の助っ人に入ってくれないか。問題発生らしい」

 

緒形の声が恨めしく感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

館内で起きたのは二件の図書損壊。

一件は子供の仕業で、これは結構あるケースだ。ただ、保護者と共にお説教する段階で、兄弟の多いその子はお遊びに夢中になってしまって話にならない。母親も4人の我が子を落ち着かせるのに骨を折っている様子で、図書隊員にはお手上げ状態で時間がかかってしまったようだ。

問題はもう一件で、こちらはいい歳をしたオジサンの犯行。大人の所業ほど質の悪いものはない。悪いことだと分かっていてどうして犯行に及ぶのか、理解に苦しむ。

 

「ちょっと魔が差しただけだ!」

「おいおい。魔が差したとか言いながら、ちゃっかりカッター所持してんだろ。ヤル気満々じゃねーか!」

調書を取っていたのは青木班だ。オジサンの言い分に溜め息が繋がる。

「これは・・・ただ持ってただけで・・・このグラビア見てたら、思い出したってだけで・・・」

「思い出した時に、迷いは無かったんですか」

それまで黙って聞いていた堂上が口を開いた。

「切り取ってしまいたい、と思った時、あなたの中で二者択一にはならなかったんですか」

「・・・・・」

「衝動的だったと言うのは、それなら仕方がないとこちらが諦めると思っているんでしょう。少なくとも俺は違います。何か行動に移すとき、何も考えずに衝動的になんて有り得ない。自分の言動に責任を持たなければ大人とは言えません。それなら、まず考えるべきだ。何が正しくて、何が正しくないのか。考えて迷って出した答えが、犯行に及ぶに値するものなら仕方がないでしょうね。罰を受ける覚悟も、そこで出来ているってことでしょうから」

淡々と話す堂上を青木たちが見つめていた。何か言いたそうだと感じたが、堂上はスルーして続けた。

「あなたは『天の神様の言うとおり』って知ってますか?子供っぽいかもしれませんが、どちらを選ぶか迷ったら必ず神様に聞くヤツがいます。でもヤツは、どちらを選ぶことになっても、結果が悪くても、神様の所為にはしません。結局選んだのは自分だから、誰かの所為にするんじゃなくて結果の全てを受け入れる、と言います。そういう覚悟が出来ているヤツしか、神様なんかにお伺いしちゃいけないんです。あなたは・・・今日のことを神様にお伺いできますか?」

 

堂上の言葉には圧倒的な存在感があった。それに気圧されたようにオジサンは項垂れて、元々図書隊員の目を盗むことが出来たらやってやろうと思って来ていたことを白状した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、お説教には玄田くんあたりを呼んだ方がいいかと思ったが、まさか堂上くんがあんな立派に説教してくれるとは思ってもみなかったよ」

図書館副館長は嬉し気に「同じような案件があったらお願いするよ」と堂上の肩を叩いて奥へ引き籠ろうとしたが――

 

「お、そう言えば。キミの班の笠原くんにも、今日は助けてもらってるよ」

「え・・・笠原、ですか?」

「今、地下のリクエスト業務でトラブルがあって、手伝ってもらってるそうだ」

「地下ですか。笠原で大丈夫ですか?なんなら俺が―――

「いや、大丈夫だ。助っ人の増員も考えてたんだが、笠原くんが来てくれてから何とか旨く回っていると聞いてる。もし何かあったらお願いするよ」

 

ちょっと残念そうに肩を落とした堂上に、副館長は「過保護な班長だな」と笑みを漏らして、今度こそカウンターの奥へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

館内警備の助っ人は夕方早くに切り上げて、堂上は急いでタスクに戻った。

郁はまだ地下から戻って来てはいなかったが、それは予想通りだ。多分、就業時間ギリギリまで仕事をしなければならないだろうと思っていたし、今更顔が見たいから早く返してくれとお願いするほどの時間でもなかった。

ところが―――残業の時間帯になっても郁が戻らない。痺れを切らせた堂上は、徐に受話器を掴んで内線を繋いだ。珍しく怒りのオーラを見せる堂上に、小牧は片腹を押さえ、手塚は冷や汗を背中に感じていた。

 

「――まだ終わらないからって、どういうことだ!笠原は助っ人だぞ。借り出した隊員は時間通りに所属に戻すのが通例だろ!」

堂上の眉間の皺が一層深くなる。受話器の向こうから漏れ聞こえる声は、早口で何か捲し立てているようだ。

「いいから、今すぐ笠原を地上に戻せ。俺が迎えに行く。併せて、こちらから正式な抗議もさせてもらう。・・・ああ、これはルール違反だからな。対応によっては今後一切、特殊部隊は業務部の応援要請には応じないからそのつもりで!」

幾分乱暴に受話器を置くと、そのまま事務室を出て行った。

 

「ぐはっ!・・・も、ダメ・・・禁断症状、見た感じ・・・ぐふふふ」

 

 

 

 

 

 

 

普段なら、廊下は走るな!と注意を怠らない堂上が、業務部への最短ルートを全速力で走っていた。こんな姿、郁には見せられないなと思いながらも、逆にこれだけの想いがこの数日で募っていたのだと気付いて欲しいような気もする。

堂上は業務部の扉を遠慮せずに勢いよく開け放った。

 

「あわわわ・・・ど、堂上二正!お疲れ様ですっ!先程は失礼いたしました!」

深々と頭を下げられたが、薄い反応で「笠原は?」と問うた。

「はい、今、地下と連絡を・・・あ、戻って来た者がいるようなので聞いてみます!」

二人のやり取りに緊張が走っていたからか、周りからの視線が痛い。

「え・・・帰った?」

素っ頓狂な声が奥から届いた。同時に、その声の主の視線も堂上に向けられる。僅かにホッとした色を見た。

「ど、堂上二正!笠原一士は、地下から直接そちらへ戻ったそうです!」

 

背中を見せる直前の堂上の表情は、苦虫を噛み潰したようなものだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

――くそっ!

  ことごとく会えない

  同じ基地内に居るのに何故だ!!

 

 

「会えない」という言葉が、堂上の中で異様に膨らんで存在した。それはすぐに焦りとなって、特殊部隊への足取りを早くさせた。

 

今度こそ―――この扉の向こうに――――

 

 

「あーーーーぁ」

「こんなことって、あるんだな」

「堂上、お前は泣くなよ!」

タスク隊員の反応を見て、堂上の眉間に最深の皺が寄る。

「まさか・・・」

「今ね、お前を追いかけて出て行ったとこ。今日はそういう日なんだね。諦めて、大人しくここで待ってなよ。きっとすぐに戻って来るよ」

 

壊滅的なタイミングの悪さに、堂上自身も苦笑いが浮かびそうになったが、郁の気持ちを想ったら笑ってはいられない。先程進藤が「お前は泣くな」と言った。

 

――とうとう泣かせちまったか

 

 

仕方ない状況だったと思う反面、郁のために何もしてやれなかった後悔も押し寄せる。

いくら今日の占いが最下位だったからといって、郁を泣かせたかったわけじゃない。出来ることなら運気回復のアイテムの一つとなって、共にいい一日を過ごしたかった。

だから、ここは―――

 

「いや、ここまで来たら何としてでも―――」

 

最後まで言葉にせずに、堂上は事務室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

まずは業務部。次に図書館のバックヤード。

郁が辿りそうなところを考えて行くが、姿は見えない。

防衛部は無いだろうと思ったが、ものは試しで行ってみる。やっぱり居ない。

あとは、訓練場?

探すのを諦めて走り込みでも出たか?

思考が定まらなくなってきた時、胸の内ポケットが僅かに震えた。

 

 

 

>教官、どこ?

 

 

そのメールは、全く姿の見えなかった郁の存在を現実のものとしてくれた。

 

――ああ、居た

 

 

 

堂上の足は自然にどこかへ向いていた。

それはきっと、見えない何かの力が働いていて――――

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

再び図書館への通路に出た。閉館後のそこは無人で、少し冷たい空気を感じる。

もう一歩踏み出そうとした時、声をしゃくり上げるのが聞こえた。

 

――やっと見つけた

 

 

 

 

「笠原っっ!!」

 

しゃがみこんで何やらブツブツと唱えていた郁が、驚くほどの勢いで振り返った。

 

「きょーかん?」

涙声に体が反応した。

「どうした、怪我でもしたのか?!」

へたり込んだ郁の傍に滑り込み、表情を捉えようと覗き込んだ。

「いえ・・・無我夢中で走って、なんだかもう、疲れちゃって・・・」

郁はスマホを片手に握っている。堂上はくすぐったい感覚に襲われた。

「なんでそんな疲れるほど走ったんだ」

「だって・・・教官に全然逢えないからぁ・・・」

答えながら思い出したのか、郁の目に涙が溢れてくる。堂上は呆れたように息を吐いて、郁の頭に手をのせて弾ませた。

 

「今日はずっとすれ違いだったみたいだな。行く先々で、笠原が探してたぞって言われてたんだが、俺もお前の姿は見つけられなかった」

「きょ、きょーかんも、あたしのこと探してくれてたんですか?」

「ん・・・まぁ、な」

視線を泳がして頬を掻いた。探していた、なんてものじゃない。何をしていても郁のことばかり考えている一日だった。

 

「途中で思い出したことがあってな。もしかしたら、それで俺を探してるのかと思ってだな」

「なに、なに?」子供のような仕草に笑いが込み上げる。

「・・・お前、今朝の占いって見たか?」

「あー・・・あたし、寝坊しちゃったんで、見てないんですぅ」

そう言えば、小牧がそんな話をしていたな、と思い出した。

「そ、そうか。それなら、いいんだ。考え過ぎだった」

「え、気になるぅぅ!教えてくださいよぅ!」

「いいから!それよりお前、寝坊ってなんだ。今朝は堂上班で早く集合する約束だっただろうが!」

「あ~~~っ!それなんですよぅ!夢見ちゃったんです。しかも正夢になっちゃいました!」

夢を見ていて寝坊した、なんてマンガみたいな理由だなと思いながらも、郁の止まらない話をしっかり聞いてやる。

 

 

逢いたくて堪らないのに、全然逢えなくて走り回っていた夢。

そしてその通りになった一日。

聞いていて恥ずかしくなるくらい、郁は何度も「逢いたかった」と言ってくれた。

 

 

「三日間逢えなかったから、俺に逢いたかったのか?」

「・・・はい」

「占いは関係なく?」

「だから、占いってなんなんですかっ!?」もはや、逆切れの様子。

「いや、知らないならいいんだが・・・その夢の結末は?」

物語の最後がどういう結末を迎えたのか、純粋に気になった。

 

「えーっと・・・それがですねぇ・・・」

「覚えてないのか?」

「いえ、朝は漠然と『幸せな夢だった』って思ったくらい、いい結末だったんですが・・・今、このシチュエーションになって、はっきり思い出してしまいました」

そう告げて、郁は項垂れた。髪の間から見える耳が、僅かに赤い気がする。

 

「それは、どんなだったんだ?」

俯く郁には見えなかっただろう。堂上の頬は柔らかく笑っていた。

耳を赤くした郁の反応が、もしかしたら勘違いしてもいいのかもしれないと思わせた。

 

「・・・や、恥ずかしくって言えません!」

真っ赤になった頬を両手で挟んで、頭をブンブン振っている。そんなに拒否されると余計に気になるのだが。

ふと郁は、何かに気付いて自身の上着のポケットを探る。

「そうだ、教官。これ、息抜きの証拠です。鞄の中にでも入れておいてください」

差し出した小さな袋の中身は、干支の丑をセラミックに象ったキーホルダー。堂上は思わず、目を丸くしてしまった。

「縁起物ですから、きっと今年一年、教官の災厄を除けてくれます」

「お、おぉ・・・ありがとうな」

堂上の反応を上目遣いで伺っている郁を目の当たりにして、堂上は更に眩暈を覚えた。

「お前・・・凄いな。っていうか、占いって当たるもんだな」

 

 

朝から気にしていた占いのことは、結局空振りだ。郁は内容を知らなかった。

なのに、見事なまでに堂上のラッキーアイテムをプレゼントする郁。

神がかっているとしか思えない。

嗚呼、本当に こんな凄いヤツは他には居ない!

 

 

そうだ――――神様――――

 

俺の選択は間違ってないですよね?

 

 

 

 

 

 

「なあ、笠原。もしかして、夢の最後は―――こう、か?」

 

 

――絶対に正解だ。

今日の俺は占いの通り、何事にも逆らわない。

俺は、俺の思うままに―――

 

 

堂上は郁をふわりと抱き寄せた。

 

 

 

「正解なら、そう言え。違ってたら恥ずかしい事この上ない」

「せ、せ、正解って、言うのも恥ずかしいデス!」

堪らなく可愛くて、郁の頭を抱え込んだ。

キーホルダーの小さな鈴がチリンと鳴った。まるで正解だと告げているようだ。

 

 

 

「じゃあ、正夢になったと言ってくれ」

 

宝物のように抱えた郁は、ぐすんっと鼻を鳴らして息を吸い込んだ。

「夢じゃない」と呟いた言葉と共に吐き出された息は、熱をもって堂上の胸に届いた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「笠原。さっきから気になってたんだが、メールが届いてるんじゃないか?」

郁に握りしめられたスマホが、窮屈そうに光っている。

「ん?・・・あ、柴崎からデス」

堂上と膝を突き合わせる格好で廊下にペタリと座り込んでいる郁は、堂上の腕から抜け出してメール画面を開いた。

 

「・・・えぇ!最下位ぃ?・・・ん?プレゼント?

 ・・・あ、キーホルダー・・・えっ、頼りにな――――

 

 

そこまで読んで真っ赤になる。この反応はどうしたものか。

 

「柴崎から、今日の占いの内容が送られてたのか」

「・・・そうみたいデス」

「で?どうだったんだ。当たってたか?」

 

ニヤリと嗤ったのを見逃さなかった。

 

 

「当たりにしてくださって、ありがとうございました」

 

 

ちょっと涙目になった郁が可愛くて。

堂上はまた心の中で神に問う。

 

 

 

 

 

手を延ばした先は―――――

 

 

 

天の神様の言うとおり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin

 

 

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恋をしていた

愛と希望と勇気の日

comment iconコメント ( 14 )

名古屋は「アベベのべ」

かーっ!
you達早く付き合っちゃいなよ!
付き合わされるこちらが身に持たないわ。教官「思うままに……」なら早く手に入れろぉー!
でもこのままの状態も好きなのよね(結局どうしたいねん)

きゅうううんっ♡でした。

名前: ジョー [Edit] 2017-01-16 20:42

逢いたくて逢いたくて

くぅーっ堪らん!!
堂上さんは、最初は、郁ちゃんの占い12位を救うべく逢おうとしてくれてたのねー❤逢えないすれ違いが想いを育てて、だんだん、自分の逢いたい気持ちが膨れ上がって………最高だわっ!
さあさあ、想いのままに、キーホルダーのお礼にお食事に誘って、想いを告げてしまいましょう🎵

名前: aya@屋根裏部屋 [Edit] 2017-01-17 08:09

最高です!

くぅー、郁たんサイドももちろん、もちろん好きなのですが、やっぱりですねー、教官サイドが大好きです!
教官かわいいなー。めんどくさい時期ですが、かわいいな。
ほんと、最後はハッピーで良かった。
やったね、教官!

名前: kiko [Edit] 2017-01-17 19:18

鬼ごっこですね

 こんばんは。今朝、「天の神様のいうとおり」を読んでから郁ちゃんの「正夢」のお話を読みました。ふたりともことごとくすれ違って...このふたりだからかなぁ。郁ちゃんからのメールで会えてほんと良かった❤堂上さんは、完全に郁ちゃんの禁断症状出てましたし(笑)ふたりだけの時間&空間でのイチャイチャぶりに、ニンマリさせていただきました!神様を味方につける郁ちゃんは、最強の女ですね。すてきなお話、ありがとうございます。今年も悠さんの作品、読みに参ります。よろしくお願いします。

名前: うりまま [Edit] 2017-01-18 00:19

神様

教官が神様に思えます❤ラッキーアイテムであり、郁ちゃんの願いをちゃんと叶えてあげてくれるから

名前: torotan [Edit] 2017-01-18 06:28

ラブリー堂上でしたw

お久しぶりに遊びにきましたw教官めちゃくちゃ占い気にしてるじゃないっすかw(;^ω^)
占いのせいにしつつも禁断症状が抑えられない教官が可愛かったですw私もいい事は信じて悪い事はサラリと忘れますwどちらにしようかなの法則は初めて知りましたw子供に使って騙してやろうwケケケ( ̄ー ̄)

名前: チャコ [Edit] 2017-01-18 11:51

ジョーへ

栃木は「あべべのべの柿の種」と続きます(笑)

気が付いたらフライングでした♪
でもきっと本人たちはこれ以上は・・・ww
蓋の壊れきれない教官と、虫かごの網目が細かい郁ちゃんなのでした(*'▽')

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 10:51

ayaちゃんへ

そうなの。教官、郁ちゃんのためなら、エンヤコラの人だから(笑)
行く先々で郁ちゃんの名前を耳にしてたら、頑張ってるの分かっても顔を見て褒めてやりたくなるよね~♡
夢の内容まで当てたんだから、食事誘うくらい出来そうよね♪
・・・ん?できる、かな?(;'∀')
微妙に思えてきた(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:00

kikoさんへ

おーいえー(*'▽')
どうしても教官sideが書きたくなってしまうのだ(笑)
郁ちゃんの知らない所で、教官はずっと郁ちゃんを想ってくれてるんだぞ!ってついつい力が入っちゃうんだよね~
(*´∀`*)アハハ~
教官もラッキーディになったよね♪

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:06

うりままさんへ

片方だけでもお話は出来上がってるんだけど、見えない所でお互いにどうだったの?って思ったら、教官sideはスラスラと浮かんできて郁ちゃんよりも動いていた!ってなことになってました(笑)
教官の郁ちゃんへの気持ちだと思ってください♡

教官の傍にいるだけで運気上昇!郁ちゃん、幸せ者だぞっ!
ソコカワレ、なのです(*'▽')

今年も頑張ります♪よろしくお願いします♡

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:14

torotanさんへ

(`・ω・´)b
教官、神様!
手を合わせておこう!!

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:15

チャコさんへ

ありがとうございます♡

郁ちゃん絡むと、占いも気になっちゃう♡乙男な教官ですww
こんなに近くにいるのに、とことん逢えなかったらぶち切れるよね💦
ほぼ、八つ当たりですが・・・(笑)

占いは良いことだけ信じましょう!
未来は明るい♪

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-01-20 11:18

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名前: - [Edit] 2017-01-21 11:25

nonorinさんへ

返信遅くなってごめんなさい<(_ _)>

堂郁追いかけっこ(笑)
基地内にいるのに、どうしてこんなに逢えないかなー?ww
書いてて気の毒になりながらも、やっぱり諦めずに追いかけてくれる教官を書きたくて、郁sideの途中から頭の中では教官sideを意識してました♪
でもね、出来る事なら・・・追いかけっこしないで済むように、ちゃんと気持ち伝えてほしいね(笑)

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-02-07 16:27

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