投稿始めて間もない頃、本編となる「はじまりのlaシリーズ」と
柴崎視点の「裏会報シリーズ」でそれぞれ視点を変えながら話が進んでいくという
メンドクサイ設定で始まったこのお話。
漸く、「裏会報シリーズ」の最終回をお届けします。

「はじまり&裏会報」のストーリーは、今作が本当の最終話です。
そして、今作の途中に、過去作『風が吹いている』が丸っと挿入されると話が繋がります♪
リンク貼っときます。

** **

半年間の集大成。
あとがきをガッツリ書きました。
お時間があったらお読みくださいm(__)m







はじまりのla

 

 


 

会員各位様

 

   会員証発行のお知らせ

 

 

 

晩秋の候、会員の皆様におかれましては

日頃より当会の運営にあたり

格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

 

当会は、現会長と副会長の

勝手な想像と見守り対象者への深い愛により

ひっそりと発足されましたが、

別に暗躍されていた糖害被害者の会の強い希望により

二つの会が統合され、今に至ります。

会員数は徐々に増えており、これもひとえに

最強鈍感な対象者と慈悲溢れる会員様の存在のお陰でございます。

改めまして、会員様の愛ある眼差しに感謝すると共に

日頃の焦れ感に対しまして心中お察し申し上げます。

 

 

さてこの度は、今後起こり得るであろう転機に向け

当会員の意識を統一させるべく

以下の新サービスを展開することとなりましたことを

お知らせいたします。

 

 

・会員証の発行

・会則の制定

・新会員向け研修

・不定期研修   etc...

 

尚、現会員の皆様には会員証を発行する際に

会則の内容について説明会を開催致します。

下記、日程をご参照の上ご出席くださいますよう

よろしくお願いいたします。

 

・・・・・

 

 

 

 

「ふぅ」

 

スマホを持ったままの手が膝の上に落ちた。送ったメールに添付した文書。あの笑い仮面は気に入ってくれるだろうか・・・。

やっと―――やっとここまで辿り着いた。感慨一入とはこのことだ。

この文書は少し前から考えていた。いつか来るであろう時を夢見て。いや、絶対に来ると確信して!けれど、予想以上のジレジレを余儀なくされ、もしかしたらもしかしてのお蔵入り?と慌てる一歩手前であったことは、みんなには内緒にしておこう。特に、笑う正論副会長には。

 

視線を移すと入浴準備に取り掛かる笠原。

先週、茨城から帰ってきたばかりの特殊部隊は、現在隊長不在。

隊長だけではない。全国的に見てもナンバーワンと言えるかもしれないスナイパーの進藤一正も、事務室には顔を出すが業務には携わることが出来ない。進藤一正は狙撃手として復活出来るであろうという最終診断を貰えた。あと数ミリ被弾個所がずれていたら・・・そんなタラレバな話が奇跡と言われるくらいのケガだったのだ。みな、神様に感謝せずにはいられなかった。

 

茨城県展に絡んだ抗争と警備を終えて武蔵野に帰還した笠原は、実は精神的ショックを隠しながら業務にあたっている。

堂上班からの報告を受け、私が全面協力をすることになったのは、笠原のことが本当に心配だったから。手塚に抗争時のことを詳しく聞いた時、私は涙が止まらなかった。

 

 

『よく無事に帰ってきてくれたわ』

 

 

堂上教官の伝令としてしっかり働いたこと。

最後まで良化隊に立ち向かう最前線にいたこと。

初めて人に対して引き金を引いたらしいこと。

隊長の覚悟を目の当たりにしたこと。

そして・・・

 

 

思い出しただけで目頭が熱くなる。それを隠しながら、小牧教官からの返信に返信を重ねていると、男子寮の部屋呑み班から笠原について心配する案件が報告された。

手塚が心配しているという。それは黙っていられない。

 

私は笠原にさりげなく声を掛け、入浴のために部屋を共に出た。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

茨城県展から特殊部隊が帰還する―――私はずっとこの日を心待ちにしていた。

 

同室同期の笠原が居ない毎日は、心に穴が開いたように寂しいもので。それを紛らわせるように特殊部隊事務室へ足を運び、彼らが大切に育てている鉢植えを自室に持ち込んだ。

笠原に話しかけるように、カミツレに水を遣る。僅かな期間ではあるが、この花を枯らせてしまったら特殊部隊に良くないことが起きるような気がして、珍しく真剣に世話をしていた。

 

枯らさずに育てられたこと、笠原は褒めてくれるだろうか―――

 

 

逸る気持ちのまま一日の仕事を終え帰寮する。部屋のドアに手をかけると、鍵が開いていた。それだけで嬉しさがこみあげてくる。

 

――笠原!

 

ドアを開けると部屋は薄暗かった。どうやら笠原はベッドで寝ているらしい。

どうしようか考えて、時間も時間だし、食事や入浴などどうするのか相談もしないといけないな、と思い至って部屋の電気を遠慮せずに点けた。

 

「・・ん・・・」

 

眉間に寄った皺はある人を思い出させ、吹き出しそうになるのを堪えた。

眼を開けるだろうかと覗き込んでみると、パチパチと開眼した笠原と目が合った・・・気がする。

 

「お帰りぃ」

 

意識して優しく声をかけた。途端に飛び上がるように体を起こす笠原は、ベッドの上で女の子座りしてボーっとしている。着替えをしながら様子を見る。

 

「カミツレ・・・ありがとね」

「枯れなくて良かったわ」

 

一番に気が付いてくれた。

穏やかに笑った笠原の表情に、改めて無事だったんだと安心した。

 

「大丈夫?疲れてるんでしょ。もう一度寝る?それとも食事に―――

「柴崎っ!!!」

 

話をぶった切って呼ばれ、かなりビックリした。

 

「な、なに?どうしたの」

「あ、あのね。あたし、柴崎に話があるの」

 

笠原の声は緊張していた。どうしたんだろう・・・ちょっと心配になる。

 

「なあに?」

 

私の心配は気付かれないように。笠原のマグにお湯を注いでティーバッグを幾度か揺らすと、久しぶりのいい香りが広がった。少しでも緊張が解けるように・・・

笠原の定位置にマグを置くと、体を重たそうにゆっくりと動きながらテーブルまで降りてきた。またボーっと紅茶の湯気を見つめている。

 

しばらくして、ハッとするように笠原は顔を上げ、私を射抜くように見つめる。

その瞳が潤んでキラキラしてるのを見てたら、とっても綺麗で抱きしめたくなった。

いつもみたいに「百合はやめろー」って叫ばれたい気もするけど。今はやめときましょ。

 

何を語るのか――小首を傾げて伺うと

 

 

 

「ねえ、柴崎―――――

 

 あたしね、やっぱり堂上教官のことが好き」

 

 

 

 

 

 

――は? 何を今さら??

 

 

と思ったのは一瞬で。すぐに笑顔になっている自分を確認できた。

ふふふ。どうしてこんなに嬉しいんだろう!

 

 

「やーっと認めたか」と言って誰かさんみたいに笠原の頭をぐりぐりと撫でる。ちょっと抵抗されたけど、本当に嫌がってはいないみたい。

 

「大丈夫よぉ。あんたが堂上教官のこと好きなことなんて、ずーっと前から知ってたから」

「え、え?ずっと前って、いつからよぉ!」

「んー?たぶん・・・入隊当初?」

 

そう言って笑ってやると「んなわけないじゃん!」って、揶揄われたと思っているみたいだけどさ。ホントよ。あんたは始めっから教官のこと意識してたんだって。

 

「でも、いっつも仲が悪いって言われてたよ?ダメダメな部下だったでしょ?ドロップキックはお見舞いするし、失敗してビンタもされて。反抗しかしてなかったよ」

「それでもあんたは、教官の背中を追ってきたんじゃない。それは、追いたい背中だったからでしょ?追いかけるうちに、本当に好きになってたってことよ」

 

自分のことなのに分からないって感じなのね。かなり真剣に悩んだ後、思い出したように私に向かって指を指してきた。

 

「柴崎、教官のこと好きって言ってたじゃん」

「それねぇ、随分むかしで今更って感じなんだけどー。好きって、そういう意味じゃなくてね、なんて言うかなぁ・・・憧れ?とか、単純にいいなーって感じ?」

「んー、難しい」

「とにかく、そんな悩むほどの気持ちじゃなかったし、ついでに言えば、ふざけて教官に直接カマかけてみたけど反応悪くてさぁ。この美人に言い寄られても、躊躇せずに振るのよ?信じられないわよ!どんな女がお好みなのよって聞きたいわっ!」

「・・・どんな ひと なの かな?」

 

 

―――もう!なんなの!!可愛すぎるんだけど?

 

   教官、先に抱きしめてもイイデスカ?

 

 

 

「そんなの、知らないわよ。自分で聞きなさーい!」

 

悔しいから正解なんて教えてやるものか!

 

 

 

いつか・・・この子は教官のモノになる。これは希望じゃない、確定事項。

そのいつか来る幸せな日々に、笠原を笑顔で送り出せるように。

今は私だけの笠原でいて欲しい―――なんて。ワガママかなぁ・・・

 

 

笠原が、やっと自分の気持ちに気付いて。

それを一番に私に告白してくれたこと。

嬉し過ぎて涙が出る。

 

笠原のはじまりの一歩を祝福したい――

私はずっと、笠原のそんな親友でいたいから―――

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

※ここで一話完結「風が吹いている」をお読みになると話が繋がります。

 

 

 

今朝の笠原は清々しい顔をしていた。

昨日、教官と秘密の何かがあったみたい。私が情報収集して差し上げたことが役にたったのかしら?あとで何か献上されるかしら?

 

なーんて。図々しいこと考えてたら、食堂の入り口で小牧教官と手塚に捕まった。

長身の二人が揃って、にこやかに待っててくれる。

これって役得よねー。羨ましいだろ、コノヤロー!

 

「お疲れさまです。これからお昼ですか?」

「お疲れ!柴崎さんも昼休憩?」

「はい。ご一緒してよろしいですか?」

「もちろん♪」

 

小牧教官との掛け合いは、表面上はスマートな会話に見えるかもしれないけど、実は裏では腹の探り合い!どんな新情報を持っているのか、お互いに牽制しながら小出しのタイミングを計る。

(今は未だ地下組織の)見守ろう会の会長である私と、副会長である小牧教官は、笠原と堂上教官の恋の行方を一番近くで監視する使命を担っている。―――誰に命令されたわけでもないが。

 

「ところで笠原と教官は?」

「今日はカウンセリングの日だ」

「あー、そうだったわね。今朝の様子が良かったから、忘れてたわ」

「ん、やっぱり!今日の笠原さんは、以前の彼女って感じだったよね」

 

小牧教官の口ぶりだと、この二人も笠原復調の理由は知らないみたいね。

やっぱり、堂上教官と二人きりで何かあったってことなのねぇ・・・。

 

「今日の様子が本物なら、もう心配いらないかな?」

「何か吹っ切れたようにも見えましたね」

「私もそう感じたわ。大丈夫じゃないでしょうか。何しろ、笠原には教官がついてますからねー」

「・・・なんだそれ」

 

手塚が不満気な声を聴かせた時だった。

食堂の入り口に笠原と教官が到着したのが見えた。嬉しそうに笠原が笑っているのは、今日のメニューにアジフライがあったからだろう。その表情をそれはもう穏やかに見つめる教官の眼が・・・今までにないくらい、男の眼だった。

 

「あ・・・」

 

思わず漏れた声に反応したのは手塚で。「どうした」と小さく聞いてくる。

 

「あ、ううん。なんでもない・・・けど。小牧教官?」

「ん?なあに?」

「堂上教官、もしかして認めました?」

 

手塚が居るから、微妙に言葉を端折って聞いてみたんだけど。流石、小牧教官。氷の魔王。笑う正論。・・・ん。関係ないか。とにかく、私の聞きたいことが分かったみたい。

にっこり小牧スマイルを見せてから「多分、正解」と嬉しそうに答えてくれた。

 

 

――そうか

  教官も笠原への気持ちに蓋をするのをやめたのね

 

「それは良かったです」

「うん。そうだね」

 

 

二人がトレイを持って和やかに話しながらやってくる。

今までと変わらない姿なのに、纏う空気が違ってる。それに周りも気付いてきたみたい。ちょっと視線の妖しいものも幾つか見つけてしまった。

瞬時に小牧教官とアイコンタクトを取って、出来る限りの牽制を外へ向ける。

 

「堂上、笠原さん!こっち!」

「あ、小牧教官!」

 

私たちに気付いた笠原が、その瞬発力でもって駆け出そうとした時、手前のテーブルにいた隊員が食事を終えて立ち上がった。笠原のトレイを持つ腕にぶつかる寸前のところで、教官が手を伸ばして大参事を回避した。

咄嗟のことだろうに、堂上教官はその行動を読んでいたみたいで。右手に自分のトレイ、左手に笠原のトレイ。頭の高さまで器用に持ち上げて難を凌ぐと、笠原にお小言を忘れない。笠原はトレイを受け取りながらデカい体を小さくして、子供のように「ごめんなさぁい」と謝った。可愛い謝罪を受け取った合図で、教官の空いた手は笠原の頭に乗る。

 

 

 

――嗚呼、甘い!

 

 

 

気が付けば食堂の至る所から皆の気持ちがダダ漏れていた。

今、私の気持ちもダダ漏れたわね。手塚がキョトンとしてるわよ!

 

 

「ぷぷっ・・・柴崎さん・・・あのお便り、早く配布したら?」

「む・・・そうですね。被害は拡大の一途ですからね!」

 

更に手塚を混乱させる会話をすると、笠原と教官がテーブルに到着。

笠原の頬がほんのり染まっているのが見えた。

 

「カウンセリングはどうだったの?」

「もう大丈夫だよ!心配かけてごめんね」

「おいこら。まだ完全ってわけじゃないだろ」

「えー!だってぇ。先生も『いい感じ』って言ってくださったじゃないですかぁ」

 

ぷっくり膨れた笠原の頬を潰すのは、教官の好きなシチュだ。

「可愛いだけだぞ」って、どんだけ甘いんだ!!

 

「昨日まで眠れなかったり、食欲なかったりしてたヤツが、よく言うな」

「むー!手塚、ムカつく」

「あら。手塚に喧嘩売れるようになったなら、大丈夫なんじゃないですか、教官?」

「柴崎、お前まで。笠原、手塚の言う通りだぞ。過信はするな」

「・・・へーい」

「お前な、それは上官に対する返事じゃないだろ」

「・・・手塚、表出る?」

「うぷぷ・・・ホントに平常運転だね」

 

小牧教官の上戸ポイントいただきました。

この末っ子二人は、いつまで経っても兄弟喧嘩が絶えない。

タスクの皆さんも大変ね。(可愛すぎて)

 

「ま、その分なら毎週カウンセリング受けなくても大丈夫そうじゃない?」

「・・・そう、かな?」

今度はちゃんと教官の様子を伺うのね。

「ん。大丈夫だろ」

「へへ・・いいって♪」

「それじゃあ、そろそろ帰還の祝杯あげません?」

「お!いいね~♪」

「笠原の復活もお祝いね!」

「わーい!」

「なーにが復活だ」

「手塚!妬かない、妬かない」

 

また小牧教官が上戸に入ってしまって話にならない。

溜め息を零したのは堂上教官だ。

 

「ほら、笠原。早く食え」

「あ、はーい!」

 

丁寧ないただきますをして食べ始める笠原をじっと観察する教官。

ちょっと食欲を失くしていたから心配してたのよね。去年、この子は摂食障害にもなったから。あれから食に関しては、堂上教官の眼が光ってたと感じる。

一口、二口、と食べ進める笠原を見つめながら、だんだんと表情が和らいだ教官は、自分の食事に箸をのばした。

 

お茶を啜りながら、私は小さく息を吐く。

これから先、笠原はこうやって守られていくんだ。

いつも近くで、優しく、強く、時に厳しく。

その決意をしてくれた教官に感謝する。

笠原には心からのお祝いを伝えたい。

 

 

もう一口、お茶を啜って。

目の前で教官が、自分のデザートを笠原に横流しするところを目撃した。

もう幾度も見た光景を目の前にして、私の思考は固まった。

 

 

 

 

 

 

 

――あれ?

 

  いや、まて

 

 

 

  これって・・・

 

 

 

 

  付き合ってないのよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

横から盛大に吹き出す小牧教官の堪える笑いが聴こえてきた。

そっと顔をそちらに向ける。

目が合った瞬間、小牧教官が涙目になって腹を抱え始めた。

 

 

 

――え?またダダ漏れてました?

 

  こりゃ失敬

 

 

 

 

再び目の前の笠原と堂上教官に視線を戻すと、甲斐甲斐しく世話をする教官に照れる笠原の可愛いこと!!――って、ホントに、ホンットに!!

 

 

 

「どんだけよ」

 

 

溜め息と共に吐き捨てた言葉は、食堂のあちこちから賛同の空気を贈られた。

お褒めいただき光栄です。

忘れてました、このバカップル。

まだ付き合ってませんね。

各々が自分の気持ちを認めただけでした。

 

たったそれだけのことなのに、ものすごく進展した気がしてました。

いやー、参りました。これぞバカップルマジック!

 

 

 

「ふ・・・ふふふ・・・」

 

 

頬杖つきながら二人を眺めて、時折笑ってみた。

亀の歩みのこの二人に、まだまだ先もジレジレさせられるのね。

それも楽しみだわね。

 

何より、笠原は当分、私の独占市場でOKね?

ぐふっ・・・ふふふふふふ・・・

 

悔しかったら私から奪ってごらんなさい、堂上教官!

受けて立つっ!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ちょっと!!笠原が怪我したって、ホントなのっ!?」

 

 

息を切らせて特殊部隊の事務室に飛び込むと、みなさんが慌てた様子もなく「おう!お疲れー」なんて呑気に挨拶してくる。

余裕のない態度で堂上班に目を遣ると、手塚が困った顔で私を呼んだ。

 

「別に慌てなくてもいいってメールしただろうが」

「だって!怪我したから迎えにきてやってくれって・・・動けない怪我なのかと心配になって」

「大丈夫だよ、柴崎さん。もうすぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」

「今、堂上二正と残りの仕事してるんだ。戻って日報上げたら帰寮できる」

「仕事って・・・」

 

もう何がなんだかわかんない!怪我したのに、仕事してるの?

ホントに大丈夫なの??

気持ちを落ち着けようと笠原の椅子に座って待ちの姿勢になった時、事務室に堂上教官と笠原が入ってきた。教官に肩を貸してもらいながらの、なんとも可笑しな歩き方で。

 

「笠原~!びっくりしたわよ~~!」

「あ~!柴崎、お疲れ~♪」

「お疲れ~ じゃないわよ!一体どうしたっていうの」

「えへへー。実はね・・・」

 

 

笠原は、特殊部隊の資料室の整理で梯子を上ることになったのだが、移動式の梯子を適当な棚にかけて数段上った所で梯子が棚から外れ、梯子諸共床に落ちた――という。

 

「お尻からね、どーんっと行っちゃって。もう痛くて痛くて」

「受け身が上手かったから今はこれくらいで済んでるが、多分明日はもっと動けなくなると思うぞ」

 

堂上教官は呆れたように状況説明を付け足ししてくれた。

笠原はほぼ全身に湿布を貼っているらしい。近付くと特有の匂いがぷ~んとした。

 

「医務室でいっぱい湿布もらったから。柴崎ぃ、張り替え手伝ってねぇ」

「はいはい。お安い御用よ。背中も、お尻も、太腿も。何なら、その平たい胸にも貼ってあげるわよ」

「えーん!ひどーい!そこまで言わなくてもいいじゃーん!」

 

いつもの寮の部屋みたいにじゃれ合って、ハタと気付く。

ここ、タスク部屋・・・。

 

そっと堂上教官に視線を移すと、耳を赤くして俯き加減。

 

――教官、想像しましたね?

 

 

ニヤリと笑ったら、教官の眉間の皺が5割増し。

何となく勝負に勝った気がする。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

笠原の日報を待って、一緒に事務室を出た。

重心を低く、ゆっくりと進むその姿に笑いが込み上げる。

 

「もう!笑わないでよぅ!」

「ん、ごめんごめん。でも、なんか可愛くてー」

 

笠原はヒーヒー言いながら一歩ずつ進んだ。

階段の手前まで来て、呼吸を整える。かなりの覚悟をしないと足が出ないようだ。

さあ、行くぞ!と右足を出そうとした時、私の横を風が通り過ぎて、目の前の笠原をサッと抱え上げた。

 

「きゃっ!・・・きょーかん!?」

 

堂上教官が笠原をお姫様抱っこで階段を降り始めた。

 

「ほら、柴崎。急いで帰るぞ。俺はまだ仕事が残ってんだ」

「え、じゃあ、いいですって!笠原、歩いて帰りますから!」

「アホウ!俺が負ぶって帰った方が何倍も速いわっ!」

 

仰る通りです。このままだと部屋に着くのは何時になることやらって感じでした。

とっても助かりまーす!

 

 

 

特殊部隊庁舎を出る手前で、教官は笠原を降ろして向きを変えた。

今度はおんぶ。これも慣れたものですね。

 

「・・・なんか、いつもと違うからぁ」

「ほら、早くしろ!今更だ、何も考えるな!!」

 

くくく・・・それって、自分に言い聞かせてません?

 

「じゃあ、お言葉に甘えて・・・失礼しまぁす」

「ん」

 

 

私の目の前で軽々と笠原を負ぶって、教官は「行くぞ」って歩き出した。

荷物持ちの私は少し後から続いていく。

教官なら、笠原を負ぶってることなんてどうってことないはず。だけど、歩調はゆっくり目だった。きっと、私に合わせてくれてるのね。

 

 

ふと、顔を上げて目の前の二人を見つめた。

 

笠原の背中――私も憧れて、守りたいと思う背中。

その笠原が、ずっと追いかけた背中に守られている。

 

重なった二人の背中を見ていたら、泣けてきた。

 

 

 

「きょーかん?」

 

「ん?」

 

 

 

 

笠原は教官の耳元で何か囁く。

教官は耳を赤くした。

 

 

そんな甘い光景も、今は涙で滲む。

 

 

 

そっと立ち止まり、スマホを取り出す。

この二人の背中を写真に収めたい。

いつか――

私だけが見た、今日のことを話してあげたい。

 

 

 

 

 

あなたたちの はじまりの瞬間が

 

今、ここにあったことを――――

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

今日のまとめ

 

 

 

みなさん、お疲れ様でした!

地下組織の見守る会はこれにて解散!

 

そして新たに

「生温く見守ろうの会」として

笠原と堂上教官を末永―く観察していきまーす!

 

 

まだ付き合ってません!

このジレ感が堪んないですねー

 

うふふ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はしまりのla & 裏会報 シリーズ 【完】

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

あとがき

 

 

本当のラストです。

この二つのシリーズは、第一話の投稿が今年の115日でした。

奇しくも「カミツレデートの日」だったんですね。

調べてみて驚きました。

それからちょうど半年・・・。

各シリーズ18話、合わせて36話で県展後まで。

当初の目標の一つはクリアできました。

 

こだわりも沢山ありました。

「はじまりのla」は各話にテーマ曲があって、そのタイトルを使うこと。

そして出来るだけ糖度高めに、ダダ漏れ度が強くなっていくように()

「裏会報」は、柴崎目線で。「はじまりのシリーズ」の行間を埋められるように。

その中で、特殊部隊からの報告は、短編をいくつかセットすること・・・などなど。

自分ではこだわり抜いた作品なので、思い入れは半端ないです。

どのお話も大好きです。

 

でも、一番思い入れが強いのは、やっぱり「積極」です。

このお話が出来て、堂郁の気持ちの変化を書きやすくなりました。

ギリギリ付き合ってません!的な面白みも出てきて。

 

今回の最終話。

柴崎目線は最初っから泣けました。

県展のお話を書き終えたばかりだから、余計かもしれません。

「さぁ鐘を鳴らせ」は堂郁というより、水戸の防衛部との絆の話にしたくて。

郁ちゃんが野々宮ちゃんを励ましながら、成長した姿を見せたかった。

そこ、郁ちゃんの図書隊員としての成長がないと、教官との甘い話が盛り上がらない!と勝手に思っていたので。

 

自己満足はできました()

ちゃんと成長した郁ちゃんになってると思います。

 

 

 

さあ。ジレジレ期はまだ続いています()

過去作「風が吹いている」が、最終話とリンクしています。

こうして過去作と時系列が繋がった・・・やっとだ!!

完成したって感じが堪りません!

 

本当にありがとうございました。

また、新作でお会いしましょう

あ、その前に「父になる」の最終回を!!

裏会報最終話の最後のシーンで柴崎が撮った写真を絡めてみます。

 

 

このシリーズを好きと言ってくれた皆様に

愛を込めて。。。♡♡♡

 

2016.7.12.     悠@c.you

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comment iconコメント ( 2 )

【泣】

・・・っうっ・っうっひっくっうえ~ん!!

このシリーズが終わったことに泣いている私です(涙)
もっとよみた~~~いッ!!!

この物語を読めたことに心より感謝を込めて…

名前: kana [Edit] 2017-05-06 22:10

kanaさんへ

ありがとうございますm(__)m

県展までと決めてたお話だったのですが、何度も行き詰りながら書き切れた思い出深いシリーズです。
原作逸脱もあったのに、皆さんに喜んでもらえて嬉しいです!

名前: 悠@youBB [Edit] 2017-05-10 17:54

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