奥多摩から帰還する前日夜のお話。。。
無駄に甘くしてみた(笑)






きらきらひかる

 

 

 

 

 

ずっと雨だった奥多摩訓練も、明日を残すのみとなった。

 

ヘリからの降下訓練の時、教官が私を助けて怪我をして。

大したことないって言うけど、ちょっと心配。

確かに動きとかは普段と変わらないんだけど。

時々…気になって教官を探すと、離れた所にいても目が合うの。

 

――ドキンッ!

 

私のAカップ、鳴りっぱなしだよ。

だって教官の視線が――熱くて。

何だろう…心配とかじゃない。熱の籠った視線を浴びると、私は体中が熱くなる気がする。

 

それは教官が怪我をして医務室に運ばれ、目を覚ました後からだったと思う。

言動の一つ一つに熱を帯びているようで、私はどうしたらいいか分からなかった。

 

――お前じゃなきゃ嫌だ

 

あの時、教官はそう言ってくれた。

小牧教官と、付き添いを代わろうかと思ったときだった。

思えばあの時からこのAカップは鳴っていたのかもしれない。

 

このまま基地へ帰るの、大丈夫かな?

ドキドキして顔も見られないかもしれないな・・・

 

 

宿泊棟の部屋の窓から夜空を見上げたら、満天の星空が見えた。

「晴れてる!」

思わず部屋から飛び出し、屋上へ向かった。

 

 

 

◆◆

 

 

階段を昇って屋上へ出る扉を開けようと、ノブに手をかけた時に違和感があった。

ドアがちゃんと閉まってない。

そっと音が立たないようにドアを開けると、前方に黒い影が見えた。

 

星だけが輝く夜空の下。電灯は一つもない屋上。

真っ暗闇の中に黒い影。

なのに、それが人の形で、私に背中を向けていて、それは私が一番よく知っている背中だと言う事が一目見て分かった。

 

――どんだけだ、私

 

 

 

 

「きょーかん!」

 

振り向いた――と思う。暗くてよくわからない。

 

「笠原か」

「はい。どうしたんですか?」

「部屋の窓から星が見えたから来てみたんだ。やっと晴れたな」

「ふふ・・・笠原も同じです。晴れるなら昼間が良かったですけどねぇ」

 

教官の隣りに並んだら、ふわっと温かな空気が私を包んでくれた。

 

「星空見えて、嬉しくて飛び出してきたな」

「・・・なんでもお見通しですね」

「そんな恰好で・・・風邪ひくぞ」

 

私の身体を包んでくれたのが、教官の上着だってやっと気が付いた。

暗闇に目が慣れるのも早くなった気がする。

 

「お前、風呂上りだろ」

「そ、そんなことまでお見通しですかっ!」

 

慌てて教官の方を向いたら、いつもの大きな手が頭に乗って。

二度そこで跳ねた後、するっと耳に降りて包んでくれる。

 

――あ、また言われちゃう

 

「耳、冷えてるぞ」

 

教官がそう言って耳を包みながら温めてくれるの、好き。

 

「ちゃんと髪乾かさないと風邪ひくって、いつも言ってるだろ」

 

耳に触る髪を後ろに流しながら、外気に晒された耳だけを手で包む。

自分の呼吸音しか聴こえなくなって。

じわじわと温かさが広がると、全身が真っ赤になってるのに気付く。

これだけで、私の体温は上がる。気分も、この気持ちも―――

 

「笠原――」

 

あ、また。あの時と一緒だ。

 

「きょーかん、静かだから聴こえますよ」

「ん。そうか」

 

優しく笑ってくれた。

 

「お前が無事で良かった」

「きょーかんも、大したことなくて良かったです」

「お前の所為じゃないから、気にするな」

「・・・はい」

 

そんなこと言われたら、また涙が出ちゃいます。

目をギュッて閉じたら、耳を包んでくれてた掌が離れて―――

 

 

 

――きょーかん!

 

 

「目ぇ瞑ってたら星が見えないだろ」

 

クスリと笑った声に反応してそっと瞼を上げると、そこには教官の揺れる瞳。

 

――教官、何か不安なことがあるの?

 

小首を傾げると、頭を撫でてくれる。

 

 

「大丈夫、なんでもない」

 

 

なんでもない、と言いながら、独りを怖がる子供みたいに私の手を取って離さない。

 

教官はズルイ。

本心は隠して、そうやっていつも私の気持ちを翻弄する。

私が慌てるのを見越してる。

そして落ち着かせようと、更に強く手を握りしめてくれる。

――ほら。素直に安心しちゃう私もどうよ?

 

完全に教官の掌で転がされてる感が否めない。

ちょっと悔しい。悔しいけど―――

 

そうされるのが、私は 好き。

 

 

 

 

 

――好き

 

 

 

 

また教官が強く手を握りしめる。

それはまるで「わかってる」と言っているようで。

 

私は都合の良い解釈をして、強く握り返す。

 

 

 

「このままだと勝負になるな」

握った手を見せて、教官が言う。

「私もそう思ってました。負ける気しませんもん」

返事をすると「ははっ!」と笑った。

 

「お前も俺の心が読めるようになったか」

「えっ!読めてましたか?大丈夫ですか、私なんかが読んでしまって」

 

ちょっと自虐的にふざけて言ってみただけなんだけど。

 

 

 

 

「他人に心を読まれるなら――お前がいい」

 

 

 

教官も何気なく言ったのかもしれない。

でも、その言葉は凄く嬉しくて。

泣きそうなくらい嬉しくて。

 

再び強く握り返すと、教官は一度手を開いて力を逃がしてから

新たな力で私の手を握りしめた。

 

 

 

二人で夜空を見上げる。

 

 

 

 

 

きっと瞳には キラキラひかる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【つづく】

→本編「白日 2」へ

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第9号 花咲く前

笠原、あのね・・・

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